第121話 モフモフは世界を救う
*
「はい、お疲れ様でしたー。」
ついに立ち上がって熱弁をする領主さんに一礼し、席を立つリュースティア。
さすがに付き合いきれん。
「ちょっ、待て待て待て!」
拳を握りしめ、どこか恍惚とした表情で固まっていた領主さんはリュースティアが席を立つ音で我に返ったのか急いで止めてきた。
もちろん腕を掴むという物理的な方法で。
「放してくれません?いくら無職でも変態の夢物語りに付き合うほど暇じゃないんで。」
「なっ!き、貴様、領主である私を変態呼ばわりするのか⁉」
おお、変態と呼ばれることには抵抗があるのか。
うちのディーネの同類じゃなくて良かったよ。
いくら領主さんでも変態って呼ばれて喜ぶようなやつなら問答無用で風神の錆にしてたとこだったわ。
「じゃあなんて言えば良いんです?獣人をモフモフしたいとか変態の発言意外にないと思うんですけど。つか俺に領主の座を引き継いでほしいって話じゃなかったんですか?それとこれに何の関係があんのか全くわかんないんすけど。」
あーあ、最初のころの重苦しい雰囲気は何だったんだ。
シリアス展開来たとか思ってたのにさ。
シリアスじゃなくてシリアルでした、みたいなノリか?
こっちだってそう暇じゃなんだけどなぁ。
「何を言っている?関係大ありに決まっているではないか。リュースティアは我らが同士であろう?」
おっと、そうきたか。
我らが同士って全く心あたりがない。
それに何がどうやったらモフモフと領主がつながるのかわからない。
「ヒトチガイデハナイデショウカ。」
とにかく!
めんどくさそうなことは関わり合いにならないことが一番。
「何を言うかリュースティア!お主がしばらく前に狼人族の子を養子にしたと聞いたぞ。つまりお主もモフモフしたい派、そうなのだろう?」
あー、スピネルのことか。
確かに養子にはしたけどスピネルの場合は親のこととかいろいろあって仕方がなかった部分が強いんだけどな。
なんにせよあの時のスピネルは放っておけるような状態じゃなかったし。
別にモフモフしたかったから養子にしたわけじゃない。
というかモフモフしたい派ってなんだよ⁉
初めて聞いたわ、そんな派閥。
「リュースティアよ。恥じることも隠す必要もないぞ。我らは同士なのだからな。」
リュースティアの無言をどうとらえたのかは知らないが勝手なことを言い出した。
確かにモフモフはいい。
何と言っても癒される。
だがあくまでモフモフするのは動物に限る。
獣人をモフモフするってなんか絵的に犯罪くさいよね?
それがスピネルくらいの年齢の子ならなおさらだ。
もしかして領主さん、そう言うのに興奮するタチか?
「今とても失礼なことを考えているだろう?」
おっと、勘の鋭いことで。
けど別に取り繕う気もないしいいんだけどね。
「いいか?私はなにもモフモフ生活をしたいがために領主の座を譲ろうというわけではないのだ。皆が平和に暮らすため、より強く、より優しい人材が必要なのだ。もちろん私がやれればいいのだが私も老いた。若いものに任せるのも悪くないだろう。」
おい、ちらっと本音出てるぞ。
絶対あれじゃん。
隠居生活楽しみたいだけじゃん。
まぁ確かに今まで大変だっただろうし?
静かな隠居生活を勝ち取るだけの実績はあると思う。
だがそれを俺に押し付けるのであれば話しは別だ。
定年退職の年齢をあげてもらおう。
「なら側近の人とか王都から有能な人材を連れてくるとかすればいいんじゃないですか?世襲制だろうと養子にすれば問題ないはずでしょ。それに自分が望むなら引退する前にルール作っちゃえばいいと思いますけど。」
「それではダメだ。王国の人間は人こそがもっとも賢く、上に立つべきだという考えを改める気はない。つまり多種族を下に見て争うか使役することしか考えられぬのだよ。争いは損害しか産み出さん。ならば手を取り合うのが最善策だとは思わないか?多種族の文化、技術、心が踊る。」
おーい。
なんかまた真剣な感じになってね?
さすがにもう騙されないからね?
どうせオチは下らないことなんだろ?
いいよ、存分にボケてくれ。
俺はもう心構えができている。
「つまり何が言いたいかというと?」
「我々人間は多種族を認め、受け入れるべきなのだ。それがこの世界から争いを失くす第一歩となろう。」
おいおいおい。
そこはボケてくれよ、、、、、。
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