第62話 出発の日

あれから、ギルドマスターに呼び出された日から一週間がたった。

という事で今日は出発の日になるわけなのだが、この一週間とにかく忙しかった。

なにしろやる事が多すぎて死ぬかと思ったよ。

前の世界を思い出してしまった、、、、、。


「じゃあ行きましょうか!」


ルノティーナが元気よく言う。

忙しかった半分の理由はお前だからな?


「な、何よ。リューにぃ。だから悪かったってば。それに悪いのは私だけじゃないわよ。」


リュースティアのジト目に気付いたルノティーナが言い訳がましくそんなことを言ってくる。

ちなみにいつからかリュースティアのことをリューにぃと呼ぶようになっていた。

こんなめんどくさい妹などこちらから願い下げなのだがかたくなに呼び名を変えようとしないので諦めた。

だってリズが恐いんだもん。


「それはわかってんだけどさ、腑に落ちない。なんで俺が全員分の装備を作らないといけなかったんだ?何で俺が食料から薬まで用意しないといけなかったんだ?何で俺がお前の仕事まで手伝わないといけなかったんだ?」


そう、リュースティアはこの一週間というもの創造スキルを酷使し、馬車馬のごとく働いていたのだ。

なぜかって?

ルノティーナにスキルを見せたらこうなった。

なんでもそこらの鍛冶職人が作るよりもいい武具だかららしい。

それにリュースティアなら付与魔法も使えるのでただの武具が国宝級の魔道具アーティファクトになるのだ。

これから命を懸けた冒険者依頼クエストに挑む者としては使わない手はない。


それはいい、薬の件も分かる。

自分で作った方が間違いないし何よりも安価だ。

お金に困っているわけではないが節約に越したことはない。


「だってリューにぃってば有能なんだもん。なんでもできるからつい頼っちゃうのよね。」


しみじみとそんなことを言っている。

リズとシズも後ろで頷いている。

色々とツッコミたいことはあるがここは我慢だ。

他に言いたいことがある。


「百歩譲ってそれはいい。だけど何で報告書や請求書、その他の手配まで俺がしないといけないんだ?責任者って誰だったっけ?こういうのって責任放棄って言うんじゃないのか?」


