第83話 勇者(裏)
*
「あれ、みんなずいぶん早いね。もう少しのんびりでもよかったのに。」
空間魔法で作られた亜空間とでもいうべき異界に足を踏み入れる。
殺風景な異界は急ごしらえされたのが分かるくらいに何もない。
あるのは無骨な椅子と長テーブルくらいだ。
だがその用意された椅子は両サイドともすべて埋まっている。
どうやら自分が一番最後のようだ。
「ふん、緊急招集をかけておきながラ。当の本人が一番遅いと話にならン。」
テーブルの右手側、中心に座っている者が嫌味ったらしく口にする。
彼の左右に陣取っている者からも同意の野次が飛ぶ。
彼は瓢人族の魔王。
その隣にいる者達は鳥人族の魔王に麟族の魔王だ。
「相変わらず獣騎三兵は手厳しいなあ。ごめんね、ちょっと面白い子が居たからさ。」
彼らの嫌味など気にするそぶりも見せず、彼らの後ろを通り奥へと歩みを進める。
そして最奥に辿りつくと中央の席に向かう。
先ほどまで着席していた彼らはすでに起立し、その姿勢を正していた。
もちろん嫌味をぶつけてきた瓢人族の魔王も、だ。
皆に見つめられながら玉座へと腰を掛ける。
玉座に腰を掛けると同時に左右にいる者達が左手を軽く曲げ心臓の上に置く。
これは彼らに共通する敬礼のようなものだ。
「「王よ、我が心臓を贄に。」」
そして口をそろえ、言う。
これは彼らなりの忠義の見せ方らしい。
あまり堅苦しいのは好きじゃないのだが、、、。
気に入っているいないではなく、彼らがやりたいらしいから好きにさせている。
正直、どうでもいいことの一つだ。
「うん、もういいよ。」
その一声で彼らは敬礼を解き、各々席に着く。
そして王に一番近い初老の男だけが席につかず話を始める。
どうやら今回は彼が進行役のようだ。
ここにいる全員がそう思い、彼の話に耳を傾ける。
「今回の招集は王自らがかけたものだという事は皆も承知だろう。皆、その理由が聞きたい事と存じる。」
「御託はいい、さっさと要点を言えってんだよ。」
短気なのかさっきの瓢人族がまたも口をはさむ。
「これだから獣は短気でいけない。少しは余裕を持ちたまえ。」
この場にいる唯一の魔族。
そして魔族九鬼門を従える王でもある男が嫌悪感をむき出しにしながら言う。。
九鬼門と言えばリュースティアが苦も無く圧勝したカイザが記憶に新しい。
だが彼は九鬼門の中では若く、思慮に欠ける。
そのせいか彼の実力は九鬼門でも下から数えた方が早い。
だがやはりそこは王だ。
カイザなどとは比べものにならないくらいの強さを誇る。
それこそカイザなど一撃で倒せるくらいには強い。
だがそんな彼でさえも劣等種とされる人間の魔王に忠誠を誓っているのだ。
「けっ、何が余裕だ。元王様よぉ。そんなに普通の椅子は座り心地がいいか?」
「獣はやはりうるさい。王と言う称号に意味などがない事がなぜわからん?呼び名などよりも果たすべき崇高たる目的が大事なのだ。まぁお前のような小さな能しかも持たぬ獣には到底理解などはできんだろうが。」
「んだと!喧嘩売ってんのかてめぇ!」
一発触発の危険をはらんだ空気があたりに広がる。
魔王と魔族の王が戦うなど世界がいくつあっても足りない。
聡いものならすぐにでも理解するだろう。
世界は終わるのだ、と。
だがそれを眺めている周りの者達はまったく焦ったそぶりを見せない。
まるで興味がないかのように見向きすらしない。
ごく一部の者だけが面白そうに成り行きを観察しているだけだ。
「そこらへんにしておきなよ。テヴァラも座っていいよ、この後は僕が引き継ぐ。」
瓢人族の魔王が椅子から立ち上がり、魔族の王へ攻撃をしかけていたので面倒なことになる前に仲裁しておく。
そしてそれと同時に進行役のテヴァラと呼ばれたエルフの従者も座らせる。
「ふん。」
