第104話 魔族の正しい使い方
*
「えっと、ほんとうにいいんですか?」
リュースティアに呼ばれたリズが半生半死の旧ピンクモフモフを見ながら遠慮がちに尋ねる。
その声に若干の非難が混じっているのは気のせいではないはずだ。
リュースティア自身もそんなリズの非難には気が付いて居るが気が付いていないふりをしている。
何しろこれはリズの、いやみんな自身のためなんだから。
決して楽しんでいるわけではない。
もう一度言おう、楽しんでいるわけではないのだ。
「ああ、リズだって聞いたことあるだろ?魔王や魔族を倒した冒険者は信じられないくらいステイタスが上昇してレベルもかなり上がるって話。」
「それはありますけど、前例が少なすぎて定かかすらわからない噂のようなものだったとおもいますが。」
「だからこいつで試してみるんだろ?レベルが上がればよし、仮にレベルが上がらなくても実戦経験だと思えば損することもないしな。身の安全は俺が保証するし訓練だとでも思って気楽にいこう。」
これはギルドでというかラニアさんから聞いた話だ。
魔王や魔族など体内に大量の魔力を有する生物を倒すと普通の獣や魔物を倒すのとは比べ物にならないくらいの経験値がもらえ一気にレベルアップすることが可能らしい。
もっとも魔族や魔王を倒せる者などそういないのであくまで噂とのことだった。
だが強者を倒すことによってさらなる高みへと進めるという事であればレベルアップの話もあながち嘘とは言いきれないだろう。
とまあそう言うことなので百聞は一見に如かず。
みんなに試してもらう事にした。
作業自体は簡単だ。
作業というのはどうかとも思うがそれ以外に妥当な言葉が思いつかないかラ致し方ない。
まずはリュースティアの魔法で旧ピンクモフモフを風の檻から逃げられないようにしつつある程度まで弱らせる。
そして弱った旧ピンクモフモフをリズたちが交代で攻撃をし倒していく。
ここで一番気を付けないといけない事は旧ピンクモフモフを死なせないことだ。
死なせてしまったらそこでこのパワーレベリングは終了しまう。
各自、瀕死の状態まで追い詰めてもらいリュースティアの
普通の人から見れば金貨をドブに捨てているようなものだがそれもまぁいいだろう。
そうしてまたリュースティアがある程度まで弱らせて次の人が倒す。
これの繰り返しだ。
リズが非難のまなざしを向けるのも無理はないだろう。
こんなの鬼畜の所業以外のなにものでもない。
果たしてリュースティアにはちゃんと人間の血が通っているのだろうか。
割と真剣にそんなことを心配するリズなのであった。
*
回復→弱らせる→倒す
このルーティンワークが四週したあたりで旧ピンクモフモフからの反応がなにもなくなった。
前の周回まではかろうじて聞こえていたうめき声のようなものも完全に途絶えた。
生きてはいるがついに心が耐えられなくなってしまったらしい。
感じることをやめたのだ。
始めのころは痛みに対して悲鳴を上げたり身をよじったりと反応があった。
回復直後も風の檻から逃げ出そうともがいたりしていたしリズたちを殺そうと奮闘もしていた。
だがいつからか全く無反応になった。
つまらな、、、うぉほん!
そろそろ終わらせるか。
「みんなのレベルも結構上がったしそろそろ終わらせよう。最後、やりたい奴いるか?」
ちなみにこの魔族を倒すとステイタスが上昇すると言う話は噂ではなく事実だった。
普通の魔物を倒した時ときちんと比較したわけではないのではっきりとは言えないがおそらく普通の上昇値と比べ、2倍~3倍くらいは上昇することが分かった。
そしてこのパワーレベリングの結果、ルノティーナは+9レベル。
リズとシズは+17レベル。
スピネルは+20レベル。
それぞれ上がった。
人によって上昇値に差があるのはおそらく元のレベルの違いだろう。
一番レベルの高かったルノティーナはその分レベルも上がりにくいのだろう。
逆に一番レベルの低かったスピネルはレベルが上がりやすくこれほどまでの上昇を見せた。
トータル的なレベルではまだ他の三人に追いつかないがそれでも異常な成長と言える。
ちなみにそれぞれのレベルはリュースティアが本人に伝えてある。
この時にスピネルが不服そうな顔をしたのは言うまでもないだろう。
少し話がそれたが、リュースティアの拷問終了宣言にほっとしたのはきっと旧ピンクモフモフだけではないはずだ。
なるほど、拷問とはする方もやられる方もなかなかに堪えるらしい。
もっとも拷問のつもりなどこれっぽっちもないが。
「私たちはもういいわ。リューにぃがひと思いに殺ってあげて。」
戦闘大好きのルノティーナがやらない、だと、、、、?
これはきっと雨が、いや、槍が降るかもしれん。
など内心でめちゃくちゃ失礼なことを考えているリュースティアなのだが自分がすべての元凶だということにはまったく気が付く気配がない。
なにせみんなはノーマルなのだ。
SでもなければMでもない。
こんな拷問まがいのことを平然とやらせられるリュースティアが異常なのだ。
「そ、そうか。じゃあ他に殺りたい人いるか?」
ルノティーナに断られるとは思っていなかったので他の人に聞くなんて考えていなかった。
いくら魔族とは言えスピネルに殺させるなんて論外だし、リズたちも殺すことには不慣れそうだ。
「・・・・・・。」
三人には無言で首を振られた。
はい、俺が殺ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます