第48話 帰宅と前日準備

「ただいまー。」


「おかえり、ってなんでそんな普通なのよ!少しくらいくたびれてきなさいよ。」


「おかえりなさい。けがはなさそうですね。問題なく水の祠を取り戻せたようですし、無事一件落着したようでよかったです。」


水の祠での面倒事を処理し終わったので帰宅したのだがシズの言い方は少しひどいと思う。

まあでも普通なら数千匹の魔物を相手にして平然と帰ってくる方がおかしいのか。


「そうだな。魔族が暗躍してたくらいで特に問題なかったよ。」


「「ま、魔族⁉」」


リズとシズがすごい形相で驚いている。

何回か見たことのある表情だ。

だからさ、自重しよって言わなかったか?


でもそうか、確か魔族はあんまり表に出てこないんだっけか?

しかも個々のレベルも相当高いっ言ってたな。

魔族ってだけでこの反応なら九鬼門とか上級魔族とか言わない方がよさそうだ。


「ああ、でもそんなに強い奴じゃなかったし普通に倒してきたから問題ねえよ。」


嘘は言ってない。

確かに九鬼門とかなんとかってやつだったけどそんなに強くなかったしね。


「ま、魔族を倒した、、、?もうほんとに何なのよ、あんた。」


「リュースティアさん、それはもう偉業ですよ?単独で魔族を撃退するなんて勇者でもできるかわからないことです。」


むむ?

そんなにか?

それにしても勇者でもできないかもってさすがにカスくないか?

それでよく魔王倒せたな。


「いや、強い奴じゃなかったからそんなすごい事じゃないって。」


「あんたねー、いくら弱い下級魔族って言ったってそれでも都市を上げて討伐隊を編成するのよ?単独でなんて自殺行為もいいとこだわ。」


「そうですよ。それだけすごい事なんです!だからリュースティアさん、そろそろ自覚してください。リュースティアさんは強いんです。レベルや冒険者の歴なんて関係ありません。ちゃんと自覚してください。」


うわ、これはリズのマジモードだ。

素直に聞いておこう。

それにしてもうすうす勘づいていたがやっぱり俺、異常なのか?

自覚、よりは自重しよう。


「肝に銘じておく。それよりさ、行く前に頼んでおいた事は大丈夫か?」


「それよりって、、もういいわ。せいぜい変なのに目つけられないようにすることね。ちなみに頼まれていたことなら問題ないわよ。」


いや、だって魔族なんかよりお菓子の方が大事だろ?

