第56話 風来坊が通ります。

「ナニコレ?」


リュースティアとシズが屋敷に着いた時の第一声だった。

リュースティアがこう言うのも無理はない。

なにせ目の前にあるのは瓦礫の山。

否、元リュースティアの家、兼お店だ。


「派手にやったわねー。お姉ちゃんかしら?」


シズ、関心している場合じゃない。


えっ?

なに、なにしたの?

お店、全壊?

あれだけお金積んだのに、一ヶ月も持たないでおじゃん?

嘘でしょ、、、、、。


さすがのリュースティアも目の前の光景に言葉を失う。

目の前の光景が現実だとは思えない、いや、思いたくもない。

とりあえず、リュースティアの設置した罠が発動した形跡はないので敵襲でない事だけは確かなのだがどうすればここまでできるのか見当もつかない。


もしかして俺、リズかスピネルに恨まれてるの?


「あっ、リュースティアさん!おかえりなさい!」


リュースティア達が瓦礫の前に立ち尽くしていると奥の方からリズがこちらに向かってくるのが見えた。

とりあえずけがはなさそうなので安心する。

それにリズの顔を見る限り犯人ではなさそうだ。

まずは話を聞こう、すべてはそれからだ。


「で、リズ。何があったんだ?」


「えっと、その、ちょっと、いろいろとありまして、、、、。多分本人から話を聞くのが一番いいと思います。こっちです、ここから中に入れるので付いてきてください。」


すごーく微妙な顔をしながらそんなことを言う。

リズとスピネル以外に人がいることはマップで確認済なので知っている。

備考欄で見る限り敵でもないし、問題ないと思う。

ただこれはスキル云々ではなく俺の勘が言っている。


こいつはダメだ。

ヤバイ。



崩壊したリビングのその子はいた。

身長はリュースティアと同じくらいだろうか、赤いロングヘア―を後ろでまとめている。

武器を持っていたり、防具をつけている事からも目の前の女性が冒険者であろうことは推測できる。

だが、当然リュースティアに冒険者の知り合いなどいない。


「あっ、あなたがリュースティアね!初めまして。私はルノティ―ナ・ヴィルム。ティナでいいわ、よろしく!」


そう言って人懐っこい笑みを浮かべてこちらに手を差し出してきた。

リュースティアは戸惑いながらも差し出された手を握り返す。

その手は力強いながらも女性らしい、美しい手であった。

シズが戸惑いながら握手をしている姿を横目に捕らえ改めてルノティーナの名乗った女性を見る。


それにしても、、、。

どっかで見たことあるような顔なんだよな。

それにヴィルムか、聞いたことあるような気がしてならない。

ヴィルム、ヴィルム、ヴィルム、、、、、。

まさか!⁉


「ヴィルム、ってもしかしてエルとなんか関係あったりする?」


「うん。私のお兄ちゃん。」


やっぱりか、、、。

だからどっかで見たことあるような顔してんだな。

顔立ちがそっくりだ。

そっか、リズはこのことを知ってたから微妙な表情してたのか。

納得。

シズはそこまで驚いた様子はない。

もしかしてエル同様に彼女も冒険者の中では有名なのか?


「エルの妹なのはわかった。で、それとこの家が崩壊したのにはどんな関係があるんだ?」


リュースティアは努めて冷静に話を聞く。

怒るより冷静に聞かれる方が恐いのだ。

怒鳴り散らされる方が冷たい視線で問われるよりも何倍もましだという事を前の世界で十分に経験しているからな!


「あはははー。お兄ちゃんからリュースティアさんのこと聞いてたから仕事の前に会っておこうと思ったのよ。」


リュースティアの冷たい視線など全く意に返さずルノティーナは話始めた。

さすがエルの妹、それなりに図太いみたいだ。


「でも来てみたらリュースティアさんはいないじゃない?それでせっかく来たんだし付与魔法で作った道具だけでも見せてもらおうと思ったのよ。リズちゃんは忙しそうだったかちっちゃい子に案内を頼んだの。」


ふんふん。

別にエルの妹ならば隠す必要もないし、道具を見せるくらいなら問題ない。

ちっちゃい子と言うのはスピネルの事だろう。

ってあれ?

スピネルはどこ行った?


「それで見ているうちに使ってみたくなっちゃって。でも使い方がわからないでしょ?それで色々と試していたら、バン!って感じ。」


ふんふん、なるほどなー、、、、ってなるかボケ!

えっと、、、、。

使い方もわからないのに適当に動かして爆発させたの?

人の物だよね?

バカなのこの人。


「はぁ、それで?家が全壊している理由は?道具の爆発くらいじゃここまでにはならないだろ。」


そう、たった1個の道具の爆発で家が壊れるほどやわな造りはしていない。

スキルや魔法のレベルが上がったのでそれに合わせて屋敷も強化してある。

ちょっとやそっとの衝撃では壊れないはずだ。


「えーっとね。爆発に驚いてつい。」


てへ、じゃないから!

