第60話 責任者のお話

いよいよ五大冒険者依頼の詳細がリュースティアに言い渡されるその時が訪れようとしていた。

当然、ギルドマスターの部屋には重苦しい空気が、、、、。

否、この場に似つかわしくない笑い声が聞こえていた。


「あはは!変装って何それ。やっぱりリュースティアさんって面白いわね。」


ルノティーナにクエストを受けるにあたってリュースティアではなく別の人間としてこの依頼をこなすと説明したら大爆笑された。

なぁ、そこまで笑わなくてもいいんじゃないか?

すごく恥ずかしくなってきたんだけど。


「そんなに面白いか?」


「面白いわよ。だってそんな無駄なことしようとする人なんてふつういないわよ。」


無駄な事?

別の人間になる理由も説明したよね?

絡まれたくないって言ったはずなんだけどな。


「あれ、知らないの?五代冒険者依頼は国が認めるクエストだから達成の可否に関わらず実名と二つ名が公表されるのよ。しかもこれは神聖なものだから神の名において偽りの名を言う事は許されないの。」


はい?

何それ、聞いていない。

チラッとギルドマスターの方を見る。

顔を逸らされた。

てめぇ知ってたな!

後で覚えてやがれ。


「はぁ、わかったよ。じゃあさっきの話はなしだ。説明を続けてくれ。」




ルノティーナはひとしきり笑った後五代冒険者依頼の説明を始めた。


「そうね、まずは五代冒険者依頼について説明しましょうか。まず五大冒険者依頼って言うのは全部で五つあるの。」


うん、それくらいは俺でもわかる。

やっぱりこいつはバカだ。


「で、それぞれにSランク冒険者複数名が担当として付いているってわけ。」


「なら、そいつらが冒険者依頼をこなせばいいんじゃないか?Sランクっていうくらいなんだから腕はたしかなんだろ。」


だってそうだよね。

別に冒険者依頼を残しておかないといけないわけじゃなさそうだし、さっさと倒しちゃえばいいと思う。


「できるもんならとっくにやってるわよ。簡単には倒せない相手だから五大冒険者依頼なのよ。相手はどれも天災級の魔物ばかり。普通の冒険者じゃまず倒せない。でも放置もできないからSランク冒険者の任務として五大冒険者依頼の管理、つまり監視の任があるのよ。」


ふーん、っておい!

Sランク冒険者でも倒せないような魔物を倒すのがSランクになる条件っておかしいだろ⁉

どうしてなりたくもないSランクになる為にこんな苦労をしなきゃいけないんだ。

色々と厄介ごとに巻き込まれている気がするがこれでも平穏至上主義なんだが。

俺だけ人生の難易度高くない?

これはさすがにハードモードすぎる、、、。


「天災級の奴ら相手にどうやって戦うんだよ。それに今回のクエストがそんなに難易度高いなんて聞いてないんだけど、ねぇ、ギルドマスター?」


それはそれはもう、満面の笑みで。

ギルドマスターに問いかける。

目を逸らされた。

おいコラ。

確信犯か。

まじであとで覚えてろよ?


「まぁまぁ、リュースティアさんなら何とかなるわよ。それに今回は私もサポートに入るし。」


なに?

ルノティーナがサポートに入る、だと?

それはまずい。

何がまずいって?

俺がめんどくさい。


「いや、とりあえず一人でいい。それよりもさっさと説明してくれ。あんまり長くここにいると店の方が心配だ。」


「こんなプリティガールがサポートに入ることをそんなことだなんて、、、。罰当たりな男ね。」


良いから早く説明しろや。

その為にここまで来たんだろ?

視線で先を促す。

もちろん威圧を込めて。


「っと。じゃ、じゃあ説明に入りましょうか。リュースティアさんが討伐することになる相手、不死の王アンデットキングについてわかっている範囲で説明するわね。」


「簡潔にな。」


説明しようと口を開きかけたルノティーナが言葉を発する前にくぎを刺しておく。

じゃないとすぐにわき道に逸れそうだしね。

てか今更だけど責任者がルノティーナなら家で聞いても問題なくない?


「一言で言うなら不死の王アンデットキングは魔王の一人。しかも500年前に生まれた古い世代の生き残り。魔王の中でも強者に位置するわね。魔王が複数人いるのは知ってる?」


「ああ、確か魔族が暗躍して魔王を生み出しているんだろ?」


この前聞いた話だ。

カイザも同じようなことを言っていたしまず間違いない。

でもそれがどうかしたのか?


「普通はね。でも不死の王アンデットキングはそうじゃないの。彼は自らの力で魔王へと進化した。500年も前の事だから事実関係はわからないけど彼の強さから言ってまず間違いないと思う。」


「へー、魔王って自分でなれるもんなんだ。で、不死の王アンデットキングって言うけど実際何者なんだ?」


リュースティアは魔族が生み出した魔王と自らの力で魔王となった者の違いが分かっていないので普通にそう言うもんなんだと思っただけだった。

だがこの世界に住む者、ギルドマスターはそうではなかった。

顔は青ざめ、震えているようにも見える。

これは決してリュースティアの報復を恐れているからではないだろう。

えっと、違うよね?


「元は一人の吸血鬼ヴァンパイアだった。そして彼は長い年月のなかで吸血鬼の王ヴァンパイアロードとなり、今ではすべてのアンデットたちを従えて不死の王アンデットキングと名乗っているわ。」


おお、吸血鬼か。

海外のドラマとかでよく出てきてたな。

迷信に従うなら銀と、十字架、日光、ニンニクが弱点だっけ?

結構弱点あるな。

案外楽勝かも。


「で、そいつは今なにをしているんだ?弱点とかそいつの目的は?」


敵が自分も知っている吸血鬼だったため少しやる気が出てきた。

それにレイスとかじゃないから神聖魔法や浄化魔法も必要なさそうだしね。


「何も。拠点である城に篭ったまま、何もしていないわ。ちなみに弱点なんてないわよ。彼はアンデットだけど魔法も使うの。それにもっとも警戒するべきなのは彼の再生能力ね。切られたはずの首が簡単に再生していたわ。それも何事もなかったかのように。」


あれ、全然楽勝じゃなさそうじゃね?

チートにもほどがあるだろ、そいつ。

でも何もしていないのに倒すのは申し訳ないな。

そんなことを考えていたのが顔に出ていたのかドゥランさんが横から口をはさんできた。

さっきまで震えあがっていたくせに。


「小僧、何もしていない奴に剣なんてむけられないとか思ってるんじゃないだろうな?」


「まあ。だって害もないのにいきなり殺すのはさすがに人としてまずいだろ。」


「それは今何もしていないってだけだ。奴は数百年前に一度王都を滅ぼしている。その時は王都の機能がすべて停止せざるをえないほどの被害だったらしい。当時のSランクは全滅、王直属の近衛兵団、宮廷魔導士団も全滅したらしい。この意味が分かるか?」


王都が滅んだ。

行ったことはないが国の中心、相当な防御力を有していたに違いない。

そして何人もの強者を葬った。

これを厄災と呼ばずになんというのだろう。


「存在だけで悪ってことか。殺すか殺さないかは置いといてどう動くのかはすべて俺に一任してほしい。」


「ああ、これは小僧の冒険だからな。文句はない。だが一つだけ肝に銘じておけ。奴ら、五代冒険者依頼に数えられるようなやつらはたった少しの気まぐれで一つの都市を簡単に滅ぼせる。いくら本人に滅ぼす気がなくてもくしゃみ一つで滅んじまう。人類にとっての脅威だ。」


俺の冒険、か。

まあどうなるかわからないけどやるしかないよな。

死なない程度に頑張りますか。


「一応今も私の代わりに冒険者が一人、彼の城を見張っているわ。だからなにか動きがあればすぐに分かると思う。期限はないかリュースティアさんの心が決まったら声をかけてね。それまでは私もこの街にと言うかあなたの屋敷に、だけど滞在する予定だから。」


ん?

明日にでも行こうと思ってたんだけど。

心を決めるも何も無理そうだったら逃げる気満々だし、いつでもいいんだけど。


「じゃあ明日にでも出発するか。」


だからそう言ったんだけどまさかそんなに驚かれるとは思っていなかった。


「明日⁉今回の相手は魔王、死ぬかもしれないのよ?そんなにあっさりと決めていいの⁉」


「いや、死ぬつもりなんてないぞ?ダメそうなら逃げるし。」


「小僧、死ぬぞ?」


おーっと?

でました、そう言う意味深発言!

何かあるなら先に言ってほしいんだけど。


「このクエストにキャンセルはないの。達成するか死ぬか。神代から続くものでなぜかそういう制約になっているのよね。だからこのクエストを達成できずに逃げかえってこようものなら契約違反とみなされ命を奪われる。そういうものなのよ。」


聞いてない。

それも聞いてない。

逃げるのもダメって酷過ぎない⁉

死んだら終わりだよ?

もっと命は大切にしようよ、、、、、。


「ったく、大切な事は先に言えよ。まあいいや、明日で良いよ。さっさと終わらせよう。」


面倒な事は先に片づけるタイプなのだ。

サクッと倒しに行こう。

それで平穏な生活が送れるようになるなら。


「悪いけど明日は無理ね。馬車の手配や武具の整備、色々と準備に時間がかかるの。だから出発は早くても一週間後。それでもいい?」


別に場所さえ教えてくれれば飛行魔法で飛んでいくしなんならシルフの転移魔法もある。

でもそれを言うのは何となく憚れたので黙ってうなずくことにした。

リュースティアも一応は学ぶのである!


「じゃあそいうことで。俺は帰りますね。」


そう言って出ていこうとしたのだが、呼び止められた。


「まって!まだ一番大切な事を決めてないわ。」


「大切な事?まだなにかあんのか。」


なーんかい嫌な予感がする。

だっておっさんもルノティーナもすごくいい笑顔なんだ。

いい話なわけがない。


「ふっふーん。まだリュースティアさんの二つ名を決めていないわ!」




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