第64話 魔法講義 ここらで知識をつけましょう

「ねぇねぇ!リュー兄ぃ?」


メーゾル領を出てから三日。

まだ不死の王アンデッド・キングの城への道は長い。

と言うか三日間も馬車を走らせているのにメーゾル領から抜けてすらいない。

辺境の地だとは聞いていたけど田舎過ぎないか?

リュースティアのチート能力のおかげで快適な旅ではあるのだがこうも景色が変わり映えしないとそろそろ旅をショートカットしたくなる。


「あー、どうした?ってかお前、なんでこっちにいるんだよ。御者はどうした?」


「シズちゃんが興味を持ってたら教えて交代しちゃった。だってみんなはこっちで楽しくやってるのに私だけ一人御者なんて不公平じゃない!」


いや、だってお前案内役だろ?

なんで一緒に楽しもうとしてるんんだ。

仕事しろ。


「あっそ、じゃあ好きにしてくれ。俺はもうちょい昼寝するわ。」


こいつの場合変に絡む方が被害がでかいので放置が一番無難な対応だ。


「はーい。ってなるわけないでしょ!えっ、なにその緩み切った感じ⁉あなたこれから古い時代を生き抜いた魔王と戦うのよ⁉自覚あるの?失敗したら死ぬのよ⁉少しくらい戦いの準備したらどうなの?というか私の扱いだけ雑じゃない!」


う、うるさい。

お前は思春期の息子を持った母親か!とかツッコミたい。

めちゃくちゃツッコミたい。

だけどきっと誰も理解してくれないんだろうな、、、、。

自重しよう。


「お前が戦う訳でもないんだし、少し落ち着けよ。それに今更どうこうしたって変わんないだろ。勝てるなら勝つだろうし負けるなら負けるんだよ。まっ、俺としては死ぬつもりも負けるつもりもないけどな。」


だって負けても死んでも終わりなんだもん。

その時点で俺の平穏異世界ライフ、第二の人生が終わってしまう。

そんなの絶対嫌だ。

だって俺はまだ勝ち取っていない幸せがたくさんある。


「えっ?戦うわよ。だってパーティ登録の紙に一緒に名前書いたもの。」


「えっ?」


「えっ?」


いやいや!

お前がえって言うのはおかしいだろ。

何で当然のごとくパーティに入ってんの⁉

そんな話聞いてない。

というかだったら全部お前がやってくれ、Sランク冒険者様。


「で、本題なんだけどいい?リュー兄ぃのスキルって他にどんなことができるの?」


もういいよ。

勝手にしてくれ。


「他も何もあるものから別の物を作りだすことができるだけだよ。創造だから他の使い方なんてないだろ。」


リュースティアは自分のスキルに関しては色々と試してみたが派生スキルが増えたくらいで他の使い方に関してはさっぱりだった。

と言うより創造の他の使い方なんて考えつかないんだけど。


「確かに創る以外はできなそうね。じゃあ何まで創れるの?物質や薬は創れるとして。空気や水も創れるのかしら。魔法は?生きものは?」


む?

無機物に生物か。

試したことなかったな。

と言うか魔法を創るってどういう事だ?


「なぁ、そもそも魔法ってなんなんだ?」


「えっ?」


なんでそんな驚いてるんだ?

普通に知らないから聞いたんだけど。

なんでリズまで憐れむような顔してんの?


「あはははー。もしかしてリュー兄ぃ、魔法の原理知らないで魔法使ってたの?」


まさかねー。

 

「そうだけど?だってそんなの知らなくても普通に使えたし。」


「え、詠唱は⁉魔方陣は⁉魔法の原理を知らないと理解できないはずよ!リュー兄ぃ出発の時に転移の魔方陣読んでいたじゃない!」


「詠唱したことないし、魔方陣も書いたことないぞ、俺。それに魔方陣が読めたのは俺が知っていた文字だったからだ。」


うわー。

言葉も出ないって時、みんな同じ顔するんだ。

リズにシズ、ラニアさんにおっさん、みんな同じ顔だ。


「ティナ、諦めて。これがリュースティアさんなんです。」


おい、リズ。

それはフォローになっていない。



「まあいいわ、気を取り直して魔法の講義に行くわよ!」


衝撃から立ち直ったルノティーナが意気揚々と抗議を始めようとしている。

なぜか眼鏡をかけて指導棒を持っている。

いや、何でお前がそれを知っている?


「お手柔らかに。」


「・・・ん。」


ちなみにスピネルも魔法を勉強したいと言い出したので一緒に抗議を受けている。

そもそも獣人の子に魔法は使えるのか?

