第82話 助けたい想い
*
「リュー‼」
限られた精霊たちのみが立ち入ることを許された場所。
人々が聖域と呼ぶそこは輝く草花に溢れ、とてもゆっくりとした時間が流れている。
聖域の中ではじけては消えてゆく光が何とも言えない幻想的な空気を作り出していた。
そんな幻想的でありながらもどこか儚い精霊たちの聖域にシルフとウンディーネはいた。
ある目的の為。
もちろん自分たちの事ではなくリュースティアの為だ。
シルフたちがリュースティアと別行動をしてから何日か過ぎた。
ここは永遠に近い時を生きる精霊たちの住処の為か時間の流れを把握しずらい。
その為ここに来て一日なのか一週間なのかシルフたちにもはっきりと分かっていない。
だがそんなにはたっていないはずだ、と思う。
聖域にいると外界との交信がうまくできなくなる。
リュースティアを通して外界の事が何となくわかるくらいではっきりとした意思を伝えたり感じたりすることはできない。
つまりシルフとディーネはリュースティアと何日か音信不通に近い状態で過ごしている。
普通ならお互いにそんな状況が続けば不安になるだろうがシルフたちに関してはまったくの例外だった。
リュースティアは四大精霊である2人を心配はしているがけがをしたり、命があぶなかったりの心配はしていない。
精々、厄介ごとを引き起こしていないかの心配くらいだ。
逆にシルフやディーネはリュースティアの強さを高く評価している。
ゆえに別行動をしようがあのりゅーリュースティアの事だ、そこら辺の敵に後れを取るとは思えない。
だからたいして心配はしていなかった。
そのリュースティアとの繋がりが切れた。
故意に、というよりは強制的もしくはつながりを維持するだけの力を失った感じだ。
今までは普通だった。
普通とはいってもあくまで聖域内での普通なのだが。
今までもリュースティアの力を感じれくなるときはあった。
それも一瞬の出来事。
だがしばらくたってもリュースティアの反応は消えたまま。
胸騒ぎがする。
「シルフ!お主も感じたか?ご主人様の反応がない。妾の気のせいであればよいのじゃが、嫌な予感がするのじゃ。」
シルフ同様、ディーネも何か感じたみたいだ。
不安そうな顔をしている。
だがそれはシルフも同じだ。
「シルはリューのところに帰るの!」
「じゃが完全に反応がない所を見ると妾達を呼び出すのは無理なのであろう。単純に魔力が切れたか、それとも、、、。」
「違うの!シルにはわかるの。リューはシルを待ってるの!」
絶望的な観測を述べようとしたディーネを途中で遮る。
そしてそのまま全魔力を集中し、リュースティアのわずかな気配を探る。
少しでもリュースティアの気配がつかめれば契約の力を利用してこちらからリュースティアの元へと転移することができる。
「妾とてご主人様がそう簡単にくたばるとは思うておらん。シルフよ、お主の方がご主人様との付き合いは長い。ご主人様を捕らえるのはお主に任せるぞ。妾は奴を連れてくる。」
そう言ってどこかへと消えるディーネ。
シルフはそんなディーネに返事をすることなく必死にリュースティアの気配を探っている。
リュー、どこなの?
リューはシルが守るの。
リューはシルとずっと一緒なの。
だから絶対に死んじゃダメなの!
*
想像以上だ。
古き時代を生きた人間の魔王がこれほどまでとは。
このままではまずい。
このままではリュースティア様まで殺されてしまう。
彼だけは殺させるわけにはいかない。
彼は主の願いを託された人物なのだから。
「主よ、最後まで私はなんの役にも立たなかったな。」
レヴァンは物言わぬ首と化した主を見ながらそんなことを呟く。
かれこれ500年以上は使えてきた。
それこそ彼がヒトの子だったときから。
彼がすべてを失い、すべてを滅ぼした時も隣にいた。
だが隣にいようと、従順に使えようと私が彼の心の支えになることはできなかった。
だから主が死ぬと言ったときも止めることができなかった。
主の覚悟を踏みにじってはいけないと自分に言い訳をして。
だがリュースティア様はそうではなかった。
ぼろぼろになりながらも主を止めた。
そして彼の間違いを指摘し、共に歩む道を提案した。
最初はただの世間知らずのお人よしかと思っていた。
偽善的な自己満足に付き合う気はない、さっさと主の贄にでもなればいい。
だから自らが危険にさらされたら簡単に逃げると思っていた。
所詮、人間なんて醜い生き物なのだから。
だが彼は今も亡き主のために絶対に敵わないであろう敵に向かっている。
主の為に怒っている。
主のために泣いている。
それだけで私はうれしくなった。
彼だけは絶対に死なせてはいけない。
私は再び強くそんなことを思った。
*
何とか隙をついてアルフリックからリュースティア様を引き離すことに成功した。
タイミングを見計らっていたせいでリュースティア様はぼろぼろ。
後少しでも遅かったら間に合っていなかったかもしれない。
もっともまだ、間に合ったとは言えないが。
軽く見ただけで分かる。
ただの切り傷ではない。
専門ではないので詳しい事はわからないがこれは何か強力な呪いの類に見える。
「しっかりしなさい。あなたはこんなところで死ぬような器ではないでしょう!」
影をつないでいる隠れ家に着くとリュースティアをベットに寝かせ傷の手当てをする。
止血しているにも関わらず血が止まる気配がない。
隠れ家に合った
しかし効果は少しも見られない。
ベットに横たわるリュースティアが目を覚ます気配もない。
心音が少しずつ小さくなっているのも気のせいではないだろう。
ダメだ。
彼を死なせては。
誰か、誰でもいい。
彼を救ってくれ。
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