第49話 マカロン披露会
「若旦那様、来たわよー。今日は何を食べさせてくれるのかしら?」
「いらっしゃい!おう、期待しててくれ。もうすぐ始めるから。」
午前10時、【Pâtisserie-Aventure】の開店だ。
前々から告知していただけあって開店早々かなりの人が来てくれた。
知り合いも何人かいて声をかけてくれるが一人一人丁寧に返事をしている余裕はない。
「お待たせしました!これが今日発表の新作、マカロンだ。」
店にいる全員に聞こえるように声を張り上げてそう言うとあらかじめ用意してあったマカロンタワーにかぶせていたシートをはがす。
その全貌があらわになった瞬間歓声が上がる。
「うそ、すごい!」
「きれい!」
「なにかしらあれ。」
「あんな色見たことありませんわ。」
お菓子が女性に人気と言うのは異世界でも共通のようだ。
この場にいるのは婦人が多い。
お菓子がないくらいだ、カラフルな食べ物も少ないらしい。
思ってた以上に好反応だった。
「まあとにかく食べてくれよ!色によって味も違うんだ。何色がなんの味かは一覧にしてあるから好きなの食べてくれ。」
「あっ、これはオレンジです!」
「こっちはヒュームですかね?」
「えっとこれは何でしょう、食べたことない味です。」
「こっちは中に木の実が入ってます!」
うん、なかなか好評のようだ。
思考錯誤して作ったかいがあったってもんだな。
それにしても食べたことないってあの人なに食べてるんだ?
「リューちゃん、リューちゃん!これ何使ってるの?」
知り合いの女性に声をかけられる。
リュースティアのことをリューちゃんと呼ぶのはここら辺じゃ一人だけだ。
「ん?ミザも来てくれたんだ。いや、何使ってるって何食べたんだよ。全部食べてたらわかんないって。」
彼女はミザ、ラクス通りに面した宿屋の娘だ。
リュースティアの作るお菓子を気にいってくれて暇さえあれば話かけてくるようになった。
彼女は去年成人になったばかりなのでリュースティアの1個上、年齢も近いせいかすぐに打ち解けた。
「あはは、それもそっか。えっとねー緑色の奴!」
緑色?
ってことは抹茶かライムのどっちかだな。
抹茶ならこっちの世界でも飲んでいるだろうしってなるとライムか?
「多分ライムだな、それ。ライムってこっちにないのか?」
「ライムってたしか緑色した実だっけ?あれって食用だったんだ!今度見つけたら食べてみようかなー。」
なるほど、食用として認知されていなかったのか。
それじゃあ店で売ってないはずだわ。
でもこれで少しは食用として認知してもらえるかな?
「あー、やめた方がいいぞ。レモンとかと一緒でそのまま食べてもすっぱいだけだし。」
「ふーん、じゃあいいや。ならリューちゃんが作ったやつ食べた方がいいもんね。あっ、やばいそろそろ戻らないとお母さんに怒られちゃう!じゃあまたね。」
そんなことを言うと颯爽と店から出ていく。
相変わらず慌ただしいやつめ。
「リュースティアさん、もうマカロンの在庫が少ないんですけどどうしますか?」
慌ただしく出ていくミザの後姿を見送っているとリズに声をかけられた。
午前用に用意していた分がもうないのか?
予想よりもだいぶペースが速い。
うん、ありがたい。
「じゃあ前倒しで午後の分も出すか。なくなったら今日は店じまいだ。」
そう言ってこっそりストレージから午後の分を出す。
これだけ売れているんだ、予備分も全部出しちまうか。
それにしても小気味いいくらいに売れるな。
あんだけ苦労して地球でパティシエやってた時より全然儲かるわ、、、、。
*
「あー、づがれだー。もう披露会なんてやめてよね。」
そう言って机の上に突っ伏したのはシズだ。
今日の忙しさが相当堪えてるらしい。
「お疲れ、おかげでだいぶ盛況だったよ。」
「リュースティアさんこそお疲れ様でした。それにしてもこんなに早く完売するなんて思ってもなかったです。」
リズはまだ余力がありそうだ。
案外リズの方がタフなんだよなー。
でもリズの言う通りこんなに早く売り切れるなんて思ってなかった。
「だな。さすがに2時にお店閉めることになるとは思わなかったな。次のイベントはなにがいいかな。」
「ちょっと、こんだけ忙しかったんだからしばらくはゆっくりさせなさいよ。」
次のことを話しただけなのにシズにすごい反対された。
そんなに大変だったのか?
「わかった、わかった。しばらくは何もしないって。あっ、そう言えばさ、二人って誕生日いつなんだ?」
誕生日が近いようなら誕生日ケーキでも作って労おう。
ケーキがないくらいなんだから誕生日ケーキ作ってあげたら絶対喜ぶよな。
「誕生日?誕生日って何?」
うそ、その答えは予想してなかったわ。
えっと、もしかして誕生日ってないの?
「成人になる年に成人の義は受けますが生まれた日を特別に祝うと言う習慣はないですね。リュースティアさんの故郷にはそういう習慣があるんですか?」
習慣っていうか万国共通だと思ってたよ。
むしろその習慣がない方が驚きだ。
「ああ、毎年生まれた日に一年間無事に過ごせたことをみんなで祝うんだよ。そんでこれから一年幸せになれるように、ってな。」
「なるほでねー、平和なとこって思ってたけどあんたの故郷ってあんがい危険なところなのね。」
ん?
何でそうなる?
あっ、無事に一年過ごした事を祝うとか言っちゃったからか。
んー、そういうことじゃないんだよな。
「危険とか安全とかじゃなくて無事に歳を重ねられるってことはそれだけで奇跡だろ?だから祝うんだよ。」
「なんだか素敵ですね!リュースティアさんの故郷にはそんな習慣があるなんていつか行ってみたいですね。」
ごめん、それは無理だわ。
だって俺でももう帰れないもん。
「機会があればな。それよりいつなんだ?」
「知らないわよ。」
「ええ、覚えてはいないですね。」
はい?
覚えてないとかそんな事あんの?
いや、でも誕生日って概念すらなかったらそもそも覚えたりしないか。
「じゃあ今日だ!2人の誕生日は今日にして、これからは毎年みんなで祝おうぜ。」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
誕生日は生まれた日じゃなくてもいいはずだ。
一年は同じにすぎるんだしみんなで祝えばそれだけで特別な日だもんね。
「いいんですか⁉うれしいです!」
「それは良いけど誕生日って何するのよ?」
みんな乗り気で何よりだ。
でもなにするって言われてもなー。
誕生日パーティしてプレゼントもらうくらいだよな?
「よし、じゃあ準備すっか。二人はしばらく外に出ててくれな。数時間もあれば準備できるから日が沈んだくらいに戻ってきてくれ。」
そう言って2人を無理やり屋敷の外に出す。
誕生日パーティーなんだから料理も作らないとだし、急がないとね。
それにプレゼントも買わないと。
いや、時間もないし作るか。
今ならいい作品作れる気がするし。
うん。
そうと決まれば早速取り掛かろう。
あと数時間、こなすノルマはそれなりに。
さあ、久々に時間に追われる仕事をしよう!
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