第57話 風の子、風太。

「はやくはやく!」


そう言ってリュースティアを急かすのはルノティーナ。

エルランドの妹だ。

彼女のせいで家が全壊し、今からリュースティアのスキルで修復する予定なのだが、ルノティーナのテンションがダダ上がりなのである。

正直ついていけない。


「なんだか、元気な人ね。」


「私は良いと思いますよ。楽しくて。」


意外とリズの方は好感がいいらしい。

もっともシズも悪感情は抱いていないようだが。


スピネルは?

あ、苦手なのね。

その表情ですべてを理解する。

分かる、俺も苦手なタイプだ。


「ちょっと、なにだらだらしてるの!早くやりましょ。日が暮れちゃうじゃない。」


いや、暮れていいんだって。

急に家ができたらびっくりするから暗くなってからやるって言わななかったっけ?


「いや、暗くならないと始められないって説明しただろ?」


そう言うと思いだしたように顔を輝かせるルノティーナ。

なに、まだなにかあんの?


「要するに見えなければいいんでしょ?なら手はあるわ!」


そう言って呪文の詠唱を始めるルノティーナ。

まて、めちゃくちゃ嫌な予感がするからやめろ。


しかしリュースティアが彼女を止めるよりも早く、呪文詠唱が完了してしまった。


「【白霧しろぎり】」


彼女が魔法のトリガーを引くと同時に彼女を中心に濃い霧が立ち込める。

この魔法なら知っている。

風系統の魔法で、視覚はもちろん、気配なども消してしまうので敵から身を隠したりするのに最適だ。

それに魔力を流すことで自在に操ることもでき、感知能力にも優れている。

この魔法を使えるってことはルノティーナの適正も風なのか?

だがこの魔法はまずい。

ここで、街中で使うようなもんじゃない。

と言うか街中で魔法を使うの禁止されていなかったか?


「これで視界は問題ないわね!さ、はやくやりましょ。」


自信満々のどや顔で言ってくるルノティーナに脳天チョップを食らわせ、無言で白霧の魔法を打ち消す。

そして霧が晴れるよりも早く新たに霧を発生させる。

もちろん無詠唱で、だ。


「えっ、うそ。なにしたの?」


ルノティーナもさすがに今回は驚いたみたいだ。

まあ無詠唱で魔法を行使できる奴なんてそうそういないからな。


「なにが問題ない、だ。あの魔法はダメだろ。街中で視界も音も、気配も消えたらどうなると思ってんだ。それにあれは魔法だってすぐに分かるからな。面倒な奴らがすぐに来るぞ。」


それよりもいくら殺傷能力がないからって街中で上級魔法ぶっぱなすなよ。

もしかしてこいつ、エルより脳みそないんじゃ?


「それならリュースティアさんも同じじゃない。何をしたのかはわからないけど、魔法使ったわよね?」


「俺のはただの霧、なんの効果もない。自然発生したものとなんら変わりない。」


そう、リュースティアはルノティーナが放った魔法の霧から魔力操作で魔力を抜き、普通の霧として新たに発生させただけだ。

だからこの霧には姿を隠す効果はない、せいぜい見えにくくなるくらいだ。


「意味がわからないわ。魔法で普通の霧を作る?」


「諦めなさい。これがリュースティアよ。」


シズがそんなことを言う。

えっと、フォローしてくれたってことでいいのか?

若干傷ついたんだが、、、、、。


「ふーん、まあいいわ。でもそれじゃあ結局夜にならないと見せてもらえないのね。」


軽っ!

そうですか、どうせ俺になんてそんなに興味ないですよね。


「いや、霧の発生と同時にこの敷地内に結界を張ったからな。外から見たら屋敷に布がかかっているように見えるんじゃないか?」


「え?で、でもリュースティアさんさっき魔法は感知されるっていったじゃない。」


「感知されるならされない魔法を使うだけだろ?}」


うん、だから感知されない魔法を使ったんだ。

この結界は相当な実力者以外破れないだろうしね。

カイザと戦ったときに思いついた魔法で今まで練習して、今日が初披露になったわけなんだけど。

あれ、何でみんなしてそんな顔してるの?



「じゃあ始めるけど、その前にいいか?」


「私?」


そう、君だよ。

俺の家を壊してくれた君。


「さっきついって言ってたけど具体的には何したんだ?なにかこの家の備品を消失せたりしたか?」


リュースティアのスキルでは元になるものの質量を超える物は創造できない。

なので何かが消し飛んだりしていないか確認しておく必要があるのだ。

だっていざ作ったら材料が足りなくて屋根がなかったりしたら大変だもんね。


「えっと、風太が吹き飛ばしただけよ。だから消失したりはしてないと思う。」


「風太?」


また知らない奴でてきたよ。

それにしても風太か、マップにはいなかったけどほんとに存在してんのか?


「あ、そっか。風太の事知らないんだっけ。私の相棒よ。うん、見せてあげる!風太、出てきなさい。」


ルノティーナがそう言い、腰の鞄から魔方陣が書かれた紙を取り出し空中へと放る。

いや、別に見せてくれなくてもいいんだけど。

こいつの相棒とか絶対に碌な奴じゃないに決まってる。

それよりその得意顔やめろ。


「さ、風太。みんなに挨拶しなさい。」


空中に放たれた紙が一瞬光を発し、次の瞬間に紙に描かれた魔方陣から何かが飛びだしてきた。

そいつは地面に着地するとルノティーナの隣に陣取る。

そして正面からそいつを見る。

馬?

いや、額に大きな一本の角が生えてる。

ユニコーンか!


「我が名は風太。主の為にはせ参じた。」


おっ、こいつしゃべれるのか?

といってもシルフたちの念話に近いな。


「うわー。召喚獣じゃないですか!しかもユニコーンなんてすごいです。」


召喚獣か、聞いたことある気がするけどまあいいだろ。

俺に関係ないしな。

それよりも吹っ飛ばしただけなら材料の補充は必要なさそうだね。

よし、やるか。


「じゃあはじめるけどいいか?」


褒められて得意げなルノティーナと召喚獣に夢中なリズに声をかける。

シズとスピネルはそんなに興味なさそうだし、早く終わらせてあげたいんだよね。

このままじゃ部屋で休むこともできないしさ。


「ちょ―っと!風太よ、風太!少しくらいは興味持ってくれる?精霊ほどではないけどユニコーンと契約できる人もそういないのよ。」


精霊より下なのか。

じゃあなおさら興味ないよ。

家にはすでにうるさい奴が2人いるし。


「おーそうかそうか。すごいすごい。っじゃ、始めるぞ。」


「待ってください!どうしてそんなに平然としているんですか?召喚獣ですよ、しかもユニコーン!リュースティアさんも風の魔法使いならもっと驚いてください。」


うわー、リズさん、完全にスイッチ入ってますよ。

そう言えばリズって魔法の事になると見境なくなるんだよな、、、、。

つか、横で頷いているお前ら何なんだよ。

飼い犬は主人に似るってホントだな。

まあ犬じゃないけどさ。


「ごめん、馬に興味ない。それより早く部屋で休みたいしな。ユニコーンならもう見たしこれ以上見ても面白くもなんともないだろ。」


かくし芸とかがあるならともかく馬を見てても面白くないのは事実だと思う。

だから何でリズがそんなに興奮してるか謎だ。


「我を愚弄するか‼人間ごときが。我はただのユニコーンではない。風の精霊シルフ様より加護を授かった選ばれしユニコーンなるぞ。」


えっ、シルフ?

あのばか、なにしてんだよ、、、、。


「あっそ、ならなおさら興味ないわ。どうせシルフの事だ、面白半分にしたことだろうしな。」


「き、貴様!我のみならず偉大なシルフ様まで愚弄するか。主様の知り合いとは言え、容赦せぬ。」


あっ、やば完全に怒らせたわ。

こいつそんなに強くなさそうだし、どうするかな。

そんなことを思いながらこっちに向かってくるユニコーンを見る。

後ろでルノティーナがなにか言っているが風太には聞こえていないみたいだ。


「ったく、ずいぶん短気な馬だな。しつけがなってないんじゃないか?【風縛ふうばく】」


リュースティアはめんどくさそうに魔法を発動し、風太を風で捕らえる。

これでもう抜け出せないだろ。

結界内だし感知されることもないだろうからしばらく大人しくしていてほしい。


「シルフ、お前の知り合いらしいぞ。出てこいよ。」


口を開けたまま何かを言いたそうなルノティーナを無視し、シルフを呼び出す。

リズとシズがいつものごとく呆れたような表情をしていたが見なかったことにしよう。

スピネルが嬉しそうにこっちを見てくれているだけで十分だ。


「シルの知り合い?あっ、お馬さんなの!」


「シ、シルフ様!このような姿で申し訳ありません。再びそのお顔を拝めてうれしく思います。」


呼ばれて出てきたシルフは風太を見つけると嬉しそうに駆け寄って言った。

どうやら知り合いと言うのは本当らしい。


「うそ、四大精霊。もうなんなの。この人はいったい?」


ルノティーナがじゃれ合う風太とシルフを見てそんなことをつぶやく。

そして両サイドからそんなルノティーナの肩をやさしくたたくリズとシズ。

分かるわ、とでも言いたげだ。


もういいだろ。

その態度けっこう傷つくからやめてほしい。

というか、家。

そろそろ直していい?

ほんとに日が暮れてきたんだけど、、、、。

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