第81話 乱入者

完全に油断していた。

あれだけエルに油断するなと言われていたのに。

だが過ぎてしまったことを嘆いても仕方がない。

今は乱入者の対処が先だ。

何で、がここにいる!


「あーあ、やっぱりこうなっちゃったんだね。ダメじゃないか、勝手なことをしたら。異常事態イレギュラーはきらいなんだよ。」


乱入者はそう言いながらリュースティア達との距離を詰めてくる。

ヴァンも状況を察してか顔には真剣な表情が浮かんでいる。

襲撃の際に上がった煙が引き、相手が目視できるようになる。

もっともリュースティアにはマップで相手が誰なのかは当にわかっていたのだが。

それでも目視するまでは信じることができなかった。


「アルフリック。なんでお前がここにいるんだ?それにその称号は、、、、。」


そう、乱入者の正体はアルフリック・ドゥアーズだった。

称号の欄には勇者(仮)、魔王となっている。

前に合ったときは魔王という称号などなかったはずだ。

それにレベルやスキルも前に合ったときとは比べ物にならないくらい強い。


「あれ?もうアルって呼んでくれないのかい?」


「そんなことはどうでもいい。どういうことか説明してくれ。」


態度相は変わらず、街であった時と変わらない。

だからこそわからない。

なぜ勇者が魔王をしているのか。


「リュースティアも魔王アルフリックと知り合いだったであるか?」


リュースティアとアルの会話にヴァンが入り込んできた。

もしかしてヴァンもこいつと知り合いなのか?


「俺もって、まさかヴァンもこいつの事知っているのか?」


「よく知っているのである。共に古き時代を生きた魔王であるからな。何用でここに来たかは知らないが。もう何百年も交流はなかったのである。」


古き時代の魔王ってこいつが?

ってことは少なくみても500歳以上、信じられない。

こいつの種族は人間じゃなかったのか?


