四章 政治

第109話 絶体絶命⁉

「か、金がない、、、、。」


屋敷の自室で帳簿の確認をしていたリュースティアは思わずそんなつぶやきを口にする。

彼が見ている帳簿は黒い。

赤い文字などどこにも見えない。

つまり売り上げとしては黒字、何の問題もない。

それではなぜリュースティアはお金がないとつぶやいたのか、理由は簡単。

売り上げのほぼ全額を持っていかれたのだ。

商業ギルドという巨悪な組織に、、、、、。



時はさかのぼる事、数日前。

メーゾルに現れた魔族を無事に倒し、屋敷に戻った次の日の事だった。

五大冒険者依頼や喧嘩。

色々あってほんと―に久しぶりにお店を営業させたのだ。

久しぶりに開店するという話はご近所さんネットワーク、もとい主婦コミですぐに街全体に広がったらしい。

その日は朝からこれ以上ないほどの混雑だった。

これはもう出し惜しみしている場合ではないと今まで作ってストレージに保存していたものも含めすべてをお店に並べた。

もちろん営業中も追加でケーキを作った。

それでもお昼過ぎには売れる物がなくなってしまい早々と店締めをしたのだが。


そしてお店の片付けも終わり翌日の仕込みを始めようとしていた時に悪魔は訪れた。


「ごめん下さい。リュースティア様はご在宅だろうか?」


礼儀正しいノックの音と言葉に反応し、急いで扉を開ける。

おそらくお客さんではない。

領主さんからの使者だろうか?

そんな事を考えながら扉を開けるとそこには一目で几帳面な人間だとわかるようなきっちりと衣服を着こなし、髪の毛をきっちりと整えた男性が居た。


「えっと、俺がリュースティアですけど。とりあえず立ち話も何なんで中へどうぞ。」


きっちりとした男性の佇まいに前世の頃苦手だった高校時代の先生を思い出してしまう。

彼は何事もきっちりとしないと気が済まないタイプでそれを周囲の人間にも強要する人だった。

もしかしたらこの男性もそういうタイプなのだろうか。

リュースティアに緊張が走り、必然的に態度もかしこまったものになる。


「では改めまして俺がリュースティアです。今日はどんなご用件でいらしたのでしょうか?」


うぉい!

どうした俺⁉

営業の対応しているサラリーマンか!

って、前世でもそんな事したことないけど⁉


とか内心では自分で自分に突っ込むとかよくわからないことになっていたりする。

それでもそんなテンパりが表面上に出ていないのはスルースキルのおかげだろう。


マジこのスキル神!


「いきなりの訪問、大変失礼いたしました。私は商人ギルドからの使いで参りました、バイ・ルドンと申します。本日はリュースティア様に査問会への出頭命令が出たことをお伝えに上がった次第でございます。」


ふーん、査問会ね。

ん?

査問会?

サモンカイ、、、、、、。


「ってええええぇぇぇ!査問会⁉俺なんか悪い事したんですか⁉」


聞きなれない単語に一度はスルーに成功するが次第にその言葉が脳内に浸透していく。

そして意味を理解した時思わず叫んでしまった。

そこには営業スマイルを張り付けたサラリーマンなど存在しない。


どうした俺のスルースキル。



「で、明日その査問会に行くってことね。」


あの後、バイさんに査問会へ呼ばれた理由など詳細の説明を受けたのだが査問会という言葉に対して終始狼狽えまくりだったリュースティアは全くと言っていいほど彼の言葉が頭に入ってこなかった。

そしてそれはあらかじめバイさんの方も想定内だったのだろう、詳細が書かれた紙を持ってきてくれていた。


バイさんが帰ってからいくらか気持ちが落ち着いてきたリュースティアは渡された書面を読み、自分が呼ばれた理由を知った。

そして今はそれをみんなに話し終えたところだ。

リュースティアの説明を聞いてスピネルと精霊たち以外は理由を理解したらしい。


「そうなるな。なぁ、これってどうにもなんない?貴族の権威とか使ってさ!」


いつまで経ってもヘタレなリュースティアはあろうことかリズたちの権力に頼ろうとする始末。


「相手がギルドとなると難しいですね。ギルドはこのような貴族階級の者達からの介入を防ぐために独立機関となっているわけですし。日頃から贔屓にしていれば多少なりは何とかなるかもしれませんがすでに公式書面まで発行されているとなると、、、、。やっぱり難しいですね。」


深刻そうな顔で無理だというリズ。

これはもしかしなくてもかなり不味いかもしれない。

映画やテレビの見過ぎかもしれないが査問会と聞いていいイメージが浮かばない。

精神的、肉体的苦痛を強いられる悪いイメージしか出てこない。


「それにいきなりの査問会とは言えこっちにも非があるわけだしねー。」


書面に目を通していたルノティーナが顔を上げそんなことを言う。

こいつ、他人事だと思いやがって。

とか思ったがまだ口に出さないだけの分別はある。

それにルノティーナが言ったことも事実だ。

だからこそ突っ張ることもできない。


商業ギルドからの書面は要点をまとめると3つ。


1つ目は、ギルドへ納める税が足りていない事。

2つ目は、食材の認可の問題。

3つ目は、適正価格についての問題。


この3つが査問会の主な内容らしい。

税金に関しては登録時に1年分を収めたのだが予想以上に売り上げがよく最初に払った分では足りなかったらしい。

そしてその分の追加徴収の手紙が来ていたらしいのだがルノティーナが屋敷を半壊したときに紛失、そのまま未払いになっていたらしい。

2つ目と3つ目に関しては事情を聞くという意味合いが強そうだが認可されていない食材を使っていたとなると非常にまずい。

完全にこちらの知識不足が原因なだけに素直に従うしかないというのが全員の意見である。


「はぁ、ラニアさんはなにも言わなかったのに。」


この店のあれこれは全てラニアさんにチェックしてもらっていただけについそんなことを言ってしまった。

実際ラニアさんは冒険者ギルドの人間だし商業ギルドの事まで詳細を知っていろ、というのはさすがに無理がある。

それに店を開くための手続きなどすべて手配してくれたのは彼女だ。

感謝はあれど恨みを抱くのは間違っている。


「まぁしょうがないんじゃない?それに私たちだって食材や価格についてはラニアさんに聞かなかったしね。」


まあそれもそうか。

けど一番の問題は税金の未払いだよな。

これ犯罪?


「まさか奴隷落ちとかないよね、、、、。」


そんな心配が思わず口から出てしまっていたらしい。

みんなが一瞬はっとした表情になったがすぐに顔を逸らされた。


えっ⁉

嘘でしょ、ねぇってば!

そんな事にはならないと言ってくれ。

お願いだから!

頼むから憐れむような眼でちらちら見るのはやめてくれ、、、、、。



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