三章 魔王

第55話 個人的なお願い

誕生日パーティから数日後、リュースティアは再びラウスさんに城に呼ばれていた。


「はぁー。ったく何の用だ?ギルドマスターの呼び出しじゃないから冒険者依頼クエストの事じゃないだろうけど。憂鬱だ、、、。」


「案外大したことないんじゃない?」


城へ向かう馬車に揺られながらリュースティアがつぶやくと正面に座っていたシズにそんな事を言われる。

今回の呼び出しはもともと一人で行こうと思っていたのだが暇だったシズも付いて来たのだ。

最近はお店も落ち着いてきたのでシフト制で各自休みを入れてある。


もともとどっかのパーティと冒険者依頼クエストをこなす予定だったらしいのだが相手パーティの都合で中止になったらしく暇を持て余していたらしい。

休日まで働くとかシズは相当な仕事中毒ワーカーホリックだと思う。

お兄さん、心配だよ、、、、。


「面倒な事じゃなきゃなんでもいいよ。」


憂鬱なリュースティアとどこか楽しそうなシズを乗せ、馬車は城までの道を行くのだった。



「ふふふふ、いよいよだ。」


「ええ、ついにこの時が来ました。」


そう言って薄暗い部屋で不敵な笑みを浮かべる男が2人。

なにやら不穏な空気。

どうやら今回の要件も一筋縄ではいかないようだ。


「ふふふ、はははは。」


「はははは。」


部屋に不敵な笑い声がこだまする。




「リュースティア殿。ようこそお越し下さいました。」


リュースティア達を乗せた馬車が城に着くとすでに城の前にはメーゾル家の家令、ナギさんが待っていた。

ナギさんは前回と同じように丁寧にリュースティア達を迎えてくれた。


「こんにちは、ナギさん。今日は何の用なんです?」


リュースティアは馬車から降りるとナギさんに尋ねる。

だがナギさんはほほ笑むだけで答えようとはしない。


「まあいいじゃない。とりあえずラウス様に会いに行きましょ。」


リュースティアの後から馬車を降りてきたシズが気楽にそんなことを言う。

馬車を降りるその動作はいつものシズらしくない。

すごく優雅だ。


「これはシズ様。お久しぶりでございます。」


ナギさんがシズにも声をかける。

どうやら2人は知り合いのようだ。

まあそれもそうか、シズだって伯爵家の令嬢だしな。


「ナギさんもお元気そうで何よりです。」


そう言って宮廷風のあいさつをするシズ。

やっぱりいつものシズじゃない。

そんなことに違和感を感じつつもリュースティアはナギさんの後に付いていく。


「ラウス様、リュースティア殿がお着きになられました。」


そう言ってナギさんが足を止めた場所は前回通された部屋とは違っていた。

ラウスさんの私室だろうか?


「うむ。入れ。」


部屋の中からラウスさんのハスキー声が聞こえる。

なぜ、第一声で相手を威圧する?

まったく、並みの人間ならとっくに失神してるぞ。


「ラウスさん、こんにちわ。」


「ちょっ、あんた!」


横にいるシズが脇腹を小突いてくる。

どうやら領主様をさん付で呼ぶことを咎めているらしい。


「よい、気にするな。それよりもよく来たな。」


そう言ってリュースティア達にソファーに座るように促す。

ラウスさんに促されるままソファーに腰かける。

そこには先客がいた。


「あれ、お父様!なぜこちらに?」


そこにいた先客、それはポワロさんだった。

前回の会議の時にもいたしポワロさんって何者なんだろう?


「おや、シズも来たのかい?さ、2人とも座りなさい。話をしよう。」



「今回お主を呼んだのは他でもない。リュースティア殿に私の望みを叶えてもらいたい。」


ラウスさんが重苦しい感じに話を切り出した。

なんだか一気にめんどくさそうな雰囲気が出てきたよ。


「で、その願いとやらはなんですか?」


めんどくさそうな雰囲気を感じ、若干投げやりになる。

 

「なに、たいして難しい事ではない。お主にとってはな。」


そう言って口元を吊り上げるラウスさん。

その顔に思わず唾をのむ。


「私の望み。それはお主にぷりんを作ってもらう事だ!」


はい?

えっ、プリン?

これだけ重苦しい空気を作っておきながらプリン?

望みってプリン作ってほしいだけ?


「いや、意味わからないんですけど。」


プリン作るくらいなら何ってことないんだけどさ。

わざわざ呼び出してまで言う事か?


「実は私とそこにおるポワロとは昔からの友人でな。こうしてたまにわが城まで訪ねてきてくれるのじゃ。」


ふんふん、幼馴染みたいなもんかな?

でもわざわざ打ち明けることでもないと思うんだけど。

それよりもポワロさんの交友関係の方が気になってきた。

この前ギルドマスターとも昔馴染みって言ってたし。

ポワロさんって実はかなりのやり手なんじゃないだろうか?


「だが最近ポワロから聞く話と言えばお主のことばかり。それもお主が美味なるものを作ったというもの。そしてしまいにはそれがどれほど美味だったかを事細かに語ってくる始末。」


ん?

