第68話 食べ歩き with勇者

「ほらほら、あれ見てみろよ。美味しそうだ。」


街中に楽しそうな声が響く。

その声の主はもちろんリュースティア。

初めての異世界観光、しかも食べ歩き。

テンションが上がらないはずがない。

今もメーゾル領にはない食べ物に心を奪われている。


「おじさん、この串焼き二つくれ。いくらだい?」


もちろん買う。

店主から串焼きを受け取りスピネルに渡す。

えっと、たしか財布がポケットにあったはずだな。

財布から銅貨を出し支払いをする。


「あんちゃん、ここじゃメウ王国のお金は使えないぜ。」


な、何⁉

メウ王国の国内で王国の貨幣が使えないだと、、、。


「ああ、ここはもともと独立国家だったからな。協定を結んでメウ王国に属することになったが未だにここは治外法権なんだよ。だから当然貨幣も別もんだ。」


なるほど。

ここはメウ王国だけどメウ王国じゃないのか。

だから領地に入る検問があれだけ厳しかったんだなー。

なっとく、なっとく。


「なんだ、もしかして知らなかったのか?そいつは災難だったな。で、どうすんだこの代金?まさか払わないつもりじゃないだろうな?」


うっ。

いや、まだ大丈夫だ。

スピネル、その串焼きを返せ。


「・・・ん?おいし。」


遅かった、、、、、。

口の周りにソースを付けたスピネルがいい笑顔でそんなことを言う。

そうだよね、串焼き渡されたらふつう食べるよね。

どうしよう、、、、。


「メウ王の貨幣じゃダメ?」


「だ、め、だ。払えないってんならしょうがねえ、衛兵に突き出すしかねえぞ。」


待て待て、それは厳しすぎないか?

王国の貨幣なら持ってるんだし両替とかしてくんないのか。


「悪いな、あんちゃん。ここは治外法権、それぞれの店主がルールなんだわ。」


これはまずい、そろそろまずい。

もういっその事諦めて逃げるか?

二度とここにはこれなくなるけど衛兵に捕まって奴隷落ちになったりしたら笑えない。

うん、逃げよう。


「まあまあ、そこらへんにしておいてあげなよ。彼の分のお金は僕が払うから。それでいいだろ?」


救世主が現れた。

誰かわからないけどありがとう!

まじ感謝する。


「あ、ああ。俺は代金さえ払ってくれれば問題ねえよ。」


「そう?ならこれでいいね。ついでに僕の分も一つくれないかい?」


名も知らない救世主はそう言って三人分の串焼きの代金を払う。

いやー、世の中いい人っているもんだな。


「ありがとな。助かったよ。俺はリュースティア、こいつはスピネルだ。これも何かの縁だ。よろしくな。」


リュースティアは目の前の青年、アルフリック・ドゥアーズに礼を述べる。

なんでこんなところに勇者がいるんだ。

でも隠遁系の魔法使ってるみたいだしお忍びかな?


「気にしないでいいよ。たまたま通りかかっただけだしね。僕の名前はアル。こちらこそよろしく。」


うーん、本人は勇者ってこと隠してるみたいだし気づかなかったことにしよう。

それよりもこの人勇者なのにあんまり強くなさそうだ。

というかエルよりもレベルが低い。

本当に勇者か?


「そんなにじろじろ見て僕の顔に何かついてるかい?」


「悪い、なんでもない。それより王国貨幣を変えてくれるような場所ってない?」


あぶないあぶない。

初対面の人間の顔をまじまじ見るなんて失礼だよな。

それも同性なんてそっちの気があったら大変なことになる。


「うーん、確か門の近くでできたと思う。せっかくだし僕が案内してあげるよ。」


おっ、案外親切な勇者だな。

というか勇者なのにこんなところで油売っていていいのか?


「俺としてはありがたいけどいいのか?」


「うん。今日はお休みの日だからね。時間は充分にある。それに君の事もっと知りたいしね。」


俺の事を知りたい?

なんかすごーく嫌な予感がする。

エル、勇者に余計な事言ってないだろうな?



「で、これがこの街のおすすめ。クロッツオだよ。食べてみるかい?」


あの後両替をし、再び街を見て回ることにしたのだがなぜか勇者も付いてきた。

というかこの街に詳しいらしく案内をしてくれている。

普通にありがたい。


「カルツォーネみたいなもんか?お、上手いなこれ。みんなにお土産として買っていってやろう。」


勇者に勧められたのはパンにトマトやチーズ、パセリなどをはさんで焼き上げたものだ。

元の世界のカルツォーネに似ている。

でもそれよりも生地がもっちりとしていておいしい。

ソースもトマトかと思たけど少しピリ辛でよくわからないけどおいしい。


「・・・んー!」


あれ、スピネルには辛かったかな?

舌をだしながらひぃひぃしてる。

可愛いけどはやく何とかしてあげないと後で怒られそうだ。


こっそりとストレージからアイスを取り出しスピネルの口に入れてあげる。

これはこの前試作で作ったやつで簡単に言えば前の世界のピ○みたいなものだ。

もっともまだチョコレートには出会えていないのでアイスを包んでいる物は別の物だが。


「・・・冷たくておいし。」


良かった、スピネルももう辛くないみたいだ。

それにしても色々と食べてみてわかったんだけど全体的にこの街の味付けは濃い。

鍛冶や鉱山夫が多い土地柄のせいもあるかもしれないけど。

塩分の取りすぎは良くないんだよなぁ。


「君は面白い魔法使うんだね。それ無限収納インベントリかい?」


見られてた?

まさか、絶対に勇者からは見えない位置だったはずだ。

もしかして固有魔法ユニークスキル>を感知する方法でもあるのか?

だがログを見ても備考欄を見てもそういった魔法や道具が使われた形跡はニない。

勇者でいい奴だけど少し警戒しておいた方がいいかもしれない。


「正確には違うけど似たようなものだよ。魔法に興味があるのか?」


こちらからも探りを入れさせてもらおう。

勇者と対立する気はないがもし俺たちを脅かすのであれば考えなければならない。


「いいや、ただ興味があっただけだよ。君の有能性に。それよりも次はどこに行こうか。何か食べたいものはあるかい?」


勇者の視線が一瞬だけ鋭くなった。

それはやはり幾度と死線を乗り越えた者の目だった。

やっぱり一筋縄じゃいかないか。

俺さこういう探り合い見たいなの嫌いなんだよ。

ストレートに聞くんじゃダメなのか?




「、、、、ケ、。タス、、テ。タスケテ。」


リュースティアが勇者と腹の探り合いをしているとリズに渡してあった使役獣からSOSが入った。

慌ててマップで二人の状況を確認する。


良かった。

怪我や異常状態もない。

じゃあ何でSOSなんだ?

伯爵に無茶ぶりされた、とかかな。

でもSOSが来てる以上放置するわけにもいかないし、様子を見に行こう。


「スピネル、悪いけど今日はここまでだ。宿でルノティーナと待っていてくれ。アルも悪いな、用事ができたから俺はもう行くよ。案内サンキュ。」


そう言ってスピネルの手を引き裏路地に入る。

そして移転魔法を使い宿に戻るとそのまま伯爵のいる城まで移転魔法を使う。

防御魔法や阻害魔法がかけられていたら直接的な転移はできないが、できた。

意外と警備はざるのようだ。


もっともこの場合は警備がざるなのではなく、リュースティアが転移する際に結界を破ったことが原因なのだが。

本人は知る由もない。

まして結界が破られたことによる城内の慌てふためき具合も知る由はないのだ。







































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