第101話 悪魔の所業
*
「ってことで行ってくるわ。」
リュースティアが買い物にでも行くような軽い感じで言う。
とてもじゃないがこれから戦いに行く風には見えない。
「行ってくるわ、じゃないわよ!相手は魔族なのよ?それにリューにぃもあいつのレベル見たでしょ!一人で戦える相手じゃないわ。」
ん?
俺もってことはルノティーナも視たのか?
ルノティーナは
まあいいや、あとで聞こう。
「いや、あいつそんなに強くないと思うぞ?バカそうだったし。黒幕がどんなもんかわからないけどアルじゃないなら大丈夫だよ。」
「だからって危険すぎます!罠かもしれないんですよ?」
「いや、あいつを転移させたのは俺だし、少なくとも罠はないと思うけど、、、。」
「そうじゃないでしょ。あいつが来たこと自体が罠かもしれないって言ってんのよ!」
「いや、それにしてはあいつ俺の事なんか知らなそうだったけど、、、、。」
「そんなのわからないじゃない。油断大敵よ。Sランクなら裏の裏まで読みなさい。」
「いや、でもさ!」
「「「でも、じゃない!」」」
こわっ。
何か言う端から論破されていく。
罠だった場合、身を守るのが一人だけのほうが楽だと言うのが一番の理由なんだけど多分それを言ったら殺される。
ついさっき助けて、守ってほしいとか言ったばっかだもんな。
さすがに俺だって学習するよ?
「じゃあどうしたらいいわけ?」
なんとなく聞かなくても答えが分かる気がする。
できれば外れててほしいけど。
「「「私たちも連れて行きなさい(ください)」」」
ですよねー。
はぁ。
*
「ケケケ、遅かっタではないカ。命ガ惜しくなったカ?」
「・・・・・・。」
仕方なく全員を連れて魔族を転送した場所に転移した。
だがそこで待ち受けていたはずの魔族を見て思わず言葉を失う。
えっと、お前だれだ?
てっきりあのピンクモフモフがいると思っていた。
というよりそうでないとおかしいんだが。
だがリュースティア達の目の前にいるのは見知らぬ人?だ。
ピンクではあるがモフモフではない。
ちなみにここまで一度に転移するのは技能的に無理だったので裏技を使った。
裏技というのはレヴァンさんの影魔法でみんなには俺の影に入ってもらった。
そして俺が転移し、みんなが影から出てくる、というものだった。
これなら一人分として転移できる。
うん。
レヴァンさんってやっぱり優秀だよね。
というかこの前ラニアさんに聞いたけど影魔法を使う人ってすごく珍しいらしい。
なんでも闇魔法の派生魔法に位置するらしくで先天的に覚えている者以外ではほとんど習得不可、それが普通と言われた。
機会があれば教えてもらおうと思っていたのに、、、。
眉目秀麗、不変で不死。
思慮深く、他人に対する気遣いもできる。
そしてダメ押しとばかりに希少魔法の使い手かよ。
何でそんな人が俺に仕えてんの?
これってもはやある種の嫌がらせだよな?
そうだよな?
というかそうじゃなきゃやってられん。
俺に特別な力なんてないし世界を変えるとか興味ない。
もちろん世界を守るにしても同じだ。
冷たいと思われるかもしれないが俺は自分とその周りの人間が平穏無事に生きていられればそれでいい。
もっとも神様の発言がこの上なく嫌な予感しかしないが。
はぁ。
だるっ。
そんな重いため息がリュースティアから聞こえたのはきっと気のせいではないはずだ。
「可愛くない、、、、。」
そしてそんなつぶやきが後ろから聞こえたのも気のせいではなかった。
というかさ。
おいルノティーナ。
お前は得体のしれない、しかも魔族のピンクモフモフを可愛いと思っていたのか?
「これガ我の本当ノ姿なり。恐怖ニおののき死ネ。それが嫌ならバその人形ヲヨコセ。」
勝手に説明を始めた元ピンクモフモフさん。
その姿はまさしくギリシャ神話に出てくるミノタウロスそのものだ。
もっとも体毛がピンクの毛なのであまり怖いとは言いにくいが。
恐いと言うよりも気持ち悪いがしっくりくるような見た目をしている。
現にスピネルは奴を見るなりすぐに視線を逸らした。
「ごめん、全然怖くない。あと俺的には死にたくもないし殺したくもないんだわ。ってことで帰ってくんない?」
「ケケケ、異ナ事ヲ言う。我ノ任務ハその人形を連レ帰ルこと。まあソッチノ女ドモハ我ラの慰み者ニでもなってモラウか。」
元ピンクモフモフは言ってはならない言葉を口にしてしまった。
リュースティアが何よりも大切にしている存在。
絶対に失いたくないと、一緒に笑っていたいと、そう思えた存在。
そんな彼女たちを連れて帰る?
慰み者にする?
「死ねよ。」
その瞬間リュースティアが消えた。
否、瞬雷にで一気に魔族との距離を詰めた。
そして魔族に防御の隙など与えるはずもなくぶん殴る。
そう、ぶん殴ったのだ。
魔法で攻撃するわけでも、風神で斬りつけるわけでもなく。
ぶん殴った。
ードゴーン!!!ー
「ぐはっ。」
リュースティアが消え、爆音、うめき声が聞こえる。
どうやらそれはリュースティアに殴られた魔族が地面にめり込んだ音らしい。
だがそれをかろうじてでも認識することができたのはレヴァンとルノティーナだけだった。
獣人特有の動体視力を持つスピネルでさえリュースティアの姿を捕らえる事ができなかったのだ。
レヴァンはともかくルノティーナがリュースティアの動きを捕らえられたのはひとえに彼女の戦闘センスと彼女自身がスピードに特化したタイプだからだろう。
それでも捕らえられたのはほんの一瞬だった。
「よーし。まだ生きてるな?【風縛】」
リュースティアは飛翔魔法を使っているのか空中に静止したまま死にかけの魔族を捕らえる。
そして自らの目線と同じ高さまで持ってくる。
もちろん満面の笑みで。
((((あっ、これ完全にキレてる。))))
そんなリュースティアの笑顔を見た少女たちは瞬時に悟る。
なにせ経験者たちだ。
そしてその笑顔がどれほど恐ろしいかもしている。
その身を持って経験したのだ。
顔が多少青ざめ、大量の汗が流れ落ちているのも仕方がない。
そう、これは仕方がないのだ。
本能よりももっと深い所に刻み込めれた恐怖。
リュースティアはマジギレすると笑うのだ。
「あの魔族、死なせてもらえるのかしら。」
誰かがそんなことを呟く。
すでにリュースティアの事を心配している者などいない。
どちらかというと魔族を心配しているみたいだ。
できれば一撃でとどめをさしてあげてください、と。
否!
リュースティアがそんな甘いワケがない。
当然泣いて命乞いしても許さないんだろうな。
「「「「ははははははは、、、、、、。」」」」
そしてそんなみんなの乾いた笑みに答えるようにリュースティアはさらに口角を吊り上げた。
魔王アルフリックの戦いを経てから大切な存在をいっそう強く意識することになったリュースティアは敵に情けをかけることをやめた。
殺した相手の命を背負う事に変わりはない。
だが完膚なきまでに壊す。
2度と俺の大切に手を出そうなどと思えないくらいに。
そしてそれがこの場を見ているであろう黒幕まで届くように。
俺の平穏な生活を壊そうとする奴には容赦しない。
「存分に喰らって死ね。」
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