第114話 女性の買い物は長いのです。

「リュースティアさんはこっちとこっち、どっちがいいと思いますか?」


なるほど。

これが噂に聞くこの世で考えうる最大の難問というやつか。


1、素直な感想を言う。

2、それとも気に入っていそうな方を選ぶ。

3、新たな選択肢を加える。

4、選ばないで言葉を濁す。


さぁ、この場合はどれが正解だ?



リュースティアがリズにこのような難題を出されたには訳がある。

訳と言っても大したことないのだが、、。

大将の言葉で拗ねてしまったリズをなだめるべく2人でデートをすることになった。

当然、主導権はリズにありリュースティアはリズの行きたいところについていけばいいだけだった。

そんな中入ったお店で今の質問にいたったわけだ。


リズが手に持っている物は前の世界で言うストールのようなものだ。

二つは色や柄が違うが雰囲気自体はとてもよく似ていた。

見た目の派手さはないがよく見るとところどころに細かな刺繍が施されていたり薄いく少ないい彩ながらも丁寧に染め上げられているのが分かる。

リズのセンスはなかなかだ、見る目がある。

ルノティーナだったら真っ先に目の前にあるド派手なストールを迷わず買いそうだ。

というかあいつってストールとかするのか?

邪魔だからいらないとか言いそうだな。


「リュースティアさん、どっちですか?」


黙りこんでしまったリュースティアに痺れを切らしたのかリズが答えを催促してきた。

だが別に怒っているとかではなくリュースティアが困っているのを見て楽しんでいるようだが。


おっと、いかんいかん。

今はそんな事を考えている場合じゃないな。

うん、まず4はないな。

リズにキレられそうだ。

それに3もない。

いやありかもしれないが自分のセンスが壊滅的なことを知っているのでここで冒険する必要はないだろう。

とすると1か2。

だがここで新たな問題が発生する。

まず気に入っていそうな方っていってもよくわからん。

それに素直に答えるにしても両方似合っていると思っちゃてるからどっちかなんて選びにくい。


「うーん、二つともリズにすごく似合ってるんだよなぁ。リズはどっちの方がいいんだ?」


「私的にはこっちの方が。リュースティアさん、ずるいですよ。」


結果、逃げました。

自分が気に入っていた方を持ち上げつつも予想通りというかなんというか。

頬を膨らませるリズ。

だがこうなることを予想していたリュースティアが次の手を打っていないわけがない!

いくらヘタレでも幾度かの危険を乗り越えた今、多少なりとも成長はしているのだ。


「よし、じゃあ選ばなかったほうは貸して。で、気に入った方は買ってきなよ。」


いきなり変なことを言い出したリュースティアに疑問の表情を向けるものの選ばなかったほうのストールを渡しお金を払いにいくリズ。

リュースティアの行動に疑問を持ちつつも内心ではかなりがっかりしていた。

選んでくれなかったこともそうだがリュースティアにプレゼントしてほしかったりする。

小さいころに本で読んだ恋物語のように好きな相手が選んで買ってくれたものを身に着けるという行動に少なからず憧れを抱いていた。


「お待たせしました。次はどうしましょうか、、、。」


リズが支払いを済ませるとリュースティアはすでに店の外に出ていた。

待っていてくれなかった、そんな些細の出来事にも関わらずリズの気持ちはさらに重くなる。

とてもこのままデートを続けるような気になれなかった。

この店に入る前の有頂天が嘘みたいに消えていた。

もしかして自分は浮かれて期待しすぎてしまったのだろうか?


「あーえっと、その前にこれ。」


リュースティアが何か包みを差し出してきた。

そしてなぜかリズの方を見ようとしない。

そんなリュースティアの言動と目の前に差し出された得体のしれないものを怪訝そうな顔で見つつもリュースティアが自分に危害のあるようなものを渡すわけがないと思いその包みを受けとる。


軽い。

見た目に反して包み自体は軽かった。

ちょうどさっきリズが買ったストールと同じくらいの重さだ。

それになんだか柔らかい。

ますます訳がわからなくなりつつも包み紙を開ける。

そしてその中から出てきたのは先ほどリズが選ばなかった方のストールだった。


「リュースティアさん、これって、、、、?」


驚きのあまり言葉が出ない。

これがどういう事なのか、脳が思考を停止しているのか全くわからない。

故にかろうじて言葉をひねりだしたリズはそのままリュースティアを見つめる。


「いや、両方ともすごくリズに似合ってたからどっちかなんてもったいなくて。だからこっちは俺から。そうすれば両方ともリズが付けてるのを見られるだろ?」


いまだにリズの方を向こうとしないリュースティア。

だが耳がわずかに赤くなっている。

これは彼なりの照れ隠しのようなものだろう。

それはそれでいい、ずっと見ていられる。

それでもリズはリュースティアを無理やり自分の方に向け目と目を合わせる。


「リュースティアさん、ありがとうございます。大切にしますね。」


そして目が合いリズはお礼を言う。

それも今まで見たことがない幸せそうな満面の笑みで。

ただの笑顔とは違う、恋する乙女のほほ笑みとでもいうのだろうか。

不意にそんな表情を見せられ柄にもなくドキッとしてしまうリュースティア。

目の前の彼女は女であり乙女なのであるとリュースティアはここに来て初めて強く意識した。

リズがリュースティアを陥落させる日は案外遠くないのかもしれない。。。。



ちなみにこれで機嫌を直したリズに暗くなるまで買い物に付き合わされた。

後半はほとんどが荷物もちだったが。

どうして女性の買い物はこうも長いのだろうか、ストレージに買ったものをしまいつつ割と本気で考えるリュースティアだった。


そして帰宅後にリズとだけデートをするのはずるいとみんなから不満が上がったので後日それぞれとデートをする羽目になった。

そしてその際、全員にプレゼントを買う事になったのは言うまでもないだろう。


違約金や罰金などただでさえお金がないのに女性陣全員へのプレゼント。

リュースティアの財布は割と本気で悲鳴を上げていた、、、、、。



どっかに大金がもらえるような仕事でもないかな、、、、。


思わずそんなことを呟いてしまった。

そしてソレがフラグになるとも知らずに。





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