第53話 ケーキと五大冒険者依頼
「ほう、これが巷で噂になっているけぇきとか言うやつか。一度食べてみたかったのだがナギがうるさくてな。」
そう言ってリュースティアがお皿に乗せたケーキをまじまじと見つめる領主さん。
隣のおっさんたちは?
ってもう食べてるし。
いや、食べていいんだけどさ、もう少し遠慮しろよ。
まぁケーキにがっついたところを見られたラニアさんの恥じらいがかわいかったから許すけど。
「たくさんあるからどんどん食べてください。俺はこのケーキを作る仕事をしてるので冒険者は無理です。ケーキ作るのってすげぇ大変なんですよ。」
本当は魔法と魔法の道具のおかげでそんなに大変じゃない。
現に今は時間もお金もだいぶ余裕がある。
でもそれを正直に話す必要はない。
それにお店を開けている時はお店にいないといけないしね。
「小僧、嘘はよくねえな。それ以上下手な事言うと後悔することになるぞ?」
んな⁉
まさかまださっきの魔法が発動していたのか?
発動時間長すぎんだろ。
「この魔法は難易度が高いわりに消費魔力が少ないから効果時間も長いんだよ。俺の場合だと後半日は持つぞ?」
そういう事は先に言ってくれません?
後でその魔法教えろ。
おっさんの嘘全部暴いてやる。
「まあまあいいではないか。時間がかかるかからない関係なく、このけぇきはうまい。まさに革命だ。その技術者を冒険者にして万一にも失う事があればその損失が大きいことも事実だ。」
おっ、いいぞ。
そうそう、あくまで俺は文明人なんだよね。
戦いとか冒険とかナンセンス。
「今のところこの技術は俺しか持ってないんでね。俺が死んだらすべてなくなりますよ?」
すでにここにいる者たちはケーキの魅力に取りつかれているはずだ。
これが食べられなくなるなんて考えたくもないだろう。
現にあのギルドマスターでさえ苦虫を噛み潰したような表情をしている。
勝った。
これで俺の異世界生活は安泰だ。
悠々自適の平和なスローライフを満喫させてもらおうじゃないか。
「ダメなの!リューのケーキはなくなっちゃいやなの。だからシルが守るの。」
「うむ、それは妾も同感じゃ。ご主人様がいなくなっては誰が妾を折檻してくれると言うのじゃ!妾の全てを使ってご主人様を守ろう。」
おい待て。
そこのバカ精霊ども。
いいから少し黙れ。
お菓子ならいくらでもやるから余計な事言うな、マジで。
「なるほど、四大精霊の半数が小僧を守ると来たか。ラウス様、こりゃたとえ小僧を冒険者にしてもこいつは死なねぇわ。精霊の護符がついてやがるからな。」
ほらー、だから言ったじゃん!
せっかくいい感じに逃げられそうだったのにさ、、、、、。
「お断りします!普通にこいつらいても死ぬから!むしろこいつらがいたら死亡率上がるって。」
必死に、それはもう必死にバカ精霊たちの無能さをアピールする。
だがどんなにアピールしても神聖な生命体である精霊のイメージは上書きできないみたいだ。
まったく聞いてくれない。
「うむ、よかろう。四大精霊のおふた方がついておられるのであればそう危険な事にはなるまい。リュースティアの
いや、だーかーら!
やらないから、やりませんってば!
こうなったらやらないの一点張りで乗り切るしかない。
「小僧、仮、仮にだ、断るような事があればその時はお前の立場はないぞ。これは正式かつ神代より続く神聖なものだからな。最近は挑むものがいなくてすたれていたがその風習は残ってる。」
リュースティアが何か言う前に先手を打たれた。
それにしても強制で命を賭けろとか正気じゃないよね?
しかもすげぇ嘘くさいし理由も後付けっぽい。
「いや、断るから。立場がなくなるもなにもそもそも立場なんてないし。ここにいられないなら別の場所に行けばいいだけだろ?」
何せ裸一貫で異世界から来たくらいですから。
メーゾル領には愛着もあるが平和に暮らすことの方が大切だ。
それに会いたい人にはすぐ会えるだろうし。
「小僧はそれでいいかもしれんがそっちはそうはいかないだろ?」
そう言って視線を向けるとそこには苦笑いをしているポワロさんの姿があった。
ポワロさんがなんで困るんだ?