魔族さえいなきゃもっと早く帰ってこれたのにさ。


「リュースティアさんの指示通り買ったものはすべてお店の厨房に運んでおきました。一応お店の方も配置とかは変えておいたのであとで確認してくださいね。」


「サンキュ。じゃあ俺は厨房に篭るから二人はもう休んでていいぞ。」


リュースティアが二人に頼んでいたこととはマカロンを作るための材料の調達と、披露会の会場作りの二つだ。

リュースティアが自分でやってもよかったのだがさすがに何時に帰れるかわからなかったし2人が何かしたそうな感じだったのでお願いした。


「私も何か手伝います!」


「だ、大丈夫だから休んでてくれ。2人には明日その分働いてもらうから。あっ、そうだ。寝るならこいつらも連れてってくれ。疲れてるだろうからな。」


2人に手伝ってもらうとか確実に失敗コースだ。

時間もないし全力で遠慮させていただきたい。

午前中の悪夢がよみがえる、、、。


「あれ、ウンディーネちゃんも着いてきちゃったんですか?」


そう、リズの言う通りウンディーネもいる。

シルフと2人で転移したハズなのにメーゾル領に戻ったあたりでウンディーネに追いつかれた。

契約した者の存在を感じ取ってついてきたらしい。

もうそこまでいったらストーカーだよ、、、、。。



「ほ、ほんとに大丈夫だから!お、おやすみー!」


なおも手伝いたい雰囲気を出してきたので足早に厨房へと逃げる。

後ろからは不満の声が聞こえてきたが文句を言うのであればもう少しまともに調理ができるようになってからにしてほしい。

それになぜ午前中にあんな悲惨な現場を見せつけておいて力になれるなどと思ったのか問い詰めたいレベルだ。



「うし、じゃあ時間もないしさっさと作っちまうか。」


厨房に入って材料を確認した後、早速マカロン作りに取りかかる。

マカロンなので普通のオーブンではなくコンベクションオーブンに魔力を流し起動させる。

魔法のおかげなのか元の世界の物よりも温度が上がるのが早い。


「確か1回で140個くらい取れたよな。味のバリエーションもほしいし10回分くらいはやっとくか。」


10回戦か、、、、。

忘れてたじぶんが悪いんだけどさ、きついわー。



「お、終わった――。」


夜中の12時を少し過ぎたころリュースティアのマカロン作りはようやく終わりを迎えた。

普通ならもっと時間がかかるのだがそこはファンタジー能力で何とかなった。

時間経過のないストレージに出来上がった生地を入れておけばオーブンが開き次第すぐに次が焼ける。

このことに気づいてからは効率的に製造できるようになった。

故にこの時間で仕事を終えることができたのだ。

徹夜も覚悟していただけにありがたい誤算だった。


「ふぁーあ。ねっむ。さすがにアレだけ戦闘してからのお菓子作りは疲れるな。早く寝よう、、、。」


サンドまでしたマカロンを種類別にストレージにしまって寝室に引き上げる。

もちろん厨房の清掃は完璧だ。

やりっぱなしで帰ろうものなら大変なことになるからな。

これだけはきちんとやっておかないと。


「いや、なんでやねん。」


リュースティアが寝室に入るとそこにはベットで気持ちよさそうに眠る3人と2人の姿があった。



「おはよーってなに怒ってるのよ?」


気持ちよさそうに起きてきたシズにジト目を向ける。


「別に怒ってねーよ。朝食はテーブルにあるから俺はもう店に行ってるぞ。」


怒ってはいない、いないけど腑に落ちない。

だって、俺頑張ったよね?

魔物退治してマカロンまで作ったし。

それなのにベットは占領され、リビングのソファーで寝る羽目になるなんてやっぱり腑に落ちない。


「一緒に寝てくれてもよかったんですよ?」


シズの後ろから部屋に入ってきたリズが平然とそんなことを言ってくる。

最近思うんだがリズがどんどん方向性を間違えていってる気がする。

なぜあの状況で一緒に寝ると言う選択肢が出てくると思ってる?

いくら何でもあの状況で一緒に寝れるわけない。


リズから向けられている好意にはいくら鈍感なリュースティアといえ、気づいてはいる。

が、だからと言ってそれを受け入れるのかっていうと別の問題だ。

リズの事は好きだがそれが異性としての好意かと聞かれると困る。

なので自分自身の気持ちがはっきりするまではリズの想いに答えるわけにはいかない。

ヘタレと言われようが実際ヘタレなんだからそこはしょうがない。


「はいはい、二人ともさっさと降りて来いよ?今日は忙しくなるからちゃんと飯は食べて来ること。ってスピネルとバカ精霊たちはどうした?」


リュースティアは同じ部屋で寝ていたはずの幼女組みが見えない事に気づいた。

精霊たちはどうでもいいがスピネルの姿がない事は気になる。


「スピネルちゃんはさっきシルフちゃんたちに連れられて裏口からどこかに行きましたよ?」


うん?

遊びにでも行ったのか?

心配だがスピネルはしっかりしてるし、何かあればシルフかウンディーネが念話してくるだろ。

ホントはスピネルにも手伝ってもらいたかったが子供を無理やり働かせるつもりはない。

子供らしく無邪気に楽しんでくれればいいと思う。



「そっか。まあいいや。じゃあマカロンの披露会、気合入れてやるか。」


リュースティアは朝食を食べている2人に向かってそうい言うと一階へ向かう。

マカロンの状態をチェックして、試食用と販売用に分けて、あとはプレゼント用があれば十分だろう。

あとは通常の商品も用意して、っと。

時間、足りるかな?


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