第110話 査問会

「それではこれより査問会を始めます。私は本日の進行役を仰せつかった商業ギルド、秘書長のナァーザ・ユイと申します。以後お見知りおきを。」


いかにも秘書っぽい人が話し出した。

当然こっちにはスーツなどないのできっちりとはしているが普通の洋服を着ている。

見た目がどこからどう見ても秘書なので違和感がすごい。

ついつい凝視しまったために冷たく”何か?”と聞かれてしまった。


こういうところも秘書っぽいな。

などと内心では邪なことを考えていたがスルースキルのおかげで何とか乗り切る。


ちなみにこの査問会は付き添い1名と決まっていたので今回はリズと2人。

リズなら伯爵家の娘だしこういう事もある程度までなら対処できるだけの知恵を持っているはずだ。

ならば双子の片割れ、シズでもいいかと思うがシズはこういう堅苦しい場が好きではないらしい。

すげなく拒否された。

スピネルやルノティーナにいたっては論外だ。

スピネルは年齢的に仕方がないとして、頭が筋肉でできているようなやつなんて連れてきたらめんどくさい事になるに決まっている。

本音を言えばラニアさんを連れてきたかったんだけどな、、、、。


「リュースティアさん?」


リズは隣に座っているリュースティアにしか聞こえない声でそんなことを言う。

顔は正面のナァーザさんを見たままだ。

しかも笑みを浮かべながら。


こわっ!

相変わらず目が笑っていませんが。

もしかしてこれってあれだよね?

それにしてはなんか、、、。

えっと、もしかして成長してませんか?




「では追加で徴税する通知はSランク冒険者、ルノティーナ・ヴィルムの過失により紛失。詳細を受け取っていなかった、というわけですね?」


とりあえず査問会が始まった。

イメージしていたのとは違い比較的平和だしこちらの言い分も聞いてくれている。

お咎めなし、とはいかないかもしれないが最悪は免れそうだ。


「はい。そのことを知っていたらもちろん追加で税を納める気はありましたしその分の貯えもあります。」


おお、さすがリズ。

慣れてるな。


「そうですか。我々ギルドとしては追加分の税を納めていただければ問題ありません。ただ正規の税にプラスで滞納金も収めていただくことになりますが。」


「問題ない。もともとこっちが悪いし、それはきちんと払います。」


良かった。

お金で解決するなら安いもんだ。

幸い冒険者として荒稼ぎした分とお店の売り上げがそれなりにある。

滞納金を払ってもなんとかなるだろう。


「わかりました。ギルドの者に請求書をを用意させておきますので後程ご確認ください。適性価格についてもギルドで発行している一覧がありますのでこれを参考にし価格の見直しをお願いします。もし難しいようでしたら専門の者を付けますのでおっしゃってください。」


おお、意外と寛大だ。

というかだったら最初から専門の人を寄越してくれよ。

それか初めて店を持つ人に向けて講習会とか開いてくれるとありがたいんだけど。


「では、最後の議題に入ります。あなた方のお店で提供している品にギルドが認知していない材料が含まれている件についてですが。何か申し開きはありますか?」


「すんませんでした‼まったく知りませんでしたー!」


急に場の空気が変わった。

多分税の未払いなんかよりもこっちの方がよっぽど重大な違反らしい。

という事でここは言い訳をする、ではなく素直に謝るという選択をしてみた。

リズは一瞬非難の目を向けたが思いなおしたらしく今はリュースティアと一緒に頭を下げてくれている。


「ちょっと失礼しますよ。リュースティアさん、でしたっけ?これが知らなかったからで済む問題だと思いますか?」


頭を下げていたら急に知らない声が聞こえた。

その声に反応して顔を上げると30代くらいの穏やかそうな紳士がリュースティアを値踏みするような視線で見下ろしていた。


「マスター、ここは私に任せるのとおっしゃったではありませんか。」


新しい登場人物に戸惑っていると前方からすこしすねたような響きを含ませた声が聞えた。

秘書長さんか?