いくら瓢人族の魔王といえど忠誠を誓った相手に止められては従うしかない。
沸騰寸前の怒りは完全に消化不良だ。
不貞腐れながらもとりあえずは椅子に座りなおす。
「君の事は嫌いじゃないけど少し我慢が足りないね。今回呼んだのは僕だ。文句があるなら僕が聞くよ。」
若干めんどくさそうにそんなことを言う。
そして気怠下な態度からは考えられない殺気を周囲に振りまく。
とても人間の放つ殺意とは言思えないほどの凶悪なソレは周囲を問答無用で黙らせる。
もちろん文句のあるものなどいない。
「うん、じゃあ話を始めようか。古き時代を生きた魔王たち、そろそろいらないと思うんだけどどう思う?」
*
王と呼ばれたものが話を切り出してから半刻ほどで大体の話がまとまった。
古き時代を生きた魔王と呼ばれるものは王を含めて5人。
赤き竜、クエレブレ。
災厄の巨人、スルト。
海の暴食、レイン・クロイン。
不死の王、クドラク。
そして全能者、ハリストス。
この五人が古き時代を生きた魔王と呼ばれるもの達だ。
これは人々が彼らを指す言葉であって正確な名前ではない。
故に彼らの本当の名を知っているのはごく一部の限られた者だけだ。
もっとも彼らにとって名など他者がすがる記号でしかないのだが。
彼らは孤独だ。
名など呼んでくれる近しい者がいなければ。
他者と関わらなければ、必要ない。
古き時代を生きた魔王。
彼らの中で一番若い不死の王、クドラクですら500年前には存在していた。
そして彼らはそのすべてを蹂躙し、破壊の限りを尽くしてきた。
それも悪意からなどではなく、ただ暇だったから。
ここにいる
自らの力で魔王へと至った者達、つまりは理不尽の塊だ。
そして当然のように彼らは圧倒的な力を持つ。
彼らによって滅ぼされた時代は1つや2つなどではないはずだ。
それほどまでに圧倒的理不尽な力を有する。
しかしそれゆえに彼らは他者と、世界と関わることをやめた。
強すぎる力、長すぎる命は彼らから野望と言うものを奪った。
いまだ人々は彼ら、古き時代を生きた魔王たちを恐怖の対象と見ている。
だが魔王たちは他者など眼中にない。
どこにでもいる虫と同じだ。
*
「じゃあそういう事だから彼らにはこの世界から退場してもらうね。まずは一番若い
「王のお気に入りか。それは興味があるな。お気にいりならばいずれこちら側に引き入れるつもりか?王の意向であれば反対はしないが魔王の1人も倒せぬようでは戦力になるとはおもえない。」
進行役であった従者の男、テヴァラが王のお気に入りと言う言葉に反応し、声をかけてきた。
ここにはすでに王と、魔族の王、そしてこの従者の男しかいない。
他の者達は会議が終わったと同時にこの場から消えて行った。
彼らも人工的な魔王と言え、それなりに忙しいようだ。
どっかの国でも堕とす気かな?
「彼はちゃんと強いよ。実力的にはみんなに負けず劣らず、って感じかな、何人かよりは確実に強いしね。けど彼はこっちには来ないよ。なんたってまだまだ彼は青いからね。でもそうだね、彼がもし、もしこの世界に希望を見いだせなくなったらこちら側に入れるのも面白いかもね。」
「王がそこまで興味を示すのもめずらしい。余計に興味が出てきた。ぜひ一度遊んでで見たいものだ。」
「ダメだよ。そこで彼と戦うことになるとおもうから。多分彼はそうするんだ、青くて脆くて、そしてきれいな彼は。うん、壊したくなってきた。」
恍惚とした表情を浮かべこれから起こるであろうことに心を震わせる。
そして思うのだった。
ああ!
楽しみだなぁ。
早く僕に壊させて。
すぐに行くからね、リュー君
楽しい
そして王は異界を後にする。
ある人物との再会を心待ちにしながら。
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