第37話 付与魔法


屋敷の掃除を初めて一週間。

ぼろ屋敷は前とは見違えるほどにきれいになった。

この屋敷を見て前のぼろ屋敷を連想できる人はいないはずだ。

実際に屋敷のbefore、afterを見ているリュースティア達ですら信じられない気持ちの方が強い。


「いやー、何とかなるもんだな。」


屋敷の中を一通り見終わったリュースティアがそんなことを言う。

今ここにいるのはシズとギルド職員のラニアさんの二人だ。

リズとスピネルは買い物に行ってもらっている。

スピネルは相変わらず口数が少ないがたまに甘えてくるくらいにいは距離が縮まった。

この調子でいつか本当の親子みたいになれたらいいなとか思っていたりする。


ここにラニアさんを呼んだ理由はお店の営業についての話を聞くためだ。

あとは後々の事を考えて視察と言う意味合いも兼ねている。


「でもすごいですねー。あのぼろ屋敷をたった一週間でここまでにするなんて、、。」


「ほんっと、ありえないわよねー。このバカを常識を当てはめようなんて考えるだけ無駄ですよ。」


相変わらずシズは褒めてるのかけなしてるのかわかりずらい。

けど今回はけなしているというよりは呆れている感じだ。


「たまたま俺のスキルが改装に向いていただけですよ。それよりラニアさん、どうです?店を始めるのに何か不都合な点とかありますか?」


「そうですね。特に不都合はないと思います。ですが立地的に貴族の方々と平民の方、どちらに向けて商売をするのですか?」


ん?

お客さんを選ぶつもりなんて全くなかったんだが何か問題があるのか?


「お客さんの区別をしないとなると貴族の方は面白くないでしょうね。貴族の方々はプライドが高いですから平民と同じ店を利用しようとは思わないでしょうし。冒険者であるリュースティアさんが開くお店を利用しようと考える貴族の方は多くはないと思います。それに値段設定もそうですがどちらにも受け入れてもらうには少し難しいかもしれません。」


身分の差か。

前の世界ではあまり馴染みがない言葉すぎて全く考えていなかった。

貴族に向けて値段設定を高くしたら儲けは出るだろうけどみんなにケーキを食べてもらいたいという俺の希望に沿わない。

それにぽっと出の俺が作ったものを受け入れてもらえるかは微妙なところだろう。

それは貴族だけじゃなく平民たちにも言えそうだ。


「難しい話だなー。ケーキを食べればわかってくれると思うけど変に圧力かけられるのもめんどくさいしな。いっその事店を分けるか?」


「あんたねー。店を分けるとか簡単に言ってんじゃないわよ。家が一軒しかないのにどうやって分けるっていうのかしら?」


うっ、なんかシズが冷たい。

そんなに俺の発言が気にくわなかったのかな?


「いや、店の入り口を分けて貴族向けに高級志向のスペースと安価の平民スペースをつくればいんじゃないか?それなら大した手間じゃないだろ。あくまで最初の内だけだけど。」


「なるほど、それならいいかもしれませんね。ですが貴族の方々の考え方は我々には計りしれません。なにかトラブルにならないとも限りませんので十分に気を付けてください。その他には特に問題はないようですのでこちらが許可証になります。5年おきの更新となりますのでお忘れにならないように。全部で金貨一枚になります。」


ラニアさんに許可証の代金を払いラニアさんを見送る。

これからもう一軒視察に行くらしい。

ラニアさんって働き者だな。

まっ、見習う気はないけどねー。



「ただいま戻りました。」

「・・・・ただいま。」


ラニアさんが出ていってからすぐにリズとスピネルが帰ってきた。

思っていたよりも帰ってくる時間が遅かったのはどこかで買い食いでもしてきたのだろう。

そこら辺をとやかく言うつもりはないしスピネルに色々と教えてくれているなら何も文句はない。

あの後にわかったことなのだがスピネルは口数が少ないので分かりづらいがこの世界の同年代の子と比べても発育が遅いらしく色々と知らない事が多かった。



「おかえり。外は楽しかったか?」


そう言って2人から荷物を受け取りスピネルの頭を撫でてやる。

最初は触れられそうになるたびにビクッとしていたが今では嬉しそうに頭を預けてくれている。


「・・・・うん。きらきらいっぱい。」


「そっか、じゃあまた今度どっか連れて行ってやるよ。俺はこれから2人が買ってきてくれたやつで作るものがあるからスピネルは遊んでていいぞ。」


「・・・・約束。」


そう言ってスピネルが小指を差し出してきた。

ん?

