第80話 託された想い

「私も願って、望んでいいのであるな。」


いくらか体力の回復してきたヴァンがそう言うことを言う。

そう言えばヴァンの本当の名前ってなんなんだろう。

レヴァンさんはヴァンが人間だったころから仕えているって言っていたし、知っているんじゃないのか?

ていうか俺が聞いたときも一番の新参とか言ってたし。

なーんか信用できない人なんだよなぁ。

悪い人じゃなさそうだし、ヴァンのことを本当は慕っているのも分かるんだけどさ、、。


「まっ、そういう事だ。うまいケーキでも食べながらこれからの事一緒に考えようぜ。」


「ふ、そうであるな。リュースティアが送ってくれた”とまと”とかいうやつをもう一度食してみたいである。だがこんな破壊された城ではふさわしくなかろう。」


そういってヴァンがあたりを見渡す。

やっぱり吸血鬼だけあってトマトは気に入ってくれたのか。

テンプレわかってるな、こいつ。


それにしても結構壊れてんなぁ。

なるべく被害が広がらないように気を付けたんだけど。

俺、まだあの遊技場であんまり遊べてないし、、、、、。

まあその遊技場もふつうに壊れてんだけどね。


「仕方ない、直すか?」


「それはありがたいのであるがいくらリュースティアと言え、城の再建にはかなりの日数を要するである。」


うん。

普通はそうなんだよな、普通は。

けど俺には固有スキルユニークスキルというくっそ便利なものがあるのだ。

しかも城内は見学済みなので創造に困ることもないだろう。

それにここまでの旅路で廃材とか鉱物を補充したし。


「あー、それは問題ないな。【城創造キャッスル・クリエイト】」


例のごとくストレージから材料となる機材を取り出し、呪文を唱える。

城を創造するのは初めてだが家を作るのとそう変わらないだろう。

青い光が城の跡地いっぱいに広がる。

そしてその光が収まる頃には崩壊前と瓜二つのしろがそびえ立っていた。


うん、いい感じだ。

細部が少し違うのはご愛敬ってことで。

良いよな?




「まったく、リュースティアには驚かされるばかりであるな。」


完全になおった応接室でお茶を飲みながらヴァンが言う。

お茶を淹れてくれたのはレヴァンさんらしいが、上手い。

さすが何百年も臣下をしているだけあると感心してしまった。

もっとも美男子レヴァンさんは魔法で美女レヴァンさんに戻ってしまっている。

俺に男色の趣味も、女装男子の趣味もないからやめてほしい。

まあこれはレヴァンさんなりの苦肉の策らしいし、余計な事は言うべきじゃないんだけどさ。

年頃の男としては何とも肩身が狭い、、、、。


「リュースティア様、お付きの者達はどうされた?」


「ああ、ちょっとね。それにみんなは付き人とかじゃなくて仲間、パーティメンバーだよ。」


そうなんだよ、みんなはここにはいないんだ。

戦闘が終わって避難していた場所からこっちに戻ってきてもらったんだ。

けど、それが城を直した後だったのがよくなかった。

あいつら、戻ってきたとたんに勝負がどうとか叫びながら一目散に遊技場に駆けていきやがった。


どうせ俺なんて、、、。

エアーホッケー以下の存在ですよ、、、。


「リュースティア?顔がひどい事になっているのであるがだいじょうぶか?」


おっと顔に出ていた見たいだ。

危ない危ない。

俺は大人だからな、平常心を保たねば!


「問題ない。それよりもどうする?ヴァンの配下の者達は良いとしてそれ以外の不死者アンデッド達をどうするかだよな。」


そろそろ真剣に話し合いを始めないとな。

何のためにここに来たかわからなくなる。

それに五大冒険者依頼ごだいクエストもなんとかする方法を考えないと。

依頼クエスト内容は不死の王アンデッドキングだからな。

このままだと失敗ってことで俺は死ぬことになってしまう。

ヴァンを殺す気はないが俺だって死ぬつもりはない。


「ふむ、その点ならさほど問題はなかろう。知性のある不死者アンデッド達は人間どもには見つからぬところで暮らしているのである。奴らは人間と争う事の愚かしさを知っているのである。」


ふむ?

だとするとたまに聞く不死者アンデッドたちの被害はどういう事なんだ?

ギルドの依頼板クエストボードにも討伐依頼が乗っているのはよく見かけた。


「それは知性を持たない下位の不死者アンデッド達のことであるな。ゾンビやレイス、スケルトン、ミイラなど種類は様々であるが。そいつらの中でも上位と呼ばれる者たちには知性と理性が宿るのだ。この私やレヴァンのようにな。」


なるほどね。

ようはレベルが上がれば知性が身につくってことか?

つまり雑魚は知性を持たないから統制する術はないと。


「主、我ら吸血鬼ヴァンパイアは別だ。吸血鬼ヴァンパイアはもともと人間であったものが血の契約により吸血鬼ヴァンパイア、そして不死者アンデッドとなる。故に我ら吸血鬼ヴァンパイアは上位、下位と関係なく皆、知性を持っている。忘れたか?」


当たりが強いよ、レヴァンさん。

本当は慕ってるくせに。

もしかしてツンデレか?


「はは、そうであるな。まあ我々に関してはこんなところだろう。知性を持たぬ下位の者達は殺しても構わん。同族とは言え意思の疎通はできんからな。あいつらは本能のままに人を殺すのである。」


「ヴァンがそう言うなら下位の奴らは見つけ次第殺すけど、他の奴らは勝手に人と和平を結んで怒らないのか?」


意思の疎通ができないなら仕方ないか。

変に同情してそのせいで知り合いが死ぬのは嫌だし。


「私を誰だと思っているのである?不死の王アンデッドキングであるぞ。私の決定に意を唱える不死者アンデッドなどいないのである。」


おお!

なんだか急にヴァンが頼もしく見えたよ。

さすが魔王なだけはあるな。

うん。


「ふははは。関心したのであるな?すごいと思ったのであるな?ならば私の寵愛を受け入れるのである!」


そう言って何度目かのル○ンダイブを決め込んでくるヴァン。

すごいと思もってしまった俺が馬鹿だったよ。

何度断られてもめげない奴め。

ヴァンをぶん殴りながら横を見ると楽しそうなレヴァンさんの姿があった。

こちらと目が合うとすぐにいつもの無表情に戻ってしまったが。


ああ、やっぱり平和っていいね。




リュースティアがそう思うのと応接室の扉が破壊されたのはほぼ同時だった。

どうやらまだ面倒ごとは続くみたいだ。





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