第98話 悪魔のスムージー

「みんな心配かけてほんとに悪かった。お詫びと言っては何だけど今日の夕飯は期待してくれ。俺が腕によりをかけてデザートまで作るから。」


みんなに話をするのは食事の後にしよう。

そう思って元から考えていた提案をする。

俺にできる事は何かを作る事しかないからな。

それに料理には心がこもるって言うし、俺の気持ちも伝わるはずだ。


「待って!」

「そうそう、リュースティアも疲れてるだろうし、今日は私たちが作るわ!」


と思っていたらなぜか全力で拒否された。

少し、いや、かなり傷つく。

俺の唯一の取りえが、、、、。


「気にすんなよ。俺が作りたいだけだからさ。」


だがそんなことで引くリュースティアではない。

久しぶりに我が家で料理ができる。

しかもこの厨房はリュースティアの特注。

調理器具はもちろん、材料にいたるまでなんでもそろっているのだ。

この世に二つとない自慢の厨房だ。


「いや、でも。」

「あっ、あーあ。」


皆の静止も聞かずに厨房の扉を開けたリュースティア。

そして中の惨状に思わず言葉を失った。

天井や床、壁は黒い煤で覆われ、苦労して作った調理器具は見る影もない。

かろうじて蛇口が一つ残っているくらいだ。

それも半分ほど取れかかっているが。


「何、これ、、、。」


ようやく絞りだした声はかすれすぎて言葉になったかすらもわからない。

瓦礫の山と化した調理器具の数々。

そんな光景には見覚えがある。

これはルノティーナが初めて屋敷に来た時と同じだ。

はっ、もしや⁉

最悪な想像がリュースティアの頭をよぎる。

どうか勘違い、気にしすぎなだけであってくれ。

そんな事を願いながら、みんなが必死に止める声も聴かずに屋敷中を確認する。


「嘘、だろ、、、。」


屋敷を一通り確認し終わりリビングに戻ってきたリュースティアはその肩を落とすしかなかった。

屋敷は外観こそ無事だが中身は悲惨なものとなっていた。

厨房はもちろん、二階は半壊状態で水浸し。

部屋にはごみと大量の布切れ。

何をどうしたらたった一週間で屋敷をここまでにできるのかリュースティアには見当もつかない。


「あはははー。私たちに家事は無理だったみたい。」

とルノティーナ。


「普段はもっと、まましなのよ!」

とシズ。


「リュースティアさんの為に練習していたはずなんですけどね。」

とリズ。


「・・・手に負えない。」

とスピネル。


「光の精霊が悪いの!シルは悪くないの。」

とシルフ。


「妾はいかなる罰も受けようぞ。」

とディーネ。



うん、わかった。

全員有罪って事だろ?

スピネルに関しては微妙な気もするがこの際関係ない。

甘やかすのはよくないかな。


「とりあえず、全員こっちに来ようか。」


笑顔で。

それはもう満面の笑顔で言う。


あっ、これあの時と同じだ。

かつてリュースティアがマジギレした場面に出くわしたことのあるリズとシズは全身から冷や汗を垂れ流す。

そしてそんなことを知らない他の面々もリズたちほどではないにしろその顔を青白くさせていた。


「どうした?汗がすごいぞ。それに顔面が蒼白だ。俺が治してやる。こっちにこいよ。」


リュースティアは笑顔を張り付けたままどこからか取り出した瓶を片手に持っている。

その瓶の中身は緑色のドロドロした液体だった。

見た目こそ以前飲んだことのあるスムージーと同じだがそれは蓋をしていても分かるほどに強烈なにおいを放っている。

その匂いは絶対に食べ物じゃない。

だがリュースティアが何をしようとしているのかを察した面々。

当然のごとく拒否する、逃げると言う選択肢は当然ない。

諦めてリュースティアの元へと行く。


「そうだ、いい子だ。この俺特性のこのスムージーを飲めば体調不良なんて一発で治るぞ?だから飲め。」


リュースティアからスムージーを渡される。

リュースティアは相変わらず笑顔のままだ。

彼女たちは手渡されたスムージーを見る。

中身は仲良くみんなに均等に配られた。

六人で分けたので一人当たりの量は一口とちょっとだ。


だが、たったそれだけにも関わらずそれが放つ匂いは強烈。

何を入れたらこうなるんだってくらいに青くさい。

見ているだけで胃がむかむかしてくる。

飲みたくない。

どう考えても人体にとって有害なものだ。

いくら何でもこんなものを飲ましたりしないはずだ。

一瞬、期待を込めてリュースティアを見る。


彼は変わらず拒否することなど許さない、とばかりの笑顔。

もう避けられない。

覚悟を決めてスムージーを見つめる。

そして全員で視線を躱し、一気に中身をあおる。


「「「「うっ、うぇぇーーー。」」」


飲んだ瞬間にこの世のものとは思えない青臭さが口中に広がる。

そしてこの何とも言えないドロドロ感がさらなる不快感を持ってくる。

さらにこのドロドロのせいで青臭さがいつまで経っても喉にまとわりついて離れない。

それはリュースティアが作ったものとは思えないほどに不味かった。

あまりの不味さに涙目になりながらリュースティアの事を見上げる。

彼は笑っていた。

不味さにもだえ苦しむ彼女たちを見て笑っていた。


鬼!

悪魔!

人でなし!


全員が何かしらそんな事を思ったのは間違いないだろう。

もっとも不味さでそれどころではなく、口に出せた者はいないが。


「上手いだろ?喜んでくれれよかったよ。屋敷、壊してまで飲みたかったんだもんな。」


もだえ苦しむ彼女たちを見下ろし、そう言うと部屋から出ていくリュースティア。

でていく前に置いていった水はせめてもの優しさだろう。

彼女たちは我先にと置かれた水を口に含む。

するとたちまち口の中に残っていた青臭さが消えた。

どうやらこの水はただの水ではないらしい。

おそらく解毒か消臭効果でも付与されているのだろう。

さすがリュースティア、ぬかりない。


「はぁはぁ。Sランクになって初めて死を感じたわ。」


「リュースティアってやっぱり鬼ね。」


水を飲み落ち着いてきた彼女たちはいっせいにリュースティアの非道さを口にする。

さっきまでの感動は何だったのだ、というくらいに一気にリュースティアを見る目が変わる。


「リュースティアさんを本気で怒らせたら死んじゃうかも。。。」


そして全員が落ち着いた頃リズがぽつりと口にする。

そしてそのつぶやきにその場の全員が激しく同意する。



”リュースティアは怒らせないようにしよう。”


この場で暗黙の了解ができたことをリュースティア知らない。


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