閑話 ヴィルム兄妹・再会編
*
「私はここでいいわ。王都に入る前に少し寄りたいところがあるの。」
王都へ入るための長い検問に並んでいると不意にルノティーナがそんな事を言い、馬車から降りた。
てっきり王都内まで一緒に行くと思っていた御者は突然のことに驚いたような顔をしていたがさすがは商人、すぐに表情を切り替える。
「なんでぇ、こんな所でいいのか?まあ嬢ちゃんがいいならいいが。ここら辺は治安がいいと言っても魔獣や盗賊がいないわけじゃない、気ぃ付けな。」
「心配しなくても大丈夫よ。私は強いから!それにいくら私が可愛くてキレイでモテるからと言っても盗賊からの求愛はお断りよ。」
御者台の横で自分の荷物をしっかりと背負いそんな事をしれっというルノティーナの表情は当然ながらこの上ない笑顔だ。
それはもう周りの人がドン引きするくらいに笑顔だ。
だがこの旅の道中でいやというほどそんな笑顔を向けられてきた御者は苦笑いさえしない。
「まっ、それもそうだな。嬢ちゃんなら大丈夫だろ。じゃあな、また縁があったらそん時は頼むぜ。」
「私の方こそ助かったわ。けどおじさんも感謝しなさい、こんな美女と旅ができたんだもの。じゃあね、本当にありがとう。」
そんなルノティーナの言葉に手綱を掴んでいた手を掲げ、振り返ることなく
門へと進んで行く。
何となく照れくさい気がしたがしばらくその場に立ち尽くし馬車を見送る。
検問を待つ列はいつの間にかだいぶ短くなっていた。
これならすぐにでも王都に入れるだろう。
「うん、やっぱり王都に勤めてる兵は優秀ねー。さ、私も行こうかしら。」
なぜか一人で納得しながら王都から見て南西の方へと歩き出した。
目的の場所まではそう遠くない。
*
「あーもう、うるせえな。これで好きなもん買って食えばいいだろ。」
後ろから聞こえてくる文句のオンパレードについに耐え切れなくなったエルランドは自分の荷物から巾着袋を取りだしネアに投げつける。
中からはそれなりの枚数の金貨がこすれる音がした。
自分では悪くないと思っていてもエルランドのくしゃみのせいで本日のメインディッシュを逃がしてしまったのは事実だ。
だからもう一度獲物を探索し、狩りをしようと提案したのだが賢者エルフ様にフツーに却下された。
というわけで不満だらけのネアを連れて一行は帰路についていたのだがメインディッシュを逃した事が相当痛いらしく、ネアの機嫌が直る事はなかった。
そしてそれに我慢できなくなったエルランドがお金を投げつけた、というわけだ。
「やったぁ。エルわかってるぅ。ギル、いこぉ」
急に巾着袋を投げつけられたくせにしっかりとキャッチし、そのままギルの手を取って走って行ってしまった。
くそ、現金な奴め。
「いいのか?ああしてしまえばネアの奴を付け上がらせるだけだぞ。」
2人の後ろ姿が見えなくなると賢者エルフ、ルイセントがそんな事を言ってきた。
ルイセントは皆のお目付け役というだけあって甘やかすことに関していい顔をしない。
「別にいいだろ。あいつの文句はうるさい。それにいい具合にギルも連れて行ってくれたしな。」
まるで2人を遠ざけたかったかのような言い方にルイセントは眉を寄せる。
そしてエルランドの顔を見て思い当たる事が一つだけあった。
「今日も行くのか?」
「ああ。珍しく最近は暇だからな。こんな職業だ、いつ死ぬかもわからねぇし行ける時に行っとかないと、だろ?」
「そうか、それもそうだな。では私も一緒に行こう。」
そうして二人は連れ立って森の中へと消えて行くのであった。
*
「ここもずいぶん変わったのね。けどやっぱり懐かしい。」
ルノティーナは途中で摘んできた花を女性の石像の足元に置く。
目の前の石像はとても美しく、はかなげだ。
その慈愛に満ちた瞳はまるで本物の人間のような温かさが溢れている。
そしてそんな石像の女性からはルノティーナの面影を感じさせる。
「久しぶり、元気だった?お母さん。」
石像を見上げる彼女の顔はやはり石像の女性と似ていた。
お母さん、ルノティーナはそう言った。
そしてそのまましばらく視線だけの会話を楽しむ。
すると背後から話しながら歩いてくる声が聞こえた。
その声は聞き覚えのある、懐かしい声だった。
「別にルイは来なくてもいいんだぜ?お前は関係ないだろ。」
「何を言っている。私とて多少は面識がある相手だ。それにシェリーからもお前たちのことは頼まれたからな。」
「へーへー、さすがはエルフ様。律義なこって。ん?誰だ⁉」
2人で話しながら歩いてきたエルランドとルイセントは石像の前にいる人影に気付き警戒態勢を取る。
どことなく見覚えのある後ろ姿だった。
「お、お兄ちゃん⁉それにルイさんまでどうしてここに?」
「ティナか!お前の方こそどうしたんだよ?」
思わぬ再開にテンションの上がる兄妹。
そんな中ルイセントだけは浮かない顔をしている。
彼女だけはこれから起こるであろうことを知っている。
そして彼女自身が何をしなければならないのかも。
「仕事で少し王都に用事があってねー。それよりも!」
「俺は時間があったからな。まぁとりあえず!」
二人ははしゃいだままお互いに駆け寄っていく。
傍から見れば久しぶりの兄弟の再会、微笑ましい、そう思うかもしれない。
まあ実際は、身体強化を使っての高速移動に加え、互いに武器を抜きながら駆け寄っているのだが、、、、。
「「まずは殺ろう‼」」
互いの剣を交えそんなことを言う。
さすが脳筋戦闘狂兄妹、再会の感動は戦いで表すらしい。
そしてルイセントはそのことを知っていただけに一人浮かない顔をしていたのだ。
そして彼女がやる仕事とは周囲に被害が出ないように結界を張ることと2人の戦闘後、回復をしてあげることだ。
「はぁ、この馬鹿どもには何を言っても無駄か。シェリー、育て方を間違えていないか?」
自身にも防御魔法を施し、二人の戦闘を見守る。
そして笑顔で斬り合う二人を見て思わず彼らの母である石像の女性にに向かって愚痴をこぼす。
石像が笑った気がした。
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