そうなのだ。

こともあろうにルノティーナは責任者の仕事を丸投げしやがった。

なんでも机仕事は苦手だからいう事らしい。

さすがエルの妹、頭まで筋肉でできてる。

そんなバカのせいで忙しかったわけだが何も悪い事ばかりでもなかった。

役所みたいなところに知り合いもできたし新たに【交渉】、【暗黙演算】、【話術】スキルが手に入った。

まだ練度が低いのであまり使いどころはないが練度さえ上げれば話術なんかは重宝しそうだ。


「いつまで引きずってんのよ。いい加減切り替えなさいよ。」


ブツブツ文句を言っているとシズに窘められた。

別に怒ってる訳じゃないんだけど、なんかね。


「わかってるよ。それよりも本気か?」


リュースティアは完全武装に身を包んだ三人に問いかける。

ラニアさんに作ってもらったリスト元にパーティに勧誘をしていたのだがものも見事に振られまくった。

まあ無理もない。

なにせ内容は天災級魔物の退治、五大冒険者依頼ごだいクエストなんだから。

しかもそれに挑もうと言うのが自分たちよりもはるかに格下のEランク。

そんな死に戦に挑もうとする奴なんているわけがない。


とまあこんな感じでパーティ集めに苦労していたのを見かねてかリズたちが行くと言い出した。

リュースティア的にはついてきてほしくない。

天災級の魔物相手に守れる自信がないから。

だけどどんなに言い聞かせても三人が折れることはなく結果、今日になってしまった。


「もちろん。私だって多少なりとも強くなってるんだから。」


「リュースティアさんの行くところにならどこへでもついていきますよ。」


「・・・ん、一緒。」


三人とも気合十分だね。

と言うよりスピネルまで来るとは思わなかったんだよね。

いつの間にか1だったレベルも13まで上がってるし。

リズたちに関しては24まで上がってる。

俺、まだレベル1のままなんだけど、、、、、。



「じゃあいいわね、今度こそ本当に出発するわよ。失敗したらこの景色は見納めになっちゃうんだから今の内に見といてね。」


おい、縁起でもない事言うな。


「で、どうやってその魔王がいる場所まで行くんだ?」


用意しておいた馬車に乗りながらルノティーナに聞く。

何だかんだでこっちの世界に来てか初めての旅だ。

聞いたところによるとメーゾル領は田舎らしいし、他の土地もぜひ見てみたい。

何よりも他の地の食材に興味がある。

もしかしたらお菓子の材料と出会えるかもしれない。

カカオなんかと出会えれば一気にお菓子のレパートリー増えるのにな。


転移門ゲートよ。」


「・・・・・・。は?」


えっ、まてまてまて。

転移門ゲート

何それ。

それじゃあ何のために馬車用意したの?

いらないじゃん。

収納に必要だったとしても俺にはストレージがあるから必要ない。

それよりも異世界観光は?


「は?って馬車で行くつもりだったの?せっかく私がこことの門をつないだのよ?使うに決まってるじゃない。」


なるほど、ルノティーナがメーゾル領に来たことで向こうとの門をつなぐことができるようになったってわけか。

何か魔法のようなものを使ったのだろう。

それは後で聞くとして、馬車の手配にかかった時間を返せ。


「でも転移門ゲートなんて使って魔王に気付かれたりしないんですか?」


リズがもっともな質問をしている。

でもその魔王って引きこもりなんでしょ?

気づかれるとまずいのかな。


「そこらへんは大丈夫よ。転移先には認識疎外の結界を張ってるし移動先は城から割と離れてるの。」


だったらわざわざ使わなくてもよくね?

何なら俺が一人で直接城まで転移するけど。

この前詳しい場所を聞いたら近くに森があったので試しにシルフの転移魔法で転移してみたらできた。

ついでにバレないように周囲を探索したらリュースティアの転移魔法でも転移可能になっていた。

なのでマップで詳しい位置を指定すれば城まで一気に転移できる。

まあ阻害魔法があったらうまくはいかないんだろうけどね。


「はいはい、じゃあ行くか。」


面倒なのでルノティーナに従う。

そして一行を乗せた馬車は転移門ゲートを通る。


「あれ?」


だが通り抜けた先は転移門ゲートの入り口。


「これほんとに作動してんのか?」


「おかしいわね。私が昨日確認したときは問題なく使えたわよ。」


ルノティーナが怪訝な表情をしながら門を調べている。

そして魔法の構成する魔方陣を取りだし何かを調べている。

初めて見たよ、魔方陣。


「どうだ?何か分かるか?」


「ダメね、私魔法はからきしなの。魔方陣が何を示してるかなんてさっぱり。これは魔法使いの子に渡されただけだから魔法に詳しい人に聞かないと。」


それでよく偉そうに設置したとか言えたな。


「これはかなり高度な陣ですね。私にもさっぱりです。リュースティアさんわかりますか?」


どうやら魔法に詳しいリズでもわからないらしい。

そんなもの俺に分かるわけないんだけどな。

まあいいか、だめもとで見てみよう。


ん?

なんだこれ。

普通に読めるぞ?

と言うかこれ日本語か?

漢字とかカタカナまで混じってるから読みにくいけど確かにこれは日本語だ。

何で?


「えっと、魔力量が転移可能な値をオーバーしてるらしい。」


魔方陣を読み解くとそこには転移先の位置情報や必要魔力、人数や重量などの制が書かれていた。

そしてそのうちの魔力量の制限部分がエラーっぽくなってたから多分そういう事なんだろう。


「ってことだから馬車でのんびり行くか。」


何か言いたそうな皆の事を無視してそんなことを言う。

先に言っとくけど俺にもわかんないからね?


「「「もうなにも言わないわ(です)。」」」


わお、ナイスシンクロ。

うん、楽しい旅になりそうだ。



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