第50話 誕生日パーティー

「ねぇ、お姉ちゃん。」


リュースティアに屋敷を追い出された2人はラクス通りに来ていた。

2人で屋台や露店などを冷かして時間をつぶしていたのだが不意にシズに声をかけられた。


「どうしたの?急にそんな真剣な顔して。」


「ううん。その、お姉ちゃんってリュースティアの事ほんとはどう思ってるのかなーってさ。」


急に改まって訪ねてきたシズに意外そうな顔をするリズ。

さすがに彼女も話題がリュースティアの事だとは思わなかったみたいだ。

だが彼女の魔眼はシズが真剣であると、自分自身の答えを出すためのものだということを伝えてくる。

もっとも生まれた時からずっと一緒にいるシズの事なんて魔眼を使わなくても分かる。


シズはリュースティアに好意を抱いている。

だが姉であるリズもリュースティアに好意を抱いている事を知ってしまっているので自分の気持ちとの折り合いがつかなくなっていると言ったところだろう。

リズはそんなシズの心のもやもやを知ってか、やさしく語りかける。


「シズ、私はリュースティアさんの事が好きよ。あんなにやさしくて心がきれいな人はそういないわ。頼りないし全然こっちの気持ちに気づいてなんてくれないけどね。でもシズも知っているでしょう?リュースティアさんの強さ。」


「魔眼を持っているお姉ちゃんが言うなら間違いないんだけどさ。それにリュースティアが強いなんて知ってるわよ、散々見せられたもの。」


どことなく府に落ちないようすのシズ。

しかしリズの本当に言いたい事には気づけていない。


「違うの。私の言っているリュースティアさんの強さは単純な武力の強さじゃないわ。彼は他人の為に立ち上がる勇気を、他人を受け入れる器を、他人を笑顔にする優しさを持ってる。それはいくら力があっても簡単にできることじゃないと思うの。シズだってそんなリュースティアさんにたくさん救われたでしょう?」


そう言ってほほ笑むリズは恋する乙女のようにも人々から敬い、崇められる女神のようにも見えた。

そんな神々しさに一瞬見惚れてしまったシズだがすぐに我に返る。

本当にこの姉と自分は血がつながっているのだろうか?


「そうね。あんなバカでドジな奴でもなんだかんだで頼りになるのよね。それに、、、、守ってくれるって。」


シズの言葉の後半は傍にいるリズですら耳を澄まさないと聞こえないほど小さくなっていた。

そしてそれを聞いたリズは女神のほほ笑みではなく悪魔のほほ笑みシズに囁く。


「シズ、私は良いわよ?2人でリュースティアさんの妻になったって。貴族なんて正妻以外もいるのが普通だなのだし。それにリュースティアさんの身分についてはお父様が手をまわしていたはずよ。だから2人でリュースティアさんのお嫁さんになっちゃいましょうか!」


「ちょっ!!お姉ちゃん⁉そういうのじゃないから!」


顔を真っ赤にさせながら必死で否定するシズが微笑ましい。

でももう少し自分の気持ちに正直になった方がいいと思うわよ?


「ふふふ。そうね、今はそういう事にしておいてあげるわ。」


「お姉ちゃん、面白がってるでしょう? それよりも誕生日パーティってなにするのかしら。」


どうやらこのまま話していても姉を喜ばせるだけだと悟ったシズが諦めて別の話題をふる。

と言っても話題の内容はやはりリュースティア。


「さあ、でも楽しみね。そろそろ日も暮れるし帰りましょうか。」


「そうね。あいつが何するか知らないけどきっとすごい事するのよね。」


そろそろリュースティアに言われた時間だ。

これからなにが起きるのかは全くわからないがきっとやさしい気持ちになって笑顔になるんだろうな、そんなことを思った。

だってきっと誰よりも、彼自身がそうしたいと思っているはずだから。



「ただいまー。」

「ただいま戻りました。」


2人が屋敷に帰るとなぜか屋敷は真っ暗だった。

そして声をかけてみたが返事はない。

不思議に思いながらもみんなの共有スペース兼リビングになっている食堂への扉を開ける。

その瞬間、何かが爆発するような破裂音が二人を襲う。


『パンッ! パンッ!』


「な、何⁉もしかして敵⁉」


「狙撃⁉シズ、身を隠さないと!」


急に生じた破裂音に素早く戦闘態勢を取る2人。

さすが冒険者、でもそうじゃないんだよな。


「誕生日おめでとう!」

「おめでとうなの!」

「めでたいのじゃ。」

「・・・おめでとう?」


2人が敵を見つけよと暗闇に目を凝らすと三人の笑顔がローソクの明かりに照らされ暗闇に浮かびあがる。

ローソクがさささっているのはもちろん誕生日ケーキ。

誕生日ケーキは定番とも言える生クリームのデコレーションケーキ、しかも二段仕立てだ。

違う点と言えばイチゴではなくロンザの実を使っていることくらい。

普通にイチゴもどきを使ってもよかったのだがロンザの実は2人との思い出の果実でもあるのであえてこちらを選んだ。


「リュースティア、敵よ!今の破裂音聞いたでしょう?」


いや、だからシズ、そうじゃないんだって、、、、。

ふつう気づくだろ。

リズは音の原因が俺たちだって気づいてるぞ?


