第120話 ろくでもない領主

「リュースティア、お主の目にこの町はどう映る?」


唐突にそんなことを聞かれた。


「活気はあるしみんなそれなりに豊な暮らしをしてる。いい町だと思いますけど。」


率直に、自分が感じたままの感想を述べる。

事実この町は辺境の地にあるような寂れた空気はない。

辺境の地らしく物流はあまりよくはないがそれでもここの住民達はそれを言い訳にせず、さまざまな工夫をこらし強く生きている。

そのおかげなのかこの街に暮らす人の顔は明るく希望に満ちている。

そして少なからずこの地を誇りに思っているであろうことがうかがえる。

だから領主さんもそんなこの町と住民たちをを誇りに思っていたとしてもおかしくはない。

むしろそう思っているものだと勝手に思っていた。

そう思っていたからこそ領主さんの苦虫を噛み潰したかのような、なんとも言えない顔を見て言葉を失った。


「俺なんか変なこといいました?」


「そうではない。ただ、お主の目からはそう見えているかと思うとな。」


言葉の歯切れがわるい。

事実この街はなかなか暮らしやすいと思うのだが見えない一面というものがあるのだろうか?

たしかに俺はリズたちっていうコネがあったから街に入るのも仕事を見つけ生活するのにも困らなかった。

屋敷も比較的貴族街にちかく衛兵や騎士の巡回が多い場所だったと思う。


だからか?

俺では気が付けなかった事がこの街のどこかにあるという事なのか?

もしかするとこれはあれか。

えっと、都市の裏側ってやつ。

一見して平和そうに見える町でも裏では違法行為が横行してたりするみたいな?


うん。

これはスピネルの夜歩きは禁止に値する出来事だな。

というかもし本当にそうなら日中でも一人で出歩くのは危険か?

常に俺のそばに置いておくべきかもしれない。


とかなんとか色々考えてはみたが後半はただの親バカな思考に行き着いた。

今ではすっかりパパである。

しかもそこらのパパよりも過保護な上、強いときた。

周りからしたらありがた迷惑である。


「お主が想像しているような闇はこの街にはない。いても小悪党よ。大したことはできん。」


まるで心を読んだかのようにそんなことを言ってくる。

領主さんが町は安全だと言えばそうなのだろう。

だが、だからと言ってスピネルに安全策をこうじないかといわれればそうではないが。


「ならなにが問題なんです?」


ため息とともにリュースティアは聞く。

この街に悪党と呼べる悪党がいない。

つまり問題は治安的な問題ではなくそれ以外の問題ということになる。

貴族間の問題だとしてもこんな辺境の土地が欲しい者などいない。

物流がすくないとはいえ領民が困るほど少ないというわけではない。

ならば何が問題なのか?


はぁ。

何となく先が見えた気がする。

たぶんこれ、そんなに真剣に考えなくていいやつだ。

そして俺の想像が間違っていなければ個人的な話になる。

はぁ、帰りたくなってきた。




「何が問題だと⁉わかり切った事ではないか!この町には亜人族が少なすぎる。いやこの町だけではない、これはメウ王国全体に言えることだ。亜人族の中でも獣人を奴隷として使役し、鱗族や耳族、巨人族とは戦争をする。言葉を交わせるもの同士、そんな関係おかしいとは思わないか!?」


拳を掲げ熱弁を繰り広げる領主さん。

その目は尋常ならざる輝きを放っていた。


「まぁ確かにそれは思うところはありますけど。」


「そうだ!皆が思っていることだ。だがなぜ口にしない?自らの利ばかりを考えて今の格差ある立場に甘んじる。それは上の者も下の者も同じだ。しかしそれではいかんのだ。」



リュースティアの発言を肯定ととらえたのか領主しんの話しはさらに熱を帯びる。

この人は世界の平等を成し遂げようとでも言うのか?

皆が平等な扱いを受けることは不可能だ。

確かに奴隷制度や戦争は必要ないと思う。

けど不平等さは少なからずなくてはならないこの世の真理だと思う。

人類は平等を受け入れられるようにはできていない。

その事がわからない領主さんだとは思わないんだが?

もしかして本当の意味とかあんのかな?


目の輝きが怖すぎる。

街中であったらただの変質者。

つかこれたぶんほんとにろくでもないことだわ。


「えっと、それで本音は?」


聞かなくてもよくね?

そうは思ったが聞かずにこの場を退出する方法が思いつかなかった。

仕方なく尋ねてみたが領主さんから得られた答えは予想の斜め上を行くものだった。




「私は人たちをモフモフしたいのだ!」






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