指切りをしろってことかな?

こっちにも指切りの習慣はあるんだな。

そんなことを思いながらスピネルと指切りをする。


指切りをした後もスピネルはリュースティアのそばを離れることなく一緒に屋敷の中に入る。

無言なのでわかりにくいが手伝ってくれるつもりらしい。



「で、手伝うって言ったのはいいけど何するつもり?」


リズとシズも暇だったらしく一緒に地下の工房までついてきた。

2人も手伝う気満々らしい。


「ケーキを作るための機械を創造しようと思ってさ。できれば魔力との調和が高いミスリルとかオリハルコンなんて言うやつを使いたかったんだけどさすがに手に入らなかったんだよね。」


だから代わりにこれを使おうと思う。

そう言ってリュースティアが取り出したのは巨大な魔鋼の塊だった。


「いやいや、魔鋼も普通に手に入らないからね⁉これでガラクタをつくるなんて正気じゃないわよ。」


シズ、少し落ち着けって。

情緒不安がすぎないか?


「鉱石に魔法を付与するならミスリルか魔鋼がいいってエルがこれを譲ってくれたんだよ。」


「リュースティアさん、付与魔法が使えるんですか⁉風魔法をすべて習得しただけじゃなく付与魔法まで!あとは?あとはどんな系統の魔法が使えるんですか⁉」


うん?

今度はリズか?

君たち情緒不安すぎるって。


「エルとの修行の合間にシルフと練習したんだよ。な、シルフ?」


「はいなの!リューはもう誰にも負けない魔法使いなの!」

「・・・・妖精?・・・・かわいい。」


シルフが勢いよく返事をしてそんなシルフを見たスピネルが首をかしげている。

うん、可愛い。


「違うの!精霊なの!」

「・・・・・ごめん。」


「わかればいいの!スピネルはシルの子分になるの!」

「・・・・・うん。お姉ちゃん?」


「そうなの!シルはお姉ちゃんなの!」

「うん。」


仲良くなってくれたようでよかったよ。

スピネルにも年齢の近い友達がいたらいいと思ってたからちょうどいい。

年齢的にはシルフのほうが断然上だけど精神年齢的にはあまり変わらないだろう。

それにしてもシルフ、絶対に変な事教えるよ?


「よし、じゃあ早速やるか。まずは魔鋼でそれぞれの形を作る。」


「この形はなんですか?何をするものなのか全くわかりません。」


リュースティアが次々に魔鋼で創り出していく物を物珍し気に眺めているリズがそんなことを聞いてきた。

とりあえず予定の物は全て造り終えていたのでリズたちにそれぞれを説明する。

ここまでで五分もかかっていない。

スキルの練度が上がったからか今では大して苦労することもなく創造できる。

しかも練度が上がる過程で派生スキル【想像補助】や【知識補助】を習得したのでリュースティアが知識として持っていないものでもある程度の品質までなら作れるようになった。


「これは冷蔵庫っていって食材を冷やす機械。それでこっちは冷凍庫で食材を凍らせたまま保存する機械だな。これは生地を焼くやつ、こっちのはそれの応用版で風を使って焼くんだよ。あとはミキサーくらいか?これは手を使わなくても生地を泡立てたりしてくれる。まあ他にもいろいろあるけどそれは後々説明してくよ。」


「たくさんあるのねー。どう使うかまったくわからないけど。それにしてもこういう物の知識は一体どこからくるのかしら?他の事に関しては全くの無知のくせしてね。」


「あーこれは俺の出身地に伝わる知識みたいなもんだ。気にすんな。」


危ない危ない。

変に疑われたらこの先やりにくくなりそうだし世界は広いってことで納得してもらおう。


「ささ、リュースティアさん!次は付与魔法ですよね?早くやりましょう!」


「そうだな。って言っても俺はまだ風魔法しか使えないから付与するのも全部風魔法になるぞ?」


そんなに魔法を見たいのか。

リズが魔法のこととなると見境がなくなるということは知っていたが、付与魔法はそんなに珍しいものでもないだろう?


「えっ、そうなんですか?でもさっきの機械は冷やしたり凍らせたり火を入れたりするものだったと思いますが。風だけでどうするんですか?」


「冷やすのも熱をつけるのも風魔法の応用でできるぞ?冷やすなら風の温度を極限まで下げる。熱をつけるのはその逆だな。けどそれだけだと風が強くて食材が乾燥しちゃう。だから冷風を作りつつその風を極限まで圧縮して風をなくすんだよ。で