そのことをルノティーナに聞いたら獣人は魔法が苦手な事は間違いないがまったく使えないという事はないようだ。


「いい?まず、魔法って言うのは魔力を消費して放つ、これは良いわね?で、魔力って言うのは空気中にある魔素を体内に取り込むことで作られるの。これは魔物もそうね。魔石は体内に空気中の魔素を吸収、圧縮することによって生まれる。そうやって魔物が生まれるの。だから魔素が濃い地は魔物も多いのよね。」


「人も体内に魔素を吸収してる訳だろ?人の体内で魔石が生まれることはないのか?」


意外とルノティーナの説明はわかりやすい。

脳筋な事に変わりはないがちゃんと知識も詰まっているようだ。

そう言えばエルも戦闘以外は教えるの上手かったな。


「人は魔素を魔力に変換してるから体内に魔素が溜まることはないの。ただ稀に魔素をうまく変換できなくて魔物化してしまう子もいるのよ。」


どこか悲しそうに話すルノティーナ。

もしかしたら身近にそういう子がいたのかもしれない。


「じゃあ次は詠唱についてね!ここら辺はまだあまり解明されていないところもあるからあまり詳しくは説明できないけどいいわね。」


まだ悲しそうな表情を見せながらも元気よく講義を始める。

今はそっとしておいてやろう。


「詠唱は魔力を練り上げる行為。魔方陣はそれをあらかじめ文字に起こすことで利便性をもったもの。以上!」


おい!

詳しく説明できないからって簡単すぎんだろ!

そのくらいならさすがの俺でも何となくわかってた。


「・・・だめ。最後まで。」


うんうん、そうだよな。

スピネルの言う通りだ。

最後まできちんとやれ。


「わかったわよー。と言っても言えることはそんなないわよ。まず詠唱は何節かに分けられていてそれぞれに魔力の練り上げ部分、属性、威力、範囲、時間指定の部分、待機部分、トリガー部分で構成されてるの。短文詠唱なんかは必要最低限の設定をしたものだから発動までの時間は短いけど威力は落ちるのよね。」


ふーん、あの詠唱にもそんな意味があったんだ。

まあ詠唱なんてしたことないけど。

でも詠唱することによって威力上がるのか、魔王を倒すときにはいいかもな。


「で、次に魔方陣だけどこれは詠唱で行っているプロセスを文字に起こしたものなの。だから魔力さえ込めれば誰でも魔法を使える。持ち運びもできるし詠唱の時間も必要ないから便利ね。ただその分手間とお金がかかるから普通の冒険者はまず使えないわ。」


便利だな、魔方陣。

でも詠唱も魔方陣も一長一短あるみたいだし、俺の無詠唱って実は最強ではないだろうか?


「・・・魔力高める?」


ん、魔力を高める方法を知りたいってことか?


「レベルを上げるしかないわね。あとは適正によって大きく変わるわ。エルフなんかの種族は魔法に秀でているから魔力量も多いわ。でもその分力は弱い。だからまずは自分に合った戦い方を見つけないとね。どの魔法適正があるかによっても変わってくるし。なんだったら今から調べてみる?」


「・・・ん。」


魔法適正って調べられるんだ。

俺もやってもらおう。



「できた!いい?この魔方陣の上に手を置いて魔力を流すの。」


ルノティーナが言う魔方陣にはそれぞれ決められているで有ろう場所に魔石が置いてあった。

魔石は魔物から出るような濁った紫や赤などではなく澄んだカラフルなものだった。


「まあ見てもらった方が早いわね。」


そう言ってルノティーナが魔方陣に魔力を流すと緑色をした魔石から風が吹いた。


「こんな感じよ。この魔石は属性石って言ってそれぞれの属性の性質を持っているのよ。だから流した魔力の属性によって属性石が反応するの。属性は風、火、水、土、光、闇、無の7つ。二つ以上の属性を持っている人もいるけどすべての属性を持っている人はいないわ。」


まあやってみて。

そう言われたのでまずはスピネルが試してみる。

リズたちは以前にやったことがあるらしく今回はやらないらしい。

まあ属性は変わらないらしいし何回やっても意味はないんだけどね。

ちなみにリズは水と光、シズは無属性らしい。


「・・・ん。」


スピネルが魔方陣に魔力を込めると黒い魔石から靄が立ち込めた。

どうやらスピネルは闇属性らしい。

やっぱり消したとは言え魔王の娘だからかな?

などと考えていたが闇属性を持つものは意外と多いらしく、種族によって属性が変化するわけではないようだ。

現に光魔法を使う魔族も目撃されているらしい。

それはそれでいいのか?


「じゃあ次はリュー兄ぃね!とりあえず風と水は確定でしょ。リュー兄ぃのことだから4つくらいあったりして。」


ふざけてそんなことを言っているがほんとうになりそうで怖い。

この属性石と精霊の色が同じだとすると、、、、。

この前、精霊視で見た時にはいろんな色の微精霊がいたとだけ伝えておこう。


「リュースティアさん、込める魔力は少なくしてくださいね。」


魔力を流す前にリズにそんなことを言われた。

さすがに何度もリュースティア異常さを見せつけられているだけあったこの後の展開もある程度想像がついているみたいだ。


無言でうなずき魔力を流す。

すると風が吹き、炎が上がり、水が流れ、石がせり上がり、光が点滅、靄が立ち込める。

無は、わからない。

うん、まるで世界の終焉を見ているかのようなひどい有様だった。


うそん。


これが数年後、リュースティアが引き起こす惨事の縮小版ではありませんように。

ここにいた者が皆口に出さずに願ったことだ。

彼は世界を救う事も亡ぼすこともできるのだ、と。




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