お預けおせち


「んー、美味しい!」


「ほんとですね!こんなに色々入ってるお弁当なんて初めてです。」


「これならいくらでも食べられるわ。」


「・・・・ん、おいし。」


「ふむ、確かにこれは微妙じゃな。」


皆が口々に料理に対する感想をのべる。

そして作った本人のリュースティアはというとそんなみんなを微笑ましく眺めていた。


ちなみち皆が食べているのはお正月の定番料理、おせちである。

さすがに準備期間が少なくて食材をすべて揃えることはできなかった。

マップで検索したが該当しないものもあった。

仕方がないので揃わない分の食材は市場で売っているもので代用した。

なのでなんちゃっておせちではあるがそれなりの出来にはなっている。

見た目は完璧に再現してある。

味は言わずもがな。

最高級だ。


「みんなの口に合うようでよかった。味が受け入れらるか不安だったけど杞憂だったな。」


「これリュースティアさんの郷土料理ですよね。こんなのをいつも食べられるなんて豊かな国なんですね。」


蒲鉾を口に運びながらリズがそんなことを言ってくる。

喜んでくれるのは嬉しいがさすがにこれは毎日食べるものじゃないんだよな。


「これは祝いの時に食べるんだよ。正月料理ってか言えばわかるか?」


「正月料理?正月ってなに?」


伝わらなかった。

シズが知らないってことはリズとスピネルは知らないだろうなぁ。

知ってるとしたら年長者のディーネか世界各国をまわったことのあるルノティーナか?

そんなことを思ったがこの世界と前の世界では1年の概念が違うことを思い出した。


「簡単に言えば新しい1年の始まりを祝う食べ物だな。それぞれの料理に意味が込められているんだよ。」


「ほう、してこのプチプチしたものにはどんな意味があるのじゃ?」


ディーネが数の子を箸でつまみ上げ疑問顔で訪ねてきた。

こういうところは年長者らしく知識好奇心があるらしく振る舞いも落ち着いている。

ちなみに数の子はそのまんま、数の子であった。

もっとも漁師たちしか食べるものはいないらしいが。


「それは数の子っていって小さい卵がたくさんあるだろ?だから子孫反映、子沢山を願ってるんだ。」


ん?

俺へんなこといってないよな?

普通におせち料理の意味を伝えたはずなんだけど。

なんでみんな顔を赤らめながら必死に数の子食べてんの?

たくさん食べたからって子供がたくさんできるわけじゃ、、、、、。

それに赤い顔で口をモグモグさせながらこっちをチラチラ見るのはやめてください。




「みんな楽しそうなの、、、。シルは惨めなの。」


とまぁみんなで楽しみつつおせちを食べていたらどこからかシルフのそんな声が聞こえてきた。

だが姿は見えない。

みんなしてキョロキョロと辺りを見渡す。


「うわっ!シ、シルフ。なんてとこにいんだよ!?」


部屋の隅。

それも角。

そしてさらに顔を角に向け膝を抱えていた。

気配は微弱、もはや壁と同化している。


「皆が食べているのにシルは食べられないの。皆が楽しそうなのにシルは一人なの。いいの。シルはデブ、これでいいの。」


あれ、もしかしてこれやばくね?

シルフが闇堕ちしてる気がする。

さすがに正月からダイエットはキツかったか?

けどシルフにも食事は渡したはずだ。

そんなにダイエットメニューはきにいらなかったのか。

一応味にもきをつかったんだけどなぁ。


「あー、シルフ?こっち来るか?」


若干バツが悪そうにリュースティアが言う。

事実シルフの存在は今の今まで忘れていた。


「いいの、シルはデブ。皆とテーブルを囲む資格はないの。」


そういいながらさらに壁と同化しようとするシルフ。

気のせいかシルフが透けてきた気がする。


さすがにこれはかわいそすぎる。

それに考えてみれば確かに正月から食事制限は酷だよな。

うん、ダイエットは延期。

今日くらいは皆で楽しむか!


「シルフ、こっちこいよ。ダイエットは延期にしてやる。」


重箱の1つを持ち上げリュースティアが言う。

まだそれなりに残ってるしまだまだ楽しめるだろう。


「いいの!?やったの!」


そして今の今まで壁と同化していた少女はその存在感を一気に爆散させ笑顔でこちらに駆けてきた。


うん。

今年も賑やかな1年になりそうだ。



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