第119話 ティータイムのお供
「ふむ、まずどこからか話したものか。」
領主さんの話を聞くと決め、すぐに襟元を正したリュースティアだったが領主さんはなかなか話を切り出さない。
言いにくい内容なのかどう話すかを考えているのかはわからないがメイドを呼びお茶の準備を始めさせた。
端からみればそう見えるかもしれない。
だが聞き耳スキルを昇華させたリュースティアには領主さんの本心が聞こえてしまう。
(あーもう神経使ったわ~。けぇきでも食べないとやってられないよね。てかリュースティア落ち着きすぎじゃない?俺がこんなに神経すり減らしてるのにないわ~。甘いものの一つでもくれないかな。)
ただ単に疲れただけらしい。
この分だと話に入るのはだいぶ先になりそうだ。
けど俺としては早く終わらせたいし少しでもお金を稼がないとあの屋敷を売らないといけなくなる。
「あの、俺ちょっとやることとか色々あってなるべく手短にすましてほしいんすけど。」
ダメもとで提案してみる。
ギロリ。
うわ、こわっ。
無言の圧。
それに領主さんの威圧。
てかなんでこういう時だけ心も閉ざしてんだよ!
ますます怖いじゃんか。
「はぁ、ならいいです。ケーキ食べながらでもいいんで話してくれません?話してくれるなら俺の秘蔵のケーキだすんで。」
こうなればケーキでつろう。
ふっふふ。
領主さんがケーキに弱いとこなど百も承知なのだ。
これでダメなら帰ろう。
領主さんとは多少気まずくなるかもしれないがあとでお菓子の詰め合わせでも贈っておけば大丈夫だろう。
お店を営業できないからケーキならそれこそ腐るほどある。
まぁストレージに入れておけば腐らないんだけどね。
あーあ、これが売れたら借金返済も楽になるのになぁ。
「し、仕方がない。リュースティアがそこまで言うならその秘蔵のけぇきとやらを食べながら話をしてやろうではないか。」
はいつれた。
イージーすぎるだろ、この領主。
「まず、私には世継ぎがいないのだ。この国の法では家督は長男が次ぐことになっておる。我がメーゾル家の領主という立場もそうだ。その結果長男である私が領主の座を引き継ぎ弟は婿養子に行ったのだ。」
うん、そこは何となくわかる。
日本の歴史でもそんなことあったし。
「それならなんで俺に領主の話が回ってくるんです?」
「私と妻には子供がいないのだ。つまり私には私の世継ぎとなるべき者がいない。」
異世界でも少子化問題は深刻なんだな。
ん?
でも確かこの国って一夫多妻が認められていたはずだ。
それでリズたちに迫られて大変だったことがあるから間違いないはずた。
「ならば妻をたくさん娶ればいいという顔をしているな。」
すわっ。
まさか領主さんも読心スキルを手にいれたのか!?
「私が愛しているのは妻だけだ。世継ぎがほしいからといって好きでもない女など抱けるわけがなかろう。」
ああ、なるほど。
愛妻家ということですね。
お暑いこって。
「私がどれだけ妻を愛しているかは置いていて話を戻そう。私に子がない以上弟が第一継承権を持つことになるのだ。この国では血は何よりも尊ばれる。」
拳を握り悔しそうに顔を歪める領主さん。
それほど弟に領主の座を渡したくないのか。
というか領主さんも弟もそんなに年齢変わらなそうだし領主さんが老衰で逝くとしたら弟もそのくらいの年齢になっていそうなんだが。
「けどそれなら俺が出る巻くじゃなくないですか?俺は遠国の出身、それもただの平民です。」
「お主がどこの誰かなど私にとっては些細な事だ。一番大切なのはお主が私の全てを託せる男かどうかが問題なのだ。」
ごくり。
今まで見たことがないほど真剣な顔をしている。
思わず目をそらそうとしたが領主さんが放つ独特の雰囲気が視線を反らすことさえ許さない。
だめだ。
これ以上聞いたら戻れなくなる。
頭の片隅で本能が警鐘を鳴らす。
だがすでにその視線に射られたリュースティアはどうすることもできずにただ領主さんが発する言葉を黙って聞くのだった。
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