「信じられないって顔してるね。けど事実だよ。僕は古き時代を生きた魔王の1人。それでいて魔王を倒した勇者でもあるんだ。」


「意味がわからない。魔王が勇者になんてなれるもんなのか?それに称号だって隠せるもんじゃないだろ。」


普通に話していただけなのに急に危機感知が働いた。

場所はヴァンの近く。


「なれるんだよ。こうすればね。」


危機感知の働くままにヴァンとアルの間に割り込もうとする。

だが、間に合わなかった。

目の前でアルの持つ剣がヴァンの首を切断する。


「ヴァン‼」

「主!!」


大丈夫だレヴァンさん、あわてるな。

あいつは不死者アンデッドだ。

それに不死の王アンデッドキング

そう簡単に死んだりしない。


だがそんなリュースティアの想いとは裏腹にヴァンの命の灯はすでに消えてしまっている。

備考欄やマップを見るまでもない。

リュースティアの中の何かがそれは変えようのない事実だと訴えかけている。


不死の王アンデッドキング、古き時代を生きた魔王ヴァンはたった一人の薙ぎによって絶命した。


「こんなふうにね、魔王を殺すと勇者の称号が付くんだ。ごめんね、リュー君の獲物だったんだっけ?こいつ。」


「ってめぇ‼【吹き荒れろ、風神】」


「リュースティア様、ダメだ!ここは引いてください!」


目の前で友達を殺され我を失うリュースティア。

相手との実力差を忘れてアルに斬りかかる。

レヴァンさんがアルに向かうリュースティアを必死に止めようとしているが完全に頭まで血の昇っているリュースティアにその声が届くことはない。


「あはは、戦闘で冷静さを失ったらだめってエルに教わらなかったのかい?そんな乱れた剣じゃ僕には届かない。」


リュースティアの剣を簡単にかわすアルフリック。

まともに戦う気はないようだ。


「うるせぇ!お前は俺が倒す。【雷矢サンダーアロー】」


剣だけじゃ分が悪いと思ったリュースティアは魔法も織り交ぜ攻撃をする。

だが、それでもリュースティアの攻撃がアルフリックに届くことはなかった。


「もうそろそろいいかい?僕はここで君と戦う気はないんだよ。魔王一人死んだくらいなんだっていうんだい?」


「うるさい!お前はここで、俺が倒す。」


勝手に戦いを収め、去ろうとするアルに必死に食らいつく。

ここでこいつを逃がしてはいけない。

俺の中の何かがそう訴えかけている。

だがここまで実力差があるとは思ってもみなかった。


「うーん、物わかりがいい方が長生きするんだけどなぁ。絶対に君を生かしておかないといけないわけじゃないしめんどくさいからここで殺しちゃおうか。」


そう言ってアルフリックはヴァンの首を刎ねた剣をリュースティアに向ける。

ヤバイ。

剣が向けられた瞬間にそう思った。

不死者アンデッドであるはずのヴァンを一撃で殺したこともそうだが何か特殊な効果があるのかもしれない。

かすり傷すら許されない、そんな気がした。


「行くよ。あんまり痛くないようにするから。」


そう言って一気に踏み込んでくる。

さっきまでリュースティアの攻撃をかわしていた時とは比べ物にならない速度だ。

くそ、躱しきれない!


「ぐっ、、、。」


かろうじて致命傷にあることは避けられたが浅くはない傷だ。

それに斬られたところから熱を持った何かが全身を駆け巡る。

毒の類だろうか、視界がかすんできた。


「せめてもの慈悲で一撃で終わらせてあげようとしたのに。下手に躱したたリュー君がいけないんだよ?苦しんで死んじゃうんだろうけど、しょうがないね。君がいけないんだ。」


そう言って剣を鞘に納めるアルフリック。

その眼には何も写ってはいない。

目の前で消えゆく命すらもアルフリックにはどうでもいい事だった。


「っざけんな、、、。お前は俺が。理由を聞くまで逃がさない。」


切られたところはすでに痛みを感じない。

全身を巡った熱は今にも発火しそうなほどに熱い。

視界は靄がかかったままだ。

それでもリュースティアは前に進む。

その先にいるアルフリックに一矢報いるために。

ヴァンの敵を討つために。


「おっかしいな。まだ動けるのかい?普通ならもう死んでいてもおかしくないのに。これは後々の事も考えてきちんと殺しておくべきかな。」


不思議そうにリュースティアを見た後、鞘に戻した剣を再び抜く。

そしてすでに風神を構えることすらできなくなったリュースティアに無慈悲にも斬りつける。

一度ならず二度、三度。

容赦なく何度も何度も斬りつけていく。

そして何度目かわからないが胸を斬りつけられた時、リュースティアはついにその意識を手放した。


「うん、思っていたよりも丈夫だったね。君が勝手な事さえしなければもう少し駒として生きられたのにね。おやすみ、リュー君。」


そしてとどめの一撃、とばかりにその剣をリュースティアに突き立てる。

だがその剣はリュースティアの体を突き抜けることなく地面に刺さった。


黒い影がリュースティアを包み込み、そのまま影の中へと引きずり込んだ。

先を見るとヴァンの従者であった青年が影を操っているのが見えた。


「ずっとタイミングを計っているのはわかっていたけどいいとこついてくるね君。」


「偉大なるあなたに褒められるとは光栄だな。だがリュースティア様を殺させるわけにはいかない。」


心にもない賞賛をのんびりと述べながらも反撃は素早い。

だがレヴァンもそんなアルフリックの反撃に動じることなく影を操る。

そしてアルフリックの攻撃が届く前に自らも影の中へと消えた。

もちろん遊技場にいる彼女たちも、だ。

彼女たちはこれから必ずリュースティアに必要になる。

目の前で友を殺され、手も足も出ずに負けた。

リュースティアが止まるか進むかは彼女たち次第な気がした。

もっともあの傷でリュースティアが生きていればの話だが。


「逃げられちゃったな。まああの傷だし、そう長くは生きていけないろう。」


影の中だろうと相手を追う術はある。

それでもリュースティアが助からないことを知っているアルフリックは追うことをしない。

しばらくその場に立ち尽くすと音もなく地面へと消えた。


これが人々の希望、勇者アルフリック。

そして人々の絶望、魔王アルフリック。


どちらも本当でどちらも嘘。


だが、ただ一つ、言えることがある。

リュースティアは負けた。

圧倒的な力の前に何もできず。

目の前で友が殺されたにも関わらず、一矢報いることすらできない。

弱い。

俺は何も守れない。

弱い。

俺は、弱い。



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