年越しそばが運ばれるまで

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トントントン。

ジュー。

グツグツ。


階下からのいい臭いで目が覚めた。

寝ぼけ眼で外を見るとすでに太陽は真上近くまできていた。


「やば!寝過ごした!」


太陽の位置を確認したルノティーナがベッドから飛くび起きる。

完全に遅刻だ。

リュースティアに殺される。

身仕度もそこそこ、ルノティーナは部屋を飛び出しお店へ向かう。


「あれ?」


そしてなにかがおかしいことに気がつく。

お店は営業停止になっていたはず。

というかそのせいで最近ぐうたら生活をしてしまっている。

いつもなら朝早くに起きて鍛練をしていたのにここのところ寒くてろくに起きられない。

それに加えて仕事もないので起きる必要ないのだ。

もっともリュースティアの借金は自分のせいでもあるわけだから一番お金を稼いでこなければいけない、そうはわかっていても仕事がない。

戦うことしかできない自分では冒険者以外では稼げそうにもない。

ならば冒険者の仕事ができるまでは休業しようというルノティーナの考えだ。

焦ったところで意味はない。

意志が強いようでちゃっかり自分に甘かったりするルノティーナ。


けどそんなことはどうでもいい。

この美味しそうな臭いはいったいなんなのだろうか。


「お、おはよー。いい匂いね。」


欠伸をしながら厨房の扉を開ける。

するとそこにはコックコートに身を包み大きな鍋の前に立つリュースティアがいた。


「ルノティーナもか。てかおはよってもうお昼だぞ。」


顔に苦笑いを張り付けながらそんなことを言う。

寝坊したことは事実なので仕方がないが私もということはどう言うことだろうか?


「確かに最近緩みっぱなしなのよね。気を引き閉めないと!それより私もって?」


リュースティアが作っているものを覗こうと鍋に近づく。

リュースティアはそんなルノティーナを見ながら視線をわずかにずらした。

ルノティーナはその行動をそっちを見ろと解釈し、視線をそちらにずらす。


「ああ、そういうことね。」


ルノティーナが視線をずらした先にはスピネル、リズ、シズ、シルフ、ディーネ。

つまり全員がいた。

それもみんな期待に満ちた顔で鍋を見つめていた。


「そっ、そういうこと。みんな匂いにつられて起きてきたんだよ。スピネルが一番早かったけどな。色々手伝ってくれたし。」


「・・・・・ん、当然。リューの手伝いするの楽しい。」


「スピちゃんはリューにぃばっかね。少しくらい私と遊んでくれてもいいのに。」


若干すねながら。

いや、頬をふくらませ、かなりすねながら言う。


そんな小さい子に焼きもち焼くなよ!


多分みんなが思った。


「もうティナったら焼きもちなんて大人げないですよ?スピちゃんがリュースティアさんのこと大好きなことなんて当たり前じゃないですか。だってパパなんですもん。甘えて当然です。」


うわー、悪い顔してるわー。

絶対スピネルをいじるの楽しんでるだろ。

まぁ確かに目をうるうるさせながら恥じらうスピネルはめちゃくちゃかわいい。

それは認めよう。

ずっと見ていられそうだ。

さすがに、かわいそうだからやらないしやらせないけどね。


「リズ、あんまり苛めてやるな。というかそろそろできるぞ?」


「ねぇ、そろそろなに作ってるか教えてくれてもいいんじゃない?」


準備ができると聞いてシズが問いかける。

さすがに空腹なのだろう。

言葉の端に若干の苛立ちが見える。


うん、これ以上引き伸ばすのはナンセンス。

ならば盛大に発表といきますか!



「ふふふ。年末恒例、年越しそばだ!」

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