第111話 悪い大人の悪い顔

「あそこまで言われるといっそすがすがしいですね、、。」


商業ギルドからの帰り道、二人でならんで歩いているとリズがそんな事を言ってきた。

清々しいと言っておきながらも顔には苦笑いが浮かんでいるが。

まぁあそこまで徹底的に論破されるともう文句なんて出てこない。


「はぁ。リズ、ちょっと付き合ってくもらうけどいいよな?」


「はい、それは構いませんが。急にどうしたんですか?」


ため息をついたと思ったら急にそんなことを言い出したリュースティアを怪訝な様子で見る。

一応快く返事をしたつもりではあるが。内心ではとんでもない事に付き合わされるのではないかと気が気ではない。


「着いたら分かるから。とにかく行こうぜ。」


そう言ってリズの手を取るリュースティア。

そしてその手を握ったまま人込みの中を縫うように小走りで進んで行く。

回避スキルを覚えたおかげか人波に抗わずとも楽に進めるようになった。

傍から見れば男が女性を引いて歩く、つまりデートにしか見えないのだが。

今日のリュースティアはそんな事など気にも留めない様子。

むしろ手を引かれているリズの方が照れまくっている始末だ。


だが手を引いているリュースティアが浮足立っていることから初々しさが滲み出ており人々に初デートを連想させた。

もっともリュースティアが浮足立っている理由は別にあるのだが周囲の人々はそんな事は知る由もない。

故にそしてそれを見た人々は彼らを微笑ましく見守るのであった。




「おねえちゃんたち大丈夫かなぁ?」


シズはスピネルとルノティーナを連れて自分の屋敷に戻っていた。

一応、今はリュースティアの屋敷に住んでいるのだが実は定期的に実家に帰っていたりする。

両親が顔を見せなさいとうるさいくらいに言ってくることもそうだが15年間住んだ家はやはり居心地がいい。

それに今回はリュースティアの事も相談しようと思っていたので丁度いいタイミングだった。

2人が付いてきたのは暇だったから。

ルノティーナは戦いをしたかったらしいが相手が見つからずについてきた。

ちなみにシズとスピネルも断り済みである。

彼女に付き合うと終わりがない事を身を持って知っていたので2人がルノティーナの申し出を受けることは多分、ない。


「さぁそればっかりはどうなるかわからないわね。けどリューにぃの事だし何とかするんじゃない?」


「・・・ん、リューはつよい。」


スピネルちゃん、今回の事は強さ関係ないんじゃ、、、、、。

それにティナ、できるように見えてリュースティアは馬鹿なのよ。

簡単にテンパるし、そもそもかなりのヘタレ。


とかいろいろと言いたい事があったがやめた。

2人に説明するのは骨が折れそうだし何よりもめんどくさい。

それに2人に理解させたからといって自分の利になるようなことがない気がした。


「おや、どうしたんだい?そんな顔して。」


そんな沈黙を破ったのはシズの父、ポワロだった。

彼はどこかへ行っていたらしく外行きの恰好をしていた。

シズは説明をしようと口を開きかけ、静止した。

なぜなら父の後から部屋に入って来たのはこの地の領主ラウス様だったからだ。

いくらラウス様が不作法に寛大な方とは言え、領主様が立っているのにソファーに座ったまま挨拶をするわけにはいかない。


「こ、これは失礼いたしました!ラウス様がいらっしゃるとは露ほどにも思わず不尊な態度を取ってしまいました。お気を悪くされたようでしたら申し訳ありません。」


ソファーから飛び跳ねるようにして降りるとすぐに挨拶の姿勢を整えた。

この間僅か数秒。

レベルが上がったことによるスピードを存分に生かせているようで何よりだと思う。

そしてこれは少し意外だったのだがスピネルとルノティーナもシズに右なら柄の状態だった。


「よい、気にするな。それに今日は公的は訪問ではなく私的なものだ。かしこまる必要はない、気楽にしてくれたまえ。」


私的な訪問んとはいったい何だろうと思ったがここで尋ねるのはあまりにも失礼に当たる。

それにいくら気楽にしろと言われてもそう簡単に楽にできるわけなどない。

シズはこう見えても伯爵令嬢。

幼いころから貴族としての立ち振る舞いを教え込まれているのだ。

硬くなってしまうのは仕方がないかもしれない。


「シズ、そう硬くならなくても大丈夫だよ。ラウス様は私の幼馴染としてきているからね。それに他のみんなも気にしないでかけなさい。」


どうしても硬さが抜けないシズを気にしてかポワロが声をかける。

そして二人はポワロの執務室に引き上げるのではなく、この部屋のソファーへ腰かけた。

私用らしいがシズたちがいても問題ない程度の事らしい。

そう思うとシズもいくらかは気持ちが楽になった。


「お父様がそう仰るのであればそうさせていただきます。」


とりあえず全員がソファーへと腰を下ろした。

そしてそのタイミングを見計らっていたのかメイドが数人入ってきて人数分の紅茶とお茶菓子を置いていく。

クッキーとパウンドケーキ、それにマシュマロだった。

おそらくリュースティアの店から仕入れたのだろう。

お茶請けに甘味が出るようになったことをリュースティア知ったら飛び跳ねて喜ぶことだろう、、、。


「それでシズ、さっき何か言いかけていたね?」


全員に紅茶が行き渡り、メイドが退出するとポワロが話を切り出した。

領主様を優先しなくてもいいのだろうかと訝しんだシズだったがとりあえず完結に説明をして領主様の用事を優先してもらおう。


「リュースティアと商業ギルドが少し面倒なことになってしまっていて。何か助言がもらえないかと思ったの。それよりもお父様たちはなぜこちらに?」


リュースティアと言う名前を聞いた瞬間に二人の目に何か光るものがあった気がしたが気にせず一通りの説明を終える。

そしてそのあと二人がここにいる理由を尋ねた時、違いなく二人の顔が悪い顔になった。

これは何かを企んでいる悪い大人の顔だ。

この二人のことだから本当に悪い事はしないのだろうがとてつもなく嫌な予感がする。

それはおそらくリュースティアと自分たちに関係するものだと何となくだがそんな嫌な考えが浮かんだ。

そしてそれは根拠がないながらもなぜか当たっているという確信があった。



「お父様。何を考えているのか教えていただいても?」



聞きたさ半分、怖さ半分。

シズは勇気を出して悪い顔の大人に問いを投げかけるのであった。

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