第47話 リュースティアの正義
「なんの、これしき!ぐはっ、まだ、うぐっ。 うぎゃーーーーー!」
うん、頑張ってるみたいだけどカイザの悲鳴は少しうるさい。
長引くのもめんどくさいしそろそろいいかな?
充分データもとれたし。
「【
リュースティアは行使していた魔法を解除し、風神に魔力のみを流す。
今回は魔法も風も纏わない。
これなら魔法無力化のスキルがあっても関係ない、完全な物理攻撃だもんね。
「ふ、ははは!ついに魔力切れか?お主の決死の魔法にも耐えきって見せた!私の勝ちだ。」
全身ぼろぼろで満身創痍になりながらも魔法をやめたリュースティアを見て変な勘違いをしたらしい。
これだけの魔法を行使するものがまさか剣技まで極めているとは誰も思わないだろう。
だからカイザが死亡フラグ的な言葉を口にしたのも仕方がない。
そう、仕方がないのだ、、、、。
「ん?別に魔力切れたわけじゃなくて明日の披露会の準備があるしからそろそろ帰ろうと思ってさ。いつまでも油売ってると怒られそうだし。」
変に勘違いしているところ申し訳ないがそろそろ終わらせてもらおう。
明日の披露会の事すっかり忘れてたからまだマカロン焼いてないんだよ。
こっちの世界でも厨房に泊まり込みなんてしたくない。
「つ、強がりもたいがいにしておけ。後悔するぞ。私の力の前に消え去るがいい!」
「あっそ、じゃあもういい?」
リュースティアの言葉を無視し、ここが好機とばかりに攻撃をしてくるカイザ。
さっきの魔法戦で消耗しているのか最初の攻撃よりも数段遅い。
これこれなら風神を解放する必要なかったかな?
リュースティアは繰り出された攻撃をかわすことなくその身で受ける。
自らの爪に手ごたえを感じたのか口元に笑みを浮かべるカイザ。
しかし次の瞬間何かがおかしい事に気づく。
本来ならその体を真っ二つにするはずの己の爪がリュースティアの体を貫けていない。
それどころかかすり傷一つつけられていないようだ。
体に食い込んでいるわけでもない、それなのに爪が動かないのだ。
「じゃ、そういうことで。」
状況を全く理解できていないカイザに向かって無慈悲にも黒い刃が振り下ろされる。
そしてその刃は止まることなくそのままカイザの体を切り裂いた。
「悪いな、殺意を向けられた相手を生かしておけるほど余裕ないんだ。」
珍しい。
あのリュースティアがなんのためらいもなく人を殺した。
魔族を人と定義するのかは微妙なところだが命を奪ったことに間違いはないだろう。
リュースティアは言葉通りまだこの世界で大切なものを完全に守れるほど余裕がない。
故にこれから先、少しでも大切を脅かす可能性があるならば心を鬼にしてでも殺るしかない。
それが今のリュースティアにとって大切を守る最善なのだ。
命を奪う相手には申し訳ないが。
「助けてはやれないけど、安らかに眠ってくれ。」
最初に唱えた南無阿弥陀仏とは違ってきちんと祈りの言葉を唱える。
魔族だろうと命を奪う限りはきちんとその死に向き合うべきだと言うのがリュースティアの考えだ。
命を奪う行為に正義も悪も関係ない。
騎士に冒険者、勇者もそうだけど他人を殺す、そこに正義を見た時点で人として間違ってると思う。
だからこそリュースティアは相手が悪だろうと殺したからには十字架を背負う覚悟だ。
キレイごとかもしれないけどリュースティアはそうしたい。
正義とか悪なんて所詮、主観が生んだモノでしかないしね。
命は大切にいこう。
*
「よし。シルフ、こっちは終わった。」
カイザの気配が完全に消えた事を確認してシルフに戦闘終了の念話を入れる。
これであとは主の間にある
「リュー!お疲れなの!」
声がした方を振り向くとシルフとウンディーネがいた。
いつも通り元気いっぱいのシルフと現状を信じられない様子のウンディーネがひどく対照的だった。
「おう。ウンディーネ、約束通りこの場所取り戻したぞ?これで安心して暮らせるな。」
魔族の気配が完全に消えているにも関わらずいまだその魔族におびえているウンディーネにやさしく言葉をかける。
魔族が絡んでいると聞いてから不安でいっぱいだったのだろう。
リュースティアがやさしくその頭をなでてやると子供のように泣き出した。
「う、うぐ、うわーん。か、かんしゃするの、のじゃーーー。」
「もう心配すんな。これからどうなるかわかんないけどウンディーネの事もシルフと同じように守るから。」
場は温かい空気に包まれる。
約一名ほっぺたを膨らませ、口を尖らせている者もいるが、、、。
「もういいの!離れるの!」
ウンディーネにやさしくするリュースティアを見てやきもちを妬いたのかシルフがそんな事を言いながら2人の間に頭を入れてくる。
シルフのサイズだといてもいなくてもあまり関係ないのは言わない方がいいだろう。
「す、すまぬ!醜態を晒してしもうた。」
冷静さを取り戻したウンディーネが慌てて離れる。
その姿は普通に可愛かった。
もちろん変態マゾ性癖があることは忘れてはいけない。
「気にすんな。精霊とは言え女の子なんだから無理に強がる必要なんてないだろ。」