ポワロさんそんなに俺の作るお菓子を気に入ってくれていたのか。

けどいくら幼馴染だからと言って自分の上司にまで自慢するのはどうかと思う。


「そんな話ばかり聞かされればたべたくなるにきまっているではないか!だからポワロに無理を言ってぷりんとか言う食べ物のレシピをもらったのだがこの城にはその料理を再現できる者がおらん。」


ふんふん、なるほど。

まあ確かにレシピだけあれば作れるってもんでもないしな。

でもさ、この前来た時お菓子あげたよね?


「実はお主が店を開いたと聞いた時も真っ先に買いに行こうとしたのだが家臣に止められて買いに行くことも叶わず、、。そしてこの前ついにそれを口にすることができたというわけだ。」


いや、フットワーク軽すぎだろ。

仮にもここで一番偉い人だよね?

ナイスプレー家臣さん!


「前回食べた焼き菓子とか言う食べ物、それは私の想像を超えるものだった。焼き菓子ですらそこまでの美味であるならばポワロが大絶賛したぷりんとやらはどれほどの美味であるのか。私がそれを食さぬわけにはいくまい。という訳でお主を呼んだという訳じゃ。」


どんな暴君の考えだそれは、、、。

いくらなんでも職権の乱用が過ぎるだろ。

たかがプリンの為に呼び出さなくても言ってくれたら届けたのに。

今更ながらラニアさんの言っていた貴族たちの考えは理解できないと言っていた意味が解る。


「いや、そんくらいならいいんだけど。普通に言ってくれればいつでも届けますからね?」


「では作ってくれると申すか!それに届けてくれるとはなんともありがたい。」


うーん。

そんなに感激されても大したことじゃないんだよね。

プリンならストレージにまだストックあるし。

出せばいいだけなんだけどそれだと色々面倒なことになりそうだから厨房でも借りるか。


「じゃあ厨房借りるんで、少しだけ待っていてください。」


そう言って部屋を出ていく。

シズには部屋に残っておいてもらおう。

手伝ってもらったりしたら大変なことになりそうだしな。


「はぁ、とりあえずやるか。」


部屋を出てすぐ、その口から重たいため息がリュースティアの口からこぼれる。

厨房まで案内をしてくれているナギさんが苦笑いで見ている。

どうやら彼の無茶ぶりは今に始まったことではないらしい。



いろいろと心配したせいで無駄に疲れた。

それよりあの領主さんの興奮具合。

なんか最初のポワロさん一家の反応とかぶるんだよなー。


、、、、、、デジャヴ?


「お待たせしました。プリンです。」


厨房でストレージからプリンを取り出し、見栄えがするようにお皿に色々と飾ってみた。

ラウスさんも早く食べたいだろうしあまり時間はかけずストレージいあるものだけで飾ったにしては良い感じにできたと思っている。


「こ、これが夢にまで見たぷりん。食べていいか?」


夢にまで見たってんな大げさな。

それに許可なんて取らずに食べていいのに。

現にポワロさんとシズはもう食べてるし。

さすがにお預けにはできなかったので一応2人の分も作ってきた。

それにしても手出すの早くね?


「う、うまい!なんといううまさだ!」


うわー、ラウスさん大絶賛。

それほんとに最初のポワロさん一家と同じ反応。

いいけどさ、顔面緩みすぎってっからな?


「気に入ってもらえてよかった。厨房でナギさんにいくつか渡しておいたから好きな時にでも食べてください。」


「うむ。それにしてもやはりうまい。さすがはリュースティア殿だな。武に秀でるだけでなく食にも精通しておる。それに鍛冶や錬成もたしなんでいるときくしな。ぜひとも私の臣下に加えたいものだ。」


「おや、それは良い。」


いや、しれっとなに言ってんの?

それにポワロさんも勝手に同意しない!

家臣なんて無理、絶対無理だから。

冗談に聞こえない冗談はやめてほしい。

反応に困るから。


「俺なんてまだまだですよ。それにこの前もお話しましたが俺はケーキを作るだけで十分です。」


なおもしつこく勧誘してくる2人を適当にかわし、この場を退室させてもらう。

今回はちゃんと屋敷まで送ってくれるらしく門のところには馬車が止まっていた。

まだプリンの食べたりないシズが文句を言っていたが別に残りたいなら残ればいい。

そう言ったらなぜか怒られた。

うーん、よくわからん。


「ね?たいしたことなかったでしょ?」


帰りの馬車に揺られながらシズがそんなことを言ってくる。

そう言えば案外大したことないとか言ってたな。


「大したことはなかったけど無駄に疲れたな。さっさと帰ってゆっくり風呂にでもつかりたいよ。」


「お姉ちゃんたちも心配だしねー。」


「いや、さすがに半日も留守にしてないし大丈夫だろ。こんな短時間で屋敷が吹っ飛ぶような事なんてないだろうしね。」




みんなは知っている。

それはフラグだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る