「今の音は俺たちだよ。クラッカーって言うんだ。冒険者が持ってた炸裂弾をスキルで改造したんだけど、こいつは誕生日パーティの定番なんだよ。」


「それはわかりましたけどいくら何でも暗闇でやる事ないと思います。私も敵かと思いました。」


リズが若干不貞腐れながらそんなことを言う。

2人にそう言われるとミスった感が出てくる。

だが、ミスなどでは断じてない!

だって誕生日パーティに暗闇&サプライズはマストだろ?


「誕生日パーティにはサプライズはマストだ!それに俺がいるのに俺の家で敵が何かできるわけないだろ?」


自信満々にそんな事を言うリュースティア。

彼がこの屋敷に何をしたかは聞かない方がよさそうだ。


「さぷらいず?ますと?」


2人にはサプライズもマストの意味が通じなかったみたいだ。

説明は、、、、、また今度!

だって早く火を消さないとケーキがローソクまみれになる。


「まあそれは後でってことでさ。誕生日にはケーキに年齢の分だけローソクを立てて、主役がその日を消すんだよ。願いを込めてな。こっちの人達にわかりやすく言うならまじないみたいなもんだな。どうする?一緒に消してもいいし別々でもいいけど。」


「一緒で良いです。それに私たちの願い事は同じですから。」


2人とも同じ?

健康第一とかかな?


「そっか。じゃあ早速。シルフ、ディーネ、スピネル、いいか?練習の成果を見せる時だぞ。」


「はいなの!」

「うむ、任せるのじゃ。」

「・・・ん。」


♪ハッピーバースデートゥユ―♪

♪ハッピーバースデートゥユ―♪

♪ハッピーバースデーディア リズ&シズ♪

♪ハッピーバースデートゥユ―♪


「おめでとう!さっ、願いを込めて火を消してくれ。」


四人の大合唱、リュースティア以外は覚えたてでお世辞にもうまいとは言えない。

だがそこに込められた気持ちだけで十分だ。


「リュースティアさんのお嫁さんになれますように。ふー。」


おい、リズ。

何を言っている?

百歩譲ってその願いは良いとして、声に出せとは誰も言ってない。


「ちょっと!お姉ちゃんどさくさに紛れてなに言ってるのよ!」


うん、普通そうなるよな。

だって2人の願いは同じとか言ってたもんな。


「いいじゃない別に。それよりリュースティアさん、次はなにするんですか?楽しいですね、誕生日パーティって!」


悪びれる様子のないリズ。

恐ろしや、、、、。


「そうだな、っていってもあとはごちそう食べてみんなで楽しく過ごすくらいだけどな。あっ、そうだ。これ2人に誕生日プレゼント。気に入るかわからないけど、その一応成人だし。き、気に入らなかったらえっと別の用意するから、、、。」


女性にプレゼント、しかもお菓子以外を渡すことなど初めての経験。

そのせいかなんでもないことのはずなのに恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

「リュースティアがプレゼントねぇ。ありがたくいただくわ。」


「シズったら素直じゃないんだから。リュースティアさん、ありがとうございます。中、見てもいいですか?」


リズがそんなことを聞いてくるが恥ずかしさのあまり2人を直視できない。

なるべく2人を見ないようにして頷き返す。

目の前でガサゴソと袋を開ける音が聞こえてくるがリュースティアは足元に視線を固定したままだ。

2人はリュースティアがそんな動作をするのが珍しいのか面白そうにそんな彼の様子を眺めていた。


「きれい、、、、。」


プレゼントを見たシズがそう言いながらプレゼントを手に取り眺める。

彼女の手に握られていたのは銀色のネックレス。

水の祠をイメージしてリュースティア自身が作ったものだ。

そしてリズのも色違いだがデザインは同じだ。


「リュースティアさん、ありがとうございます!すごく、すごくうれしいです。それにこんなにきれいな細工見たことありません。」


どうやらリズも喜んでくれたみたいだ。

よかった、リュースティアはほっと胸をなでおろす。


「喜んでくれてよかった。そのネックレスは俺が作ったやつなんだけど魔法付与してあって軽い回復魔法とか防御魔法がかかってるんだ。そんなに強力なものじゃないけどな。」


2人が喜んでくれて安心下リュースティアはプレゼントの説明をする。

簡単に言うとこのネックレスは魔道具アーティファクトだ。

しかもリュースティアは軽くと言ってるがその効果は絶大、下手をすれば国宝級レベル。

いつも通り、彼がそのことに気づくことはないのだが。


「うそ、それて魔道具アーティファクトってこと?」


「そんなの受け取れません!」


もちろんその価値に気づかないのはリュースティアだけ。

2人はネックレスの価値に気づき怖気ずく。


「回復効果のある魔石をつけてるみたいなもんだから気にすんなって。ほんとの大したことないし。それよりデザインすんのすげぇ苦労したんだからもらってよ。2人の為に作ったんだし。」


恥ずかしくてまともにプレゼントすら渡せないくせにこういう事ははっきり言うリュースティア。

まったく、よくわからない人物だ。


それでも渋る2人を何とか納得さえ、ネックレスを改めて渡す。

うん、やっぱり2人によく似合ってる。



「じゃあプレゼントも渡したし、みんなでごちそう食べよう!」


これからが誕生日パーティの本番だ。

やっぱりこういう特別な一日も大切だよね。



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