第51話 勅命<デザート

「おい、ここにリュースティアと言うやつはいるか⁉」


閉店後という事もあって静まり返った店内に男の声が響く。

居留守を使おうと思っていたら普通に店の入り口から入って来やがった。


おい、不法侵入だぞ?


しかたなくリズとシズの二人を連れて一階の店舗に降りる。

店内にいた乱入者は騎士のような恰好をした中年のおっさんだ。

レベルは11、所属が領軍となっているところを見るとこの街の軍に所属する人間なのだろう。

だがそんな人がリュースティアを訪ねてくる理由に心当たりはない。


「俺がリュースティアです。領軍の隊長ともあろう人がどういった御用でしょうか?」


なるべくことを荒立てたくないので素直に名乗る。

特にやましいこともないので問題ないだろう。


「ふん、素直に名乗り出るとはいい度胸だ。お前に領主様から登城の命が出た。すぐに私と共に来てもらおう。」


「なっ⁉それはあまりにも突然すぎるのではないですか?領主様とあろうものが礼儀を軽んじるとは思えませんが。」


騎士の言葉に反応したのはリュースティアではなくリズだった。

さすが伯爵家の令嬢なだけある。

領主の命という言葉にひるむこともなく騎士に面と向かって抗議をしている。

いつものかわいらしいリズとは違って凛々しく、品を備えた態度だ。

そんなリズに見惚れてしまったので自分の事ながら完全に出遅れたリュースティア。


「これはリズ様。リズ様のお怒りも最もですがこれは勅命、そして緊急の招集でもあるのです。一刻を争う事態ですので、どうかお控えください。」


勅命?

勅命ってあれか?

国で一番偉い人からの命令ってことか?

ヤバイ、全く心あたりがない。


「勅命?こんな辺境の地に国王が関心を持っているなんて聞いたこといんだけど?」


そう言ってなおも引き下がらないのはシズだ。

怖いもの知らずというかなんというか、頼もしいよ、全く。


「私は貴殿を城へ連れてこいとの命を受けただけですので詳しい事は申せません。ですがもし登城を渋るようでしたらエルランド様とギルドマスターの名前を出せと仰せつかっております。」


あの2人が関係してるのか?

ますます嫌な予感しかしない。

でもさすがに勇者になれとか魔王を倒してこいとかじゃないよね。

2人にはちゃんと断ってるし、せいぜいめんどくさそうな冒険者依頼とかかな。


「わかりました。別に断る理由もありませんしご一緒しましょう。」


「物わかりのいい奴は長生きする。よし、外に馬車を待たせてある。ついてこい。」


相手が平民のリュースティアだからかリズたちと接していた時とは変わって強い口調に戻っていた。

そんな様子にさらなる抗議を入れようとしていたリズたちを目で制す。


「じゃあちょっと行ってくる。二階は後で片づけるからそのままでいいぞ。デザートは悪いけどお預けな。すぐ帰ってくるつもりだけどスピネルの事だけよろしくな。」


まるでちょっと買い物に行くかのような態度にあっけに取られる2人。

リュースティアはそんな二人の様子をしり目にすでに馬車の前でリュースティアを待っている隊長の元へ急ぐ。




「おそらくそこまで悪いことにはならないはずだ。年配者に従っていればいい。」


馬車が出発してからしばらくして隊長さんがそんなことをぼそりとつぶやいた。

聞き耳スキルがなければ聞き逃しそうな言葉に反応しようとすると隊長さんに目で動くなと言われてしまった。

どうやら今のは隊長さんなりの忠告らしい。

よく意味は解らなかったが根はいい人みたいだ。


これから何があるのか、そしてどうやって対処するかを考えているとリュースティアを乗せた馬車が停止した。

どうやら城についたらしい。


馬車をお降りるとそこはテレビで見るようなレッドカーペットが敷かれていて、左右にはメイドや執事のような人が控えていた。

そしてさらにその後ろには等間隔で騎士のような人達が並んでいる。

おそらく近衛兵的な人達だと思う。


「リュースティア殿、お待ちしておりました。私はここメーゾル城にて家令を務めておりますナギと申します。皆さますでにお待ちですのでこちらへ。」


左右に陣取った使用人の中から初老の男性が名乗り出る。

そしてそのままリュースティアを城の中へと案内をしてくれる。

その対応は無理やり連れ来られたにしては丁寧な対応で拍子抜けしてしまった。


これじゃあ普通に招待客じゃん。

それにしても皆さま?

領主さんがいるだけじゃないのか?


マップ機能を使って誰がいるのか見ようとしたがなぜか目の前のナギさんとメイドさんたち以外は表示されなかった。

領主がいる城と言うだけあって防衛機能はそれなりにしっかりしているらしい。



「ラウス様、リュースティア殿をお連れしました。」


ナギさんが一際装飾の施された部屋の前で止まり、ノックをする。

どうやらここが主の部屋らしい。


「ナギか。入れ。」


威厳たっぷりの少しハスキーな声が部屋の中から聞こえる。

少し緊張しながらもリュースティアは覚悟を決めナギさんが開けてくれた扉から部屋の中に入る。


「お主がリュースティアか。若いな。」


部屋に入るとそんな言葉をかけられる。

声の主は当然この城の主”ラウス・カリアード・メーゾル”ここメーゾル領の領主だ。

年の功というべきか全身から威厳と言うものが溢れ出ている。


「まあまあラウス様そんなに威嚇なさってはリュースティア殿も口をきけませんよ。」


黙っていたせいか領主の威圧に飲まれ口を開くことすらできなかったと思われていたみたいだ。

ただ挨拶を考えていただけとは言わない方がよさそうだ。

それよりも助けを出した人物に驚くリュースティア。



「ポワロさん⁉どうしてあなたがここに?」


領主さんがポワロさんに言われ威圧を解いてくれたが本人はリュースティアに威圧が聞いていないことを分かっているようだ。

まあ何も言ってこないし、気にしなくてもいいよね。

それよりもポワロさんだ。

リュースティアは真っ先にここにいるはずのない相手、ポワロ伯爵に問い質す。

だがポワロさんはほほ笑みを返すだけでリュースティアの質問には答えようとしない。


「ふん、第一声がそれか。」


領主さんが呆れたような、それでいてどこか面白そうな様子でそんなことを言ってくる。

だがリュースティアは領主さんの言っている意味が解らず視線でポワロさんに助けを求める。


「リュースティア殿、ここは領主様に挨拶をするのが先であろう。いきなり私に詰め寄って来るなど領主様の前で失礼ではないか。」


ポワロさんにそう言われてようやく自分の失態に気づく。

不敬罪とかにならないよな?


「すいません、領主様。初めまして。俺、えっと私はリュースティアと申します。本日は登城せよとの命を受けてこちらに参った所存です。」


「よい、貴殿の席はそちらにある。ドゥラン一押しの新米冒険者も来たところで会議を始めよう。」


ん、会議?


その言葉に反応してあたりを見渡すとポワロさん以外にもギルドマスターやラニアさん、その他にも冒険者らしき人物が何人か席についていた。

どの人物も腕の立つ冒険者なのだろう。

そこらの冒険者とはオーラといういか雰囲気が違う。

強そうだ。


それにしてもますます心あたりがない、しかも勅命とか言っていなかったか?


「今回の件は国王様から一任されている事でもあるからね。間違いではない。」


そんなリュースティアの疑問をくんでかポワロさんが説明してくれた。

国王も絡んでんのか。

ますますめんどくさいな。


「いいか、話を始めるぞ。今回呼んだのは他でもない。メーゾル防衛についてだ。ラニア、皆に説明を。」


領主さんがそう切り出すと場の空気が張り詰める。

メーゾル防衛とか聞いたことないけどみんなの表情を見る限りその言葉が出るだけで緊急事態なのかな?

それにしても、デザート、、、、、、。


「では、簡単に説明させていただきます。近隣の村から魔物の討伐依頼を受け、Bランクパーティが討伐に向かったところ、魔物の急増、強化が見られたそうです。異常事態と判断し、討伐から調査任務に切り替え、調査をしていたところ、魔物を従える魔族を発見したそうです。」


ここまでを一気に話すラニアさん。

それにしてもまた魔族か、裏で暗躍してるんじゃないのか?

さすがに表に出てきすぎだと思う。


魔族と聞いただけで歴戦の戦士たちの顔が青ざめた気がする。

多分大した事ないと思うんだけどな。

それにしても、デザート、、、、、。



「・・・・です。そして、そのの事を受け、今ここにいるメンバ―を中心にメーゾル防衛軍を結束し、速やかに魔族の排除に取り掛かります。」


やべ、聞いてなかった。

防衛軍って、辞退できるのかな?

さすがに日本人に軍はきついって。


「ラニアの嬢ちゃん、一ついいか?その目撃されたって魔族は誰なんだ?ここまでのメンツを揃えてるくらいなんだ。下級じゃないのだけは確かだな。」


体中に切り傷のあるおっさんがラニアさんにそんなことを聞く。

彼の話を聞く限りだと魔族も個別認識はされているらしい。


「・・・。九鬼門のカイザです。」


ふーん。

ん、九鬼門?

どっかで聞いたような、、、、。

ってカイザ⁉

カイザってあいつか?

ピ○○ュ〇もどきの?

えっと、倒しちゃったんだけど、、、、、。


「なんと!カイザだと?それでは我々では手の出しようがないではないか。」


「そいつの言う通りだ。九鬼門が相手ってなりゃ割が合わねえな。」


「ふん、怖気着いたか?ならば魔族討伐の功績は私がもらうとしよう。」


「けっ。たかがBランクが何言ってやがる。てめえなんてやられて終わりだ。」


「ならば試してみるか?」


どうやら冒険者は血の気が多いらしい。

今にも一発触発しそうだ。


「黙らんか。貴殿らの意見など聞いてはおらぬ。私が問いているのはどうやって我が愛しき民を守るか、だ。そのほか、己がプライドなど捨て置け。」


おお!

さすが領主さん、カッコいいな。

でも言葉に威圧を乗せるのはやめてあげた方がいいと思う。

何人か気絶しちゃってるよ?


でもどうしよう、この空気の中じゃ言い出せない。

もうすでに魔族を倒したなんて、、、、。

はぁ、タイミング見て言うしかないか。

せっかくのデザートは食べ損ねるし、ついてない。


ほんの数十分前なハズなのにあの日常が恋しいよ。

ああ、デザート食べたい。


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