「ダメなの!リューはいつもそうなの!」
ただ慰めただけなのにシルフに怒られた。
なぜシルフが怒っているのか見当もつかないリュースティアは黙るしかない。
もちろんリュースティアの言動が新たなフラグを建設しているなどと、ウンディーネのリュースティアを見る目が変わったなどと気づくことはない。
鈍感主人公を地でいくリュースティア、恐ろしい。
*
「ここじゃ。ここが主の間。そして神代に作られた
主の間は6帖くらいの小さい部屋だった。
そしてその部屋の中心には水盆のようなものがあり、それが
「意外と狭いんだな。それよりも神代って?」
殺風景な部屋を見渡しながらそんなことを聞く。
前に聞いたような気もするがあんまり覚えていない。
「神々が居った時代の事じゃ。居ったと言っても今よりも神々と距離が近くその恩恵に与っていたにすぎんがの。」
ウンディーネの話を聞く限り神々がこの地にたびたび降りてきてその都度、魔法や
その頻度が今よりも短く、たくさんの恩恵に与った時代のことを神代というらしい。
そしてこの前の”始まりの魔法”もそのうちの一つ。
今から何千年も前の話らしいので使える人がいなくても無理はない。
「なるほどねー。仕事してたんだ、あの爺さん。」
「爺さん?」
「いや、なんでもない。それよりどうしたらこの
リュースティアの発言を耳ざとく聞いていたウンディーネ。
ここで神様にあったことがあるとか言ったら頭のおかしい奴と思われそうなので適当に受け流す。
それよりもあの神様、この世界の人からは信仰されてんだな。
ただのくそじじいじゃなかったんだ。
「魔族からの干渉がなければ簡単じゃ。この
めちゃ簡単じゃんそれ。
でもそうか、だからカイザは主として登録できていなかったのか。
ここにウンディーネがいなかったから。
だが、カイザなら様々な手を使ってこの水幻鏡を壊すなりして源泉を乗っ取ろうとしたはずだ。
それでもできなかったという事は何か特別な仕掛けがあるのかもしれない。
「なんじゃ不思議そうな顔をして?」
「いや、なんであの魔族はこれを壊せなかったのかなって思ってさ。」
リュースティアが不思議そうな表情を浮かべていたのに気づいたウンディーネがきいてきたので疑問に思っていたことを聞いてみる。
「この
はい?
えっ、だから?
「簡単な事じゃよ。誰も神は越えられぬ。故に神が作ったものを魔族などがどうこうできるわけがないのじゃ。」
何となく納得できない。
確かに神様はすごいんだろうけどさ、馬鹿にされてるみたいでいい気がしない。
その腹いせという訳ではないがダメ元で
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
>
>
・源泉の主を指名
・源泉を荒らすモノへの排除機能
・水の加護
>製作者:創造神
>等級:???
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
できちゃったよ、、、、。
神様の防御力弱すぎんだろ。
それにしても創造神か。
これを作ったのが創造神って神様の力なら俺の創造のスキルでも同じものが作れるんじゃ?
うん、やめよう。
だがそれをすると神の反感を買うか仲間入りコースになりそうなのでここで得た情報は死蔵しようと思う。
まあ死蔵するのは神代レベルの
「・・・・・・・・・・・・。水の祠を神より与る四大精霊が一人、水の精霊ウンディーネが命ずる。この源泉の主を妾が認めし人族の青年、リュースティアに制定する。」
考え事をしていた間にウンディーネは長い詠唱を終え、リュースティアをこの源泉の主にしてしまっていた。
おい!
まだなるなんて一言も言ってないぞ?
「これで正式にお主は水の祠の主じゃ。この源泉もここに住まう者達も好きに使うがよい。」
「まあ、しょうがないか。とりあえずここの管理は今まで通りウンディーネに任せる。別にここの源泉の力とか必要ないし。」
シルフと契約したときにすでに源泉の主になっているので今更一つも二つも変わらない。
そう思いなおしたリュースティアは源泉の主になる事を承諾し、管理を任せる。
「ならばここの管理はオート管理にしてもよいかの?妾もお主と共にありたいのじゃ。」
照れながらもじもじする姿に生理的嫌悪感が沸く。
「えーっと、ごめんなさい!」
速攻で断るリュースティア。
無理もない、と思う。
「な、なぜじゃ!一緒に死線を潜り抜けた仲ではないか!妾もそばに置いてはくれぬか?」
いや、だって変態でしょ?
それはいらんわ。
スピネルの教育に悪そうだし、何よりめんどくさい。
「じゃ、シルフ帰ろう。」
転移魔法でリュースティア達が去ったあとには歓喜とも絶望ともいえる泣き声が響いていた。
歓喜ではないことを願おう、、、。
放置プレイーーーーーー。
とか聞こえたのはきっと空耳なはずだ。
聞き耳スキルを極めた俺だって聞き間違いくらいするはずだ。
うん、きっとそうだ、そうだと言ったらそうなんだ。
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