第97話 反省と仲直り
*
緊張した面持ちでリュースティアは屋敷を見上げていた。
その後ろには当然のようにレヴァンが控えている。
約一週間ぶりに帰って来た。
まだ半年も住んでいた訳ではないがやはり見ると安心する。
「すーはー。よし!」
リュースティアは深呼吸をし覚悟を決める。
彼女たちと話をするのだ。
彼女たちを守りたい、危険にさらしたくないと言う気持ちは変わらない。
だけど彼女たちの前では強がるのをやめよう。
そう決意し全てを話すことにした。
「た、ただいま。」
意を決して玄関の扉を開ける。
中に皆がいることは確認済みだ。
「おかえり。」
扉を開けた瞬間に抱き着かれた。
腰まで届くか届かないくらいの高さなのでおそらくスピネルだろう。
驚いたまま視線を上げるとそこにはみんながいた。
みんな安心したような表情を浮かべている。
良かった、怒ってはないみたいだ。
それにみんなが出迎えてくれるなんて思ってもいなかった。
「み、みんなどうして?」
「レヴァンさんが教えてくれたのよ。リューにぃが帰ってくるって。」
ルノティーナがこともなげに答える。
レヴァンさんが教えてくれた?
いや、いつだよ!
レヴァンさんはずっと俺と一緒にいたんだ、そんな時間あるはずない。
「えっと、レヴァンさん?」
思わずレヴァンさんを振り返るリュースティア。
するとレヴァンさんは悪びれる様子もなく答えた。
「私の影魔法で伝えただけだ。」
そんなにあたり前のように言われてしまうと怒るのもバカらしくなってくる。
苦笑いでやりすごし改めて皆の方へ向き直る。
その顔は真剣そのものだった。
「ごめん!俺、みんなを守るって言葉に逃げてた。みんなが俺の事心配してくれてるってわかってたのの自分の弱さを見せつけられてるようで一人イラついて、みんなに当たって逃げた。ほんとにごめん。」
ごめん。
何度もそう言い頭を下げた。
みんなの顔を見るのが恐かった。
みんなの事は信じているがそれでも見放されたらどうしよう、そんな不安が消えなかった。
「はぁ、リュースティアってやっぱりバカよね。」
「リュースティアさん、顔を上げてください。リュースティアさんが弱いことなんてみんな知ってます。それでも私たちのために強くあろうとしてくれていることも。だから顔を上げて下さい。リュースティアさんは戻ってきてくれた。それは私たちを信じてくれているからですよね?」
「ああ。俺は俺が大好きなみんなを信じたい。一度逃げたくせに勝手な言い分かもしれないけど、今度こそきちんとみんなと向き合って守らせてほしい。そんでこれはもっと身勝手なお願いだけど俺の事を助けてほしい。俺を、守ってほしい。」
リズの言葉に顔を上げる。
そして一気に自分の想いを口にする。
普段なら恥ずかしくて絶対に言えない言葉だけどなぜか今は素直になれた。
「まったくリューにぃってほんとずるいわよね。」
「激しく同感、けどこれがリュースティアだもの。」
「・・・・ん。リューは最高。」
「みんなで頑張るしかなさそうですね。」
口々にそんなことを言う四人。
あれ、えーっとこれはけなされてるの、か?
「お前ら、俺の事ばかにしてんだろ。」
これもいつもの事か。
そんな事を思いつつがっくりとうなだれるリュースティア。
その様子が面白かったのか四人が一斉に笑いだす。
久しぶりに聞いた皆の笑い声だ。
リュースティアもそんな声につられて笑いだす。
ああ、帰って来たんだ。
俺はみんなのところに。
これから先、何があるかはわからないけどみんなとなら何とかなる。
そんなことを強く思うのであった。
*
リュースティア達が笑顔の再会を果たした後、みんなでリビングへと向かう。
若干、屋敷の中が荒れている気がするが許容範囲内だろう。
この四人と精霊たちのことだ、屋敷が半壊していてもおかしくないと思っていた。
(さすがにそんな事はなかったか。たった一週間じゃそうひどい事なんてできないよな。)
なんという思い違い。
リュースティアのそんな思い違いが訂正されるのはもう少し後の事だった。
「リュー!!!」
リビングの扉を開けると目の前にいきなり何かが飛び込んできた。
持ち前の動体視力でなんなくそれを受け止めるとシルフだった。
顔中を喜ばせているのは良いがなぜか涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
いくら感動の再会とは言えさすがに汚い。
「ただいま、シルフ。心配かけてごめんな。」
シルフを床に降しハンカチで顔を拭ってやる。
さすがにあんな顔のまま抱き着かれるのはごめんだからな。
「も、もう我慢できぬ!ご主人様‼」
シルフの頭をなでてやっているともう一人、聞きなれた声が耳に響く。
そして前方に危機感知が働く。
もちろん気持ち悪い顔で飛び込んでくるのはディーネだ。
シルフの時とは違い受け止めず、回避する。
「なっ⁉シルフとの扱いの差が~。」
すれ違いざまそんな事を叫びながら後方へと飛んで聞くディーネ。
ご丁寧にも後ろにいた四人全員がディーネを避けていた。
うん。
まぁあの顔を見ればそうだよな。
そんな事を思っているともう一人の視線がリュースティアに向いていることに気付く。
その視線の持ち主は抱き着いてくる気はないらしい。
残念だ。
精霊らしからぬそのボディを堪能するチャンスだったのに、、、、。
っと、そんなことおもってません、ませんよ?
だからリズさん、落ち着きましょう。
「光の精霊、か?どうしてここにいる?」
「別に、あなたに会って確かめたいことがあっただけよ。けれどもう大体わかったからいいわ。でもそうね、また日を改めて来ることにするわ。」
偉そうに言う光の精霊に何か言おうとしていたシルフだったがリズの顔を見て黙る。
そしてそれは光の精霊も同じだった。
急に慌てた様子で屋敷から去っていった。
うん?
俺のいない間に何かあったのだろうか?
まあいっか。
何はともあれこれで元通りだ。
全員がそろった。
誰もリュースティアを見放したりはしない。
そんな事に安堵しつつヴァンの一件以来、ようやくひと心地付いた気がした。
ありがとう。
内心でみんなに感謝を告げた。
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