第52話 気まずい会議
「では会議を進めるぞ。ドゥラン、奴ら魔族の狙いは何だと思う?」
相変わらず重苦しい雰囲気で領主さんが切り出す。
いや、だからね、もう倒したんだって。
あー!
さっさとそう言えたらどんなにいいか、、。
「メーゾルでとれる魔石、この地そのもの、この地のどこかにあると言われている源泉、そしてラウス様、あんただ。俺が思いつくのはこれくらいだな。ラニアはどうだ?」
おいギルドマスター、正解言ってるよ。
やっぱりただのだるいおっさんじゃないのか。
さすが高レベルなだけあって敵の戦略を読むのは得意そうだ。
だがその源泉が精霊の管理する水の祠にあると言う事までは知らないらしい。
「そうですね。私もギルドマスターと同じ意見です。ただもう一つの可能性を言わせえいただけるなら彼は何かを、もしくは誰かを探しに来たのではないですか?最近になってここらへんに現れた物、もしくは人を。」
そういってリュースティアの事を意味深に見つめてくるラニアさん。
ちょっと待って、俺疑われてる?
確かに最近ここら辺に現れたけどさ、関係ないって!
「んん?ああ、そうかなるほどな。ってことらしいんだが小僧、どうだ?」
ラニアさんの視線に気づいたドゥランさんが面白そうにリュースティアに話を振る。
そのにやついた笑いを見るだけで彼自身、リュースティアが元凶だと思っていない事は明白だ。
うわ、こいつ絶対面白がってる。
こうなったら全部言ってやる。
このおっさんを楽しませるくらいなら洗いざらい白状したほうがましだ。
リュースティアはすべてを話す決心をした。
何が何でもドゥランさんを楽しませてやるもんか。
「確かに俺は最近ここに来ましたけど魔族とは関係ありません。まぁそのカイザとは全くの無関係ではありませんけどね。」
ここでは一番の新米冒険者っぽいのでとりあえず丁寧な言葉を意識し、なるべく物腰の柔らかい人物という印象を与えられるようにする。
血の気が多いと思われたら毎日喧嘩に巻き込まれそうだしね。
「小僧、それはどういうことだ?俺が前にした話を忘れたわけじゃないよな?」
カイザと無関係ではないと言った瞬間ドゥランさんの目つきが険しくなった。
本格的に疑いだしたか?
早めに白状しないとドゥランさんと戦う羽目になりそうだ。
「勘違いしないでください。たまたま俺の
「小僧、お前の言い方だとすでにカイザを倒したって言っているように聞こえるんだが?」
ギルドマスターとリュースティアの会話についていけなかった冒険者たち倒したという言葉に反応し、一斉にリュースティアを見る。
いや、君たち連携度半端ないな。
冒険者なんかやめてシンクロやった方がいい。
それにしてもドゥランさんはさすがだな。
話が早くて助かるわ。
「そう言ってるんです。カイザは俺が倒しました。」
「なっ‼」
開いた口がふさがらないと言うのはこういう事を言うんだろうな。
目の前のドゥランさんを見てそんなことを思う。
こっちに帰ってくるにはもう少しかかりそうだ。
「、、、おい。小僧、ちゃんと話せ。始めから全部だ。そんでお前らはさっさと帰れ。聞いただろ、この会議自体にもう意味はないんだよ。ラウス様、いいだろ?」
「う、うむ。だが私もこやつの話は聞かせてもらうぞ。」
領主さんに許可を取り集まった冒険者を追い出していくドゥランさん。
わざわざ集められたのにほんの数分でお払い箱、かわいそうだ。
うーん、俺的には他の人に聞かれても問題ないんだけどな。
別に変な事してないし。
「ラニア、お前は残れ。よし、小僧、最初から話せ。」
部屋から出ていこうとしていたラニアさんを引き留め、扉を閉じると何かの呪文詠唱を始めた。
聞いたことのない呪文だが敵意は感じないので危害はないだろう。
「とりあえずここに精霊を呼んでもいいか?」
第三者たちがいなくなったのでいつも通りの口調に戻すリュースティア。
だってギルドマスターの事尊敬してないもんね。
恨みはあって敬いはない。
「精霊?小僧が契約しているという風の精霊か?」
「あーそいつもなんだけど実はもう一人いるんだわ。そんで今回はそいつが元凶。だからそいつから話を聞くのが一番だと思うんだ。ディーネ、シルフ、話がある。」
そう言って精霊2人を呼びだすリュースティア。
シルフの口に食べかすが付いているところを見るとまだパーティ料理を食べていたみたいだ。
さすがに太るぞ?