「まさかお主、知らんのか?ポワロはお主の後見人だ。まさか少しも疑問に思わなかったのか?なんの後ろ盾のない若造がいきなり屋敷を買って店を開けるわけがなかろう。それにポワロだけではない。エルランドもお主の後見人に名を連ねておる。」
なんだと、、、。
それは知らなかった。
どうりで物事がうまく進むはずだ。
ってことはここで断ったらポワロさんの立場が悪くなるってことか。
それはダメだ。
ポワロさんにはまだ返しきれてない恩がたくさんある。
はぁ仕方ない、平和も大事だけどポワロさんたちの為ならやるしかないもんね。
「わかったよ。やります、やればいいんだろ?でも条件がある。
確かに今回はポワロさんの為に
帰ってきたら本格的に冒険者を廃業しよう。
だからSランクなんていらない、そんなものほしい人にあげてくれ。
「ばか!ダメに決まってんだろ。後者はいい、だが前者はダメだ。そもそもこの依頼自体が小僧にSランクをつけるためのものなんだぞ?メーゾル領にSランクがいることが重要なんだよ。」
よし、言質はとった。
必要なのはSランク冒険者であって俺ではない。
それならばもう一つだけリュースティアが平和な生活を手に入れる方法がある。
「影武者だ。俺が全く別の人間を装ってSランクの冒険者になるからさ、リュースティアとしてはそのまま最低ランクの冒険者にしてくれよ。それならいいだろ?」
これがリュースティアの出せる苦肉の策だ。
Sランク冒険者でもその正体がリュースティアだとわからなければリュースティアとしては平和な生活を送れるはずだ。
「できるなら影武者だろうとなんでもいいが鑑定スキル持ちに会ったら変装くらいじゃすぐにバレるぞ?」
「そこは大丈夫だろ、シルフが始まりの魔法使えるから
スピネルの時に使った魔法だが文字通り個人のステイタスに干渉し書き換えるものなので偽装にはもってこいだ。
戻すときが若干めんどくさいが我慢しよう。
「、、、、、。」
って、あれ?
またおっさんがフリーズしてるんだけど。
今度はなに⁉
「始まりの魔法だと?あれはすでに失われたもので、、、いやだが精霊ならば、、、、、、。」
とかなんとかブツブツ言い始めた。
普通に怖いんですけど。
「わかった。小僧の要望を認めよう。その代わり影武者の装備なりは自分で用意しろよ?ステイタスプレートだけはこっちで作っといてやる。」
よし、交渉成立。
とりあえずこれでリュースティアとしての平和は確約されそうだ。
それにしれも新しい装備と名前考えないとなー。
いい機会だし、装備も自作して見るか。
「じゃあ俺もう疲れたし帰ります。また何かあれば屋敷まで使いを出してください。少なくともあんた以外で。」
そう言う相手はもちろんギルドマスター、ドゥラン・オリビアーク。
彼は屋敷に来てほしくない、完全に疫病神だ。
それにしてもデザート、、、。
完全に食べ損ねたかな?
だってさすがにまだ待ってたりしないだろうし。
「まて、リュースティア。」
リュースティアが立ち上がり扉に手をかけたタイミングで領主さんが声をかけてきた。
まだなにああるのか?
「けぇきとやらはもうないのか?」
はい?
けぇき?
えっ、なにもしかして足りなかった?
あんだけあったのに?
食いすぎじゃね?
「どうぞ、とりあえず今あるのは全部置いてきます。一応ナギさんに保存方法とかまとめた紙を置いとくので使ってください。では待ってる人がいるので俺はここで。」
ケーキを食べて残念は人になりつつある領主さんだがナギさんがいれば問題ないだろう。
いや、ナギさんも相当物欲しそうな顔をしているところを見るときっと食べたくて仕方がなさそうだ。
だがそこは家令のプライドと誇りにかけて必死にこらえているのだろう。
うん、あとでこっそり焼き菓子でも渡しておこうかな。
あーあ、俺も早く甘いものが食べたいよ、、、。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます