第112話 拗ねっ子とデート
*
「えっと、リュースティアさん?これはその、えっとどういう事ですか?それにその、手を、、、、、。」
リュースティアに手を引かれ、人々の間を縫うようにして進んだ結果たどり着いた場所がここだ。
そこは見る限り高級店とは言えないような、よく言えば年季の入った外装をしている。
だが掃除や管理が行き届いているからか古そうという印象は受けるもののさびれた印象は受けない。
よく言えば老舗のようなたたずまいをしている。
リズもここに店があることは知っていたが何を売っているかまでは知らない。
当然、足を踏み入れたこともない。
「リズはこの店知らないのか?ルノティーナやシズは何回か来てるらしいんだけど。」
店の前にまで来てもなおピンと来ていない様子のリズ。
ここでようやくリュースティアは自分が未だにリズの手を握ったままのことに気が付く。
そして一気に冷静になりリズの手を取るなどというとんでもないことをやってのけたという事を今更ながらに自覚をする。
意識したとたんに今までは気が付かなかったリズの体温、息遣いが自分でも驚くほどの近さで感じる、気がした。
顔が火照っているのが自分でも分かるくらいに恥ずかしい。
だがリズの心配は別のところにあったみたいだ。
「なっ⁉ふ、二人で、ですか⁉」
「ルノティーナに教えてもらったんだよ。ギルドかなんかの帰りで良い店があるって。そんでそのあとたまたま機会があってシズと来たんだっけな。まぁ二人はそれからもちょくちょく来てるみたいだけど。」
嘘は言っていない。
話すごとにリズの表情が曇っていくが気にしない。
気にしたらきっと、取り返しがつかないことになる気がするので見てみぬふりをして店の戸を開けて中に入る。
リズも何かを呟きながら後から入って来た。
恐いよ!
「いらっしゃい!ってなんだ若旦那か。なんだぁ?今日はまた違う女の子はべらしてんのか。若旦那も隅におけねぇな。」
愛想のいいあんちゃんが2人を迎えてくれた。
見た目はリュースティアより少し上くらいなのだが実際は10歳も上だった。
恐ろしいほどに童顔だ。
それは本人も気にしている事らしく彼のおっちゃん口調は少しでも年相応にみられるための努力らしい。
リュースティア的にはふつうにやめた方がいいと思うのだが野暮な事はいうまい。
「、、、違う女の子?、、、、、侍らす?」
「久しぶりです。つか大将、また違う女の子とか誤解を招くような事言わないでくんない?」
後ろのリズから危険信号が出始めた。
これはもしかしなくてもヤバイ。
内心では荒れ狂いながらも表面上は軽い冗談のようにそんなことをいう。
「なにが誤解だって?ずいぶん可愛い事楽しそうにしてたじゃねぇか。ん、なんかそっちの嬢ちゃん、この前来てた嬢ちゃんに似てんな。若旦那のタイプか?」
あー、もう!
何で事態をさらに悪くなる方へ持ってこうとすんだよ、こいつは。
絶対に楽しんでやがる。
「あー、リズ、、、さん?その、へんな勘違いするなよ?多分大将が言ってるのはシズのことだと思うし、深い意味なんてないから。」
「、、、リュースティアさん。」
うわっ、来た!
リズのあのモードだ。
「は、はい。」
「リュースティアさん、そんなに私は魅力がないですか。そうですか。いいですよべつに。そりゃシズの方が可愛いしですし胸も大きいですもんね。それにティナは美人で、強いですし。そういう事なんですよね。結局リュースティアさんは私がどんなにけなげに尽くして好意を前面に出してアピールしても全く意に返さないという事なんですね。気が付いているくせに気が付いていないふりをするとんだヘタレじゃないですか。そのくせ誰にでもやさしくして、ずるいですよね。自分がどれだけ多くの人から好意を寄せられているかなんて気にもしないんですから。そうですか、そうですよね。、、、。」
「リ、リズさん?もしもーし。おーい。」
ダメだ。
完全に自分の世界に入っていらっしゃる。
というかこれは今までにないパターンだな。
怒ってはいるんだろうけど拗ねている、のか?
なんというか怖いんだけど怖くない。
むしろかわいいと思ってしまう。
案外リズにも子供っぽいというかこういう部分があったんだなってしみじみ思う。
「なに笑っているんですか⁉」
顔に出てたみたいでした、、、、、、。
*
”むすー”
そんな効果音が聞こえてきそうなほどむくれた様子で目の前に座っているのはリズだ。
あれからなんとかなだめすかしてとりあえず席に腰を落ち着けることに成功した。
今は気まずい沈黙が流れる。
というか元凶である大将はいつの間にか厨房へと消えていた。
あの野郎、代金ふんだくってやる。
リュースティアがそう心に決めたのはある意味必然かもしれない。
「今日はリズに食べてほしいものがあって連れてきたんだ。俺が悪いんだけどさ機嫌なおしてくんないか?うまいもんは笑顔で食べないともったいないぞ。そんな顔リズには似合わないって。」
もうこうなれば最終手段。
直談判である。
男としてはこの上なく情けないがこれも一つの戦法、致し方ない。
「他の女性にもそう言う事言ってるんですか?」
はい、不発でしたー!
なぜか呆れられてしまった。
くそ、次はどうしましょ、、、。
「ほら、リズが読みたがってた魔法書!」
「ほら、ドゥランさんのイタイ文!」
「ほら、この前見つけた美味しい飲み物!」
「ほら、魔法が付与された健康グッズ!」
「ほら、俺のお手製防具に洋服、杖!」
とりあえずあの手この手でリズの気を引こうとする。
まぁ実際は物で釣っているようなものだが。
とにかく機嫌を直してもらわないと居たたまれない。
「クス。」
わ、笑ったぁ!
これはもう一押し!
そう思って次のアイテムを出そうとしたら出す前にリズの方から声がかけられた。
「もう、リュースティアさん、必死すぎます。本当はそんなに怒っていないんです。ただ本気で焦っているリュースティアさんが可愛くてついからかってしまいました。」
「よかったぁー。ったくリズも人が悪いよ。本気であせったじゃん。」
からかわれていたと分かって安心するリュースティア。
ほんとうなら怒るところなのだろうが安堵のほうが強く怒りは湧いてこない。
しかしほっとしたのも束の間。
「けどリュースティアさん、そこまで怒っていないとはいえ先ほどのような不満があるのは事実です。なので今日は1日、私に付き合ってもらいますから!」
あっ、これが狙いか。
ここまで来てようやくリズの本当の狙いに気付かされる。
だが別に断るような内容でもない。
それにリズが拗ねてたのは事実っぽいし何よりかわいかったからな。
デートくらい何回でする。
「へいへい。お嬢様の仰せのままに。」
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