閑話 ヴィルム兄妹・未来編
*
「気はすんだか?大馬鹿兄妹。まったく、お前らのせいで今夜は野宿だ。」
思う存分殺り合った二人は満足げに大の字に寝ころび空を見ていた。
そんな二人を呆れた顔で覗き込むのは戦いを静観していたルイセントだ。
戦い始めたころすでに傾いていた陽はもうすっかり落ちていて空には星が輝いていた。
これではすでに王都の門は閉まっているであろう。
今夜はここで野宿決定だ。
だがそんなことなど気にする二人ではない。
「なんだよ、せっかくの兄妹の再会だぜ?とことん殺り合わないとだろ。」
「そうよ、お互い忙しくなって会う機会もへっちゃったしね。それに全力でぶつかれる相手なんてお兄ちゃんくらいよ。」
言う前から諦めてはいたがやはりこの兄妹には何を言っても無駄らしい。
というか脳筋もここまで来るともはや病気だ。
割と本気で二人のこれからを心配するルイセントであった。
「はぁ、説教は後でゆっくりさせてもらおう。とりあえずは治療だ。座れ馬鹿ども。」
説教と言う言葉にギクリとした2人だったが聞かなかったことにしたのか何事もなかったかのように座る。
見たところ大した怪我はしていないので寸止めの勝負だったのだろう。
ここら辺の加減はさすが高ランク冒険者と言ったところか。
「ていうかお兄ちゃんが王都にいるなんて珍しいわね。」
ルイセントの治癒魔法の光に包まれながらルノティーナが言う。
彼女の言う通りエルランドが王都にいるのは珍しい。
一応、王都に住居があるが一年のほとんどは王都外にいる。
それは依頼であったり修行であったりと様々だが戦闘狂である彼が王都などと言う闘いからかけ離れたところでじっとしていられないのが大きな理由だろう。
「あーこの前ちょっとした依頼をやってその報告とかいろいろとな。王様絡みだから適当にほっぽるわけにもいかなくてさ。それよりお前はどうしたんだ?仕事とか言ってたが。」
この王様絡みの依頼というのはリュースティアの事である。
リュースティアとの修行を終え一度報告がてら王都に帰還したのだが王様に待機を命じられてしまったのだ。
リュースティアの動きが気になるとかで。
王様もまさか勇者を断られるとは思わなかったらしい。
王様的には正体のわからない相手だが、勇者にすればとりあえずは敵にはならないだろうと踏んだのにすっかり当てが外れてしまったらしい。
エルランドは何度もリュースティアは悪い奴ではないと言っているのだが信じてはもらえない。
まあリュースティアの持つ力が力なだけにエルランドの証言だけでは判断できないのだろう。
「ふーん。私はSランク冒険者としての責務を果たす為にここに来たのよ。」
「もしかして
二人の回復を終え、なんとはなしに話を聞いていたルイセントだったがSランクの責務という点に反応した。
そして辺境の地のうわさ話まで情報を掴んでいるルイセントにルノティーナは改めて賢者の称号はだてではないと実感する。
「そうよ。メーゾルで依頼が受理されたみたい。だから私は受理された依頼の責任者として王様に拝謁してそのあとメーゾルに向かわないといけないのよ。」
まったく面倒な話よね。
最後にそんな言葉を付け加える。
彼女の様子からするに乗り気ではないみたいだ。
そもそも五大冒険者依頼など達成すれば英雄譚として吟遊詩人によって後世まで語り継がれるくらいすごい事になる。
それほどまでの偉業なのだ、簡単に達成できるわけがない。
ましてや辺境の地、メーゾル。
五大冒険者依頼に挑戦できるほどの冒険者が居た記憶はない。
「お前が行くと行くことは受理された依頼は不死の
「さすが、ルイさんね。けどそうなのよねー。私もそんな冒険者いなかったと思うの。可能性があるとしたらギルドマスターなんだけどギルマスはそもそも依頼受けられないし。私もよくわからないのよね。」
二人とも思い当たるような実力者はいないらしい。
誰がこの依頼を受けるのだろうかと首をひねっている。
エルランドだけはこんな滅茶苦茶な依頼を受けられる人物などリュースティア以外にいないだろうと見当をつけていたが。
わざわざ教えるつもりはない
どうせ分かる事だ。
「まぁ誰でもいいじゃねぇか。それより俺の弟子もメーゾルにいるんだ。せっかくメーゾルまで行くなら少し顔合わせておけよ。」
おそらくリュースティアが件の冒険者だがソレは内緒に自分の弟子だという事を強調して言う。
予想通りルノティーナは食いついてきた。
一方、ルイセントはこれだけの発言でリュースティア=依頼を受ける冒険者という図式を完成させたみたいだが。
「お兄ちゃんが弟子にするってことはそうとう見込みがあるのね。これは一回戦ってみないと。その子は剣士?」
「一応な。俺がみっちりと教え込んでやった。だけどあいつの話からすると双剣、弓のジョブもあるみたいだったな。」
双剣と聞いたときにルノティーナの目に光るものがあった。
彼女の戦闘スタイルは二刀小太刀。
自分に近しい戦闘スタイルの相手には興味があるのだろう。
「ますます手合わせしたいわね。魔法は使えるの?」
「ああ、主に風魔法を使うな。風魔法の初級から最上級までをすべて無詠唱、ノータイムで連射してきやがる。たぶん奴は近接も遠距離も両方いけるな。」
ん?
なんだか自分で説明しておいてあれだがリュースティアってかなりおかしくないか?
これだけ聞くとかなり化け物じみている気がする。
とまあ今更ながらにリュースティアの異常さに気が付くエルランドだった。
「最上級まで無詠唱か。面白そうなやつだな。これはティナではなくても手合わせしてみたくなるな。」
おっと、どうやらルイセントもリュースティアに興味をもったらしい。
まぁ魔法に秀でたエルフなら無詠唱で魔法をバンバン放つ奴に興味を持たないワケないよな。
「そうね!それに風魔法かぁ。私と同じじゃない。これはもう神様が私に戦えって言っているに違いないわ。うん、きっとそうね。」
「いや、ティナはあくまで仕事で行くんだろ?目的忘れんなよ。」
すでに自分の仕事を忘れつつある妹に一応兄としてくぎを刺しておく。
「わかってるわよ。これでもSランクだもの。しっかり仕事はやるわ。ねぇ、それよりそのお兄ちゃんの弟子ってなんて名前なの?」
「そう言えば私も聞いていなかったな。いい機会だ、それほどの強者、名前を覚えておくのも悪くない。」
ルイセントが他者の名前に興味を持つなんて珍しい。
いつもなら多種族の名前など興味すら持たないのに。
「言ってなかったか?そいつの名前はリュースティア、リュースティアだ。」
弟子に興味を持たれるのはなんだかんだでうれしい。
自分のことではないにも関わらずエルランドはこれ以上ないほどに得意げに名前を告げる。
「リュースティア、か。メーゾルで会えるのが楽しみね。」
どこか夢見る少女の雰囲気を漂わせたルノティーナがそんなことを呟く。
そんな彼女とリュースティアが出会い、物語を紡ぐのはもう少し先のお話。
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