第66話 プトン公爵領 

「見えてきたわ。あれがプトン公爵領。メウ王国一の職人街よ!」


手綱を握りながらもめいいっぱい体を乗り出し、そんなことを言う。

職人街か、同じ職人としてはすごく楽しみだ。

それよりさ、落ちるなよ?


「職人街か。楽しみだな。面白い道具とか食材もあるんだろうな。」


リュースティアも馬車の荷台からプトン公爵領を見る。

大きな鉱山の麓の街と言うだけあって石作りの家が多く、緑が少ない。

水の都と言われていたメーゾル領とは大違いだがこれはこれできれいだ。

力強く、精錬された美がある。


「楽しみにしているところ悪いけど、プトン公爵領には寄らないわよ。」


「なんで⁉目の前なんだからちょっとくらいいいだろ。」


せっかくの異世界旅行なんだから寄らないとダメだろ。

目の前でお預けなんて耐えられない。

しかも王国一の職人街、寄らないなんて罪だ。


「何でって、リュー兄ぃこの旅の目的忘れてない?」


目的って異世界観光だろ?

それ以外になくない?

せっかくメーゾル領以外を視れるんだから楽しまないと損でしょ。


そう言ったら怒られた。

それより大事な事ってなんかあったか?


「あるわよ!リュー兄ぃはこれから不死の王アンデッド・キングを倒しに行くんでしょ。そのために旅をしているの忘れたの?」


あー、思い出した。

そう言えばそんなことするってなってたな。

ギルドでそんな話したのずいぶん前だから忘れてたよ。


「でもさ、そいつまだ城に引きこもったままなんだろ?急ぐ必要もないし少しくらいいいだろ。それにちゃんとした休息も必要だって、な?」


「毎晩屋敷に帰ってぐっすり休んでてなにが休息よ。」


イタイところを突いてくるなぁ。

でも仕方ないじゃん。

枕変わると寝れないんだよ、俺。

それに一人で帰ってたわけじゃないし。

たまにはゆっくりお風呂に入りたいから連れてってっていったのはどこの誰だ。


「それにあそこは警備が厳重だから普通の冒険者じゃ入るのだけで一苦労よ。貴族たちみたいに特別な通行許可書があれば話は別だけどね。」


こんなところまで貴族は特別なのか。

そんなことを思いながらリズたちの方を見ると気まずそうにしながら金のプレートを見せてくれた。

どうやらこれが貴族の身分証明書になっているらしい。

これ一枚で大抵の領地には入れるからただのプレートではない。

さすがに貴族になる気はないし、特別な通行許可書を手に入れた方がよさそうだ。


「先に言っておくけど普通の通行許可書なら手続きさえすれば簡単に手に入るけどそれじゃあここには入れないわよ。王様や勇者、せめて聖騎士にでもならない限り無理ね。」


ルノティーナ、いつの間にお前まで人の心を読めるようになったんだ。

でもそうか、王様や勇者にならないと手に入らないのか。

ん?

勇者?

そう言えばエルの弟子になる条件にエルからなんかもらったよな。

たしかたいていの場所なら入れる手形みたいなこと言ってた気がする。


「なぁ、これは?これ使えたりしないか?」


そう言ってリュースティアはストレージの肥やしになりつつあった紙きれをルノティーナに見せる。


「嘘、これって王印付きの通行許可書⁉」


馬車が大きく跳ねた。

おい、しっかり運転しろ。

それよりも王印付きってなんかやばいやつな気がする。


「王印付きかはわからないけどエルからもらったんだ。たいていの場所なら入れるからって。」


「お、お兄ちゃん、、、、。こんな大切なものを上げるなんてほんとなにやってんのかしら。」



「うっわ、すごいなこれ。メーゾル領の剣とは比べものにならない。これが人の手で作られてるなんて考えられないな。」


一行はリュースティアの押しに負け、プトン公爵領に寄っていくことにした。

もちろん不死の王アンデッド・キングに動きがあればすぐに駆け付けると言う条件付きで。


リュースティア的にはすぐにでも街の観光をしたかったのだがまずは消耗品の補充や食料の買い足しなど必要な事からすることになった。

ストレージにまだまだ備蓄品が大量にあるのだが言わない方がよさそうだ。

何となくだけどみんなに非難されそうだ。

とまあこんな感じで今はみんな用の新しい武器を見繕いに来ている。

リュースティアが作る武器は付与魔法も込みで最高級品ではあるのだがいかんせん知識が乏しい。

ゆえに持ち主に合った武器を作ることはまだ叶わない。

どんな武器でも使いこなせるリュースティアとは違ってシズたちにはやはり適した武器と言うものがあるらしい。


「うーん、やっぱり私は軽くて小回りが利く武器の方がいいわ。」


とはルノティーナ。

スピード特化型の彼女に速さを殺す重い武器は合わない。


「私はティナとは逆ね。ある程度重さがないとだめ。」


とはシズだ。

一撃必殺の彼女には攻撃力を重視した剣。


魔法使いであるリズには武器は必要ない。

もちろんリュースティアにも愛刀・風神があるので今回武器を見繕う必要はないのだが他の武器も試してみたいと言うのが男心だ。


「剣にもいろんな種類があるんだな。メーゾル領の武具屋にもいろいろあったけどここはそれ以上だな。」


リュースティアはそんなことを言いながら店内にある剣を片っ端から解析アナライズにかけていく。

これで店内にあるタイプの剣なら創れる。


「どうだ、いい剣はあったか?」


「・・・・これ。」


さっきから無心で剣を試しては置き、また試しては置くという作業を繰り返していたスピネルに尋ねる。

仲間内で自分の武器を持っていないのはスピネルだけだ。

だから遊び半分で武器を見ているシズたちとは違ってスピネルだけは必死に武器を選んでいた。


「細剣か。耐久力は劣るけどいいんじゃないか?」


スピネルが持ってきたのは美しい色合いが特徴の細剣だった。

完全に見た目で選んでるだろ?

そう言いたかったが相手はスピネル。

堪えよう。


「・・・・・ん、かわいい。」


やっぱりか。

けど戦闘経験のないスピネルに剣を選ばせるのは酷だ。


「気に入ったなら買ってやるよ。スピネル専用の武器だ。」


「・・・や。」


買ってあげるって言ったのに断られた。

気に入ってるみたいだしほしくないわけじゃないだろうし。

もしかして遠慮してるのか?


「遠慮なんかしなくていいぞ?ほしいなら買ってあげる。俺たちはもう家族なんだ、気なんて使うなよ。」


だがスピネルは首を横に振る。

遠慮したり気を使っているわけではないようだ。

でもじゃあ何でだ?


「・・・リューのがいい。」


ん?

俺のがいいって風神の事か?


「・・・違う。リューが作るの。」


なんだ?

つまりこんな感じの細剣を俺に創ってほしいってことか?

そうやって聞くと恥ずかしそうにうなずいた。


なにこれ可愛すぎる。

ヤバイ、スピネルがマジでかわいい。

あざとさを感じさせない純粋さ。

うん、さすが俺の娘だ。


「任せとけ!俺がスピネルの為に最高の武器を作ってやる。」


だからそうやって大きな声で宣言したわけなんだが。

店主とリズたちに白い目で見られた。


、、、、、、、。

えっと、幼女趣味ロリコンじゃないよ?


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