うん、可愛い所もあるな。

ってマスター⁉

若くない?

冒険者ギルドのマスターっておっさんだったぞ。


「すまない、気になってしまってね。それよりもどう思いますか?今のところ被害は報告されていません。ですが我々の認可を得ていない材料、当然被害が出る可能性もあったはずです。口にするもの、というだけあり人の生死にも関わってきます。そこまでしっかりと考えた上での行動ですか?」


「俺が前に住んでいたところでは普通に食べていたらここでもそういうものかと思ってました。それに店で売る前に自分で試食もしているので何か異変があればそこで気が付きます。確かに認可外の食材を使ってしまったことはこちらの非です。ですがお客様に被害が出てしまうような可能性のある商品を売った覚えはないです。」


さすがに異世界で食べてたとは言えないし。

それよりもこっちにもそういう考え方あったんだな。

確かに食中毒は飲食店を経営する者が最も気を付けなくてはいけないことだ。

俺も店にいたころ衛生管理は口酸っぱく言われた。


「なるほど。あなたの言い分はわかりました。ですがあなたは腕のいい冒険者だとも伺いました。ともなれば耐性系のスキルも所持しているはずです。あなたが無事だからと言ってそれがスキルのおかげではないと言い切れますか?」


うっ、確かにそれはそうだ。

けど備考欄とかでも毒や人体に有害なものが含まれていると表示されなかったし、、、。


「確かにそれを完全にスキルのおかげではないというのは難しいです。なにせ確かめようがないですし。けど俺の鑑定系のスキルでも異常は検知されませんでした。」


「なるほど。ですが鑑定では食べ合わせまでは判断できないですよね?単体では有害な物を含まなかっとしても組み合わせ次第では有害になる可能性もあります。それに種族によって有害か否かの基準も変わってきます。そう言った部分も含め、100%安全だと言い切れますか?」


うぐ。

こいつ、、、、。

頭の回転が速いし何よりも正論だ。

少しずつ、そして確実にこちらの退路を断っていく。

嫌らしいやり方だ。

だからと言ってこちらはもうどうすることもできない。

すでに喉元に剣先を突きつけられているようなものだし。

さて、どうしよう、、、、。



「そうですね、今回はそれでいきましょう。正式な書面を用意し近いうちにそちらへ持って行かせましょう。ではこれからもいい商いを行っていってください。」


終わった、、、。

笑顔で去っていくギルドマスター。

そして一礼し彼の後へ続く秘書長。

部屋に残ったのは魂の抜けた様子で座っているリュースティアと苦笑いを浮かべるリズだけ。


あれからリュースティアが何を言おうと全て正論が返ってきた。

つまりことごとく論破された、というわけだ。

そしてリュースティアが何も言えなくなると正式に処分が下された。

処分の内容は以下の通りである。


・規約違反により財産の7割を没収。

・2週間の営業停止。

・ギルド主催の違反者講義への参加。

・業務内容の開示。


この罰金と先の徴税により私財のほとんどを失った。

それに加えて営業停止。

つまりは収入を見込める様子がない。

講義への参加はこちらとしてもいい機会なのでまぁいいだろう。

問題は最後だ。

業務内容の告示。

さっきのギルマスの感じだと彼の本当の狙いはおそらくここだ。

多分彼はお菓子とそれを作るための魔道具について知りたいのだろう。

これらが量産できればかなりの利益を生む。

だからこそ徹底的にこちらの言い分を論破し、処分を受け入れざるを得ない状態にしたのだろう。

やはりあの人は侮れない。

というか本当に嫌らしい性格してる。

そもそも言ってくれれば魔道具はともかくお菓子の作り方ならいくらでも教えるのに、、。



はぁ、なんだかアルと戦った時より疲れたな。

それよりもお金か。

どうしよう、このままじゃ生活できない、、、、。



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