「はいなの!あれ、前にあった強面なの。」
「なんじゃ、ついに妾を求めたか?」
まったく、登場早々やかましい奴らだ。
「シルフとは前にあったことあるよな?で、こいつが四大精霊で、水の精霊ウンディーネだ。色々あって今はこいつとも契約を結んでる。ディーネ、水の祠の話をしてくれ。」
ディーネの紹介をしたあたりからドゥランさんたちの顔から表情が抜けだした。
聞いているかわからないが気にせず行くとしよう。
聞いて居ない奴が悪いんだからな?
*
「ありえん。いくら小僧の話だろうとそんなこと信じられるわけないだろ。」
ディーネがすべてを話し終えた後の第一声がそれだった。
確かにこっちの世界の人からしたら信じられないのかもしれないけど事実なんだよな。
どうやったら信じてくれるかな?
「ドゥラン、確かにこやつの言葉はにわかには信じられんがこやつは嘘を言ってはおらん。それはお主が一番わかっているのではないか?」
意外なところからの助け舟だ。
領主さんはリュースティアの話を信じたらしい。
それにしてもドゥランさんが一番わかってるってどういうことだ?
「ああ、俺がさっき使った魔法では嘘は感知されていない。だからと言ってそんな簡単に信じられるわけないだろ?いくらなんでもこいつは新米冒険者、レベルだって1の弱小だ。」
おい、そういう魔法使ったなら言えよ。
仮に嘘を言ったらどうなるかなんて考えたくない。
ここに来て危機感知がビンビンだ。
「ドゥランさんになら言ってもいいと思うから言うけどさ、俺レベル上がんねえんだわ。エルと死ぬ思いで修行しても魔族と戦っても変化なし、完全にバグってる。まあレベル1でも問題なく魔法は使えるし、剣技だって十分だからいいんだけどさ。なんか似たようなことあったりしないの?」
「知るか!小僧みたいなやつは存在が異常なんだよ。そうそう似たようなことがあってたまるか。だが小僧は魔族を倒すことで実力を証明しちまったしな。いつまでも最低ランクのレベル1じゃなぁ。」
あっ、やっぱり?
俺って異常なんだ。
うすうす勘づいていたけどこれで確信したわ、俺自身がこの世界のバグだ。
ならなおさら大人しくしておこう。
安全第一、平穏無事。
「ってことでラウス様、俺の権限でこいつを最高ランク、Sランクの冒険者にするがいいよな?冒険者カードのレベルは適当に高くしとけばいいだろ。仮にばれても
おい、ちょっと待て。
なに勝手に話を進めてる?
それにすごく偉そうだ。
領主さん、ここはビシッと言ってやれ!
「ドゥラン⁉いい案ではないか!そうかその手があったではないか。うむ、我が領地からSランク冒険者が出たとあっては近隣諸国も手を出せなくなるはずだ。これでしばらく我が領と隣接してる国からの侵略が収まるかもしれん。さすれば我が領だけでなくメウ王国も安泰だな。」
ちゃうねん、そうじゃない。
俺が求めてたのはそうじゃないんだよ。
「マスター、確かにそれはギルドマスターに与えられた権限ではありますがいくら何でも早急すぎます。確かに彼は九鬼門を倒したかもしれませんがそれを証明できる者がいないのであれば疑惑が募るばかりでしょう。」
ラニアさんが至極まともなことを言う。
そう、そうだよ、
ラニアさん、ナイス!
「そんならこいつに
五大冒険者依頼?
聞いたことないけどそれを聞いたラニアさんの顔が引きっつっていたのでいい話ではなさそうだ。
それよりさ、君たちって本人の意見は聞かないの?
「それならばみなも納得せざるを得ないだろう。どの
「ああ、それならもう決めてる。不死の
いや、だから誰もランク上げてくれって言ってないよな?
それになんだその危険そうな名前は。
俺、ホラー系苦手なんだよ。
「いいな小僧?詳細はこっちの準備ができ次第知らせてやる。とりあえず小僧はこの
いやいや、なに決定みたいに話してんの、このおっさん。
誰もやるなんて言ってないだろ。
「はぁ?いやだからさ、俺Sランクになる気ないから。それに冒険者で食べていく気もない。俺はパティシエだからな!」
そう力強く宣言するとストレージから色んな種類のお菓子を取り出す。
それを見たシルフとディーネが目を輝かせているがお前らのためじゃないぞ?
今日はもう十分食べただろ?
これからここにいる人間にはたっぷりとお菓子のすばらしさをご理解いただこう。
そしてそのまま
「まあとりあえずこれでも食べてもう一回考えなおそうぜ。」
口元に悪魔の笑みを浮かべながらお皿にお菓子を取り分けていくリュースティア。
平和な日常のためならなんだってやってやる。
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