第50話 誕生日パーティ2

「じゃあ料理も出尽くしたし、改めて乾杯するか!一応お酒もあるけどどうする?」


ケーキのローソクも無事に消し終わり、料理を机に並べたらいよいよパーティの始まりだ。

ケーキはもちろん料理にも力を入れたからかなりの量になってしまった。

まあ、ストレージに入れておけば劣化しないし、気にしないでいいか。

環境保全を気にしなくていいファンタジー能力、最高です。


「お酒は遠慮しておきます。その代わり料理を堪能させてもらいますね!」


「私もいいわ。あまり好きじゃないし。」


なるほど、二人はまだまだお子様、と。

それともこっちの女性ってあまりお酒飲まないのかな?

でもギルドはほぼ酒場みたいな感じだったし、お酒類のお店も結構あったはずなのでお酒が普及していないわけではないと思う。

単に好みの問題かもしれない。


「そっか、じゃあ今回はお酒なしってことで。かんぱーい!」


そう言って各々の飲み物が入ったグラスを掲げ乾杯をする。

そして料理の攻略を始めるのだが、やはり一番素早いのはシルフ。

次から次へと口に頬張っていく。


あんなに小さい口にどうやったらそんなに入るのか検証したいレベルだ。

でもシルフ、さすがにそれは入れすぎだろ。

喉に詰まるよ?


「むぐっ!んーーー!」


ほらな?


「シルフ、まだまだあるし誰も取らないからゆっくり食べろよ。それとスピネル、お前は遠慮すんな。好きなだけ食べろ。ディーネ、、、、お前はいいや。」


シルフの介抱をしてやりながらスピネルにそんなことを言う。

先に言っておかないと遠慮して食べなそうだからね。

そして変態はスルーに限る。

関わりにならないのが一番だ。

適当にあしらわれて身悶えしていても、スルーだ。

リズたちがごみを見るような眼で見ていたとしても、スルーだ。

そしてその視線にさらに興奮したとしても、スルーだ。


頑張れ、俺のスルースキル、、、、、。



「はいなの!でもさすがリュー。どれもおいしいの。」


「・・・ん、美味しい。」


「そりゃよかった!なんたって、調味料から火の入れ方にいたるまで細部にまでこだわった自信作だからな!」


自信満々に話すリュースティアの目はキラキラと輝いていた。

やはり自分の好きな事をやっている時のリュースティアが一番だ。

この場にいる者なら全員がそう思っただろう、そのくらい今のリュースティアは楽しそうだった。


「なんだかお料理の話をしている時のリュースティアさんって新しい遊びを思いついた子供みたいですね。とっても楽しそうです。」


「これでも2人と同い年なんだぞ?子供みたいって言われてもうれしくない。それに俺から言わせてもらえば2人だって十分子供じゃん。」


なにせ元の世界では20歳で成人でしたから。

それにこっちだと俺は15歳だけど元の世界だと29歳なんだよね。

俺から見たら15歳なんて子供だ。

だって中三だよ?


「リュースティアだけには言われたくないわね。それよりさ、あんたの誕生日?はいつなの?」


シズが特大サイズのフライドチキンと格闘しながらそんなことを聞いてきた。

てっきり食べるのに夢中で話なんて聞いてないと思ってたよ。

でも誕生日か、気にしてなかったけどこっちの日付とかってどうなってんだろ?


「俺は12月25日だな。」


そう、リュースティアたんじょうびの誕生日はクリスマス。

パティシエ&非リアが一年で最も嫌いな日、堂々の一位。

いつもクリスマスの忙しさに追われてろくに祝った記憶がない。

彼女でもいたら祝ってくれたのかもしれないが繁忙期にそんな余裕はない!

彼女とすごような時間があれば眠りたい、それが繁忙期のパティシエである。


「12月25日?何それ、いつの事言ってるの?」


な、なんですと⁉

まさか月の数え違うのか?


「シズ、一年はどうやって数えてるんだ?」


「どうって、真月しんつき歩月ふつき稚月ちつき紗月さつき栖月すつき羽月はつき由月ゆつき妃月きつき莉月りつき夢月むつきね。ひと月は30日、上弦、中弦、下弦って呼ぶことが多いわ。なんだか久々にリュースティアの無知を聞いたわね。」


なるほど、1年は10か月、300日か。

…ってことは俺の誕生日もしかしてない?

それは仕方ないとして、説明している時のシズが若干嬉しそうなのはなんでだ?

前まではあんなにいやいや説明していたくせに、わからんやつめ。


リュースティアは知らない。

ここ最近は備考欄のおかげで2人に何かを聞くことがあまりなかったことを。

そして、そんなリュースティアの無知さが消えたことでリュースティアが自分たちの知らない人物になっていくように思われていたことを。

そしてそれが何となく寂しいと感じられていたことを。

リュースティアは知らない。


「リュースティアさんの故郷では違うんですか?」


「ああ、俺の故郷では1年は1月から数えて12月まで、日にちも1から30、31まである。ちなみに1週間は7日、曜日ってのもあるな。」


元の世界は1年が365日だったからこっちとは時間軸がちがうのかな?

それにしても上弦ってアバウトだなー。


「ふーん、なんだかややこしいのね、あんたの故郷って。もしかして他にもそういう違いとかあったりするの?」


ややこしいって、、、、、。

確かに、生まれた時からそういうものだったからちゃんと考えたことないなー。

けど昔はもっと時間は感覚的なもので月とか太陽で見たり、アバウトだった気がする。

やっぱり文明が発展すると正確な時間が必要になんのか?

そう考えると時間って窮屈なものなのかもしれない。

うん、新しい発見だな。



「多分な。俺の故郷とこっちじゃ違うところの方が多いと思う。」


「そうなんですね。例えばどんなのがあるんですか?」


リズが興味津々にそんな事を聞いてくる。

異世界なんて信じないだろうけど違いを話すくらいならいいだろ。

それに機械の事とかを話す気はないしね。


「そうだなー、食べ物とかは結構違うな。同じものでも名前や見た目が違ったりしてる。こっちにはあって向こうにはないものもあるし、その逆もある。」



昨日、数千の魔物を排除し、上級魔族を倒したとは思えないくらいいつも通りの日常がそこにはあった。

それにしてもこんなたわいもない話はありふれた日常の中でしかできないからね。

やっぱり平和っていいわー。

二度と魔族とかとは関わりたくない。

せっかくケーキ屋も軌道に乗ってるし、しばらく冒険者は休業だな。

まあいまだに最低ランクだから休業もなにもないけどね。


そんなことを考えながら元の世界とこちらではどんな違いがあるかを2人に説明していると平和な日常をぶち壊す無粋な輩がやってきた。

マップの光点は人族を表す黄色、直視していないので詳細などはわからないが知り合いではないことだけは確かだ。

でもリュースティアには分かる。

それはきっと、間違いなく、100%面倒ごとだ。


そして、切羽詰まったように騒々しく鳴らされる呼び鈴もリュースティアの懸念が事実であることを証明する。




誰だ?

空気読めない奴は。

せっかくたわいもない日々を満喫してたのに。


新聞なら間に合ってますよ。




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