ついってなに⁉

驚いたからってふつうは家崩壊させないよね?

それよりもこの頑丈な家をどうやって壊したんだよ、、、、。

俺の勘は正しかった、こいつはヤバイ。


「その件はおいおい問い詰めるとして、スピネルはどうした?」


今すぐに問い詰めたいがこのままだと怒りを抑えられる自信がない。

それにスピネルの姿が見えないことも心配だしな。

この敷地内にいるのはわかっているのだが正確な場所まではわからない。

万能なマップにも欠点はあるのだ。

怒る素振りをまったく見せない、そんなリュースティアにあからさまにほっとした様子のルノティーナ。

許してないからな?


「リュースティアさんに怒られると思って隠れているんですよ。」


リズがこっそりと教えてくれる。

リュースティアの耳元に囁くように。


「なんで?スピネルはなにも悪い事してないだろ。」


リズの言葉に首をかしげるリュースティア。

耳元に囁かれたことはまったく気にしていない。

そんなリュースティアに若干がっかりしながらもリズが説明してくれる。


「スピネルちゃんはルノティーナさんに勝手に厨房を案内したことで怒られると思ってるんですよ。スピネルちゃんはなされるがまま連れて行かれたって感じでしたけどね。」


結局こいつが全部悪いんだろ?

知ってる。


「はぁ。スピネル、俺は怒ってないから出ておいで。」


リュースティアはため息をつきながらスピネルに聞こえるように声を出す。

こいつのせいで家族崩壊とかシャレにならん。


「・・・怒ってない?」


ひっくり返ったソファーの後ろからおずおずと顔を覗かせるスピネル。

くっ、かわいい。


「ああ、スピネルは何も悪くないだろ?でもあんまり危ない事はすんな。スピネルに何かあったら俺は悲しい。」


「・・・うん。ごめんなさい。」



「で、お前はどうすんだ?」


スピネルをなだめた後、ルノティーナにそう尋ねる。

できれば今すぐにでも出ていってほしい。


「しばらくはここにいるわ。」


ナンテイッタノカワカリマセン。


「今回はだいぶ迷惑をかけちゃったしね。この家を直すのにも人では必要でしょ?」


あなたがいる方がもっと迷惑です。

そう思ったが口には出せない。

出したら今度は家でなく街が崩壊しそうだ。

なにせ彼女のレベルはエルにも匹敵する。


「人では必要ない。家はすぐにでも元通りにできるからな。だから帰っていぞ。」


だって創造スキルですぐだしね。

冷たい対応かもしれないがこれは仕方のない措置なのだ。

だからリズにシズ、そんな目で見ないでください。


「すぐに元通り?あっ、もしかしてお兄ちゃんが言ってたスキル?私も見たい!それになにもしないのは心苦しいし。」


何もしないのが救いだとなぜわからない!

こいつにスキル見せたら面倒なことになりそうだし絶対に嫌だ。

帰ってくれ。


「ダメ。帰って。心苦しいってんなら新たに必要になった物の経費はそっちが持ってくれ。これで今回の件は水にながしてやる。」


「お金を払うのは問題ないわ。私だってそれなりの冒険者だしね。可愛くて強い、これって最強じゃない?」


だめだ、やっぱりこいつはヤバイ。

自分の事かわいいとか言うなよ。

まあ確かに可愛いから反論もできないんだけどさ。


「はいはい、わかったから帰れ。」


「やだ!絶対に見るわよ。」


「か、え、れ。」


「いやだって言っているじゃない。」


「いや、まじで帰ってください。」


「ダメよ。私は一回決めたことは曲げないの。どんなに言ったて帰らないわ。」


くそ、なかなか引かない。

もういっその事力づくで転移させるか?

今の俺なら対象物を指定して任意の場所に転移させることができる。

まあ生きものはまだ試したことはないがこいつなら大丈夫だろ。

死にはしない、、、、、、多分。


「リュースティアさん?ダメ、ですよ?」


うっ、リ、リズさん。

あのモードになってますから!

はい、やりません!

やりませんから落ち着いて!



「もう好きにしてくれ、、、。」


リュースティアは投げやりにそんな事を言う。

ルノティーナだけならともかく、リズまでが敵に回っては勝てる気がしない。

久々に見たよ、リズのあのモード。

魔眼ってずるいと思う、、、、、。


それよりもさっき気づいたんだがこいつの二つ名って、風来坊なんだな。

こいつの二つ名つけた奴をほめたたえたいわ。

本人は気に入ってないみたいだけど言い当て妙だな。


うん、風来坊。

風の子元気の子ってか?

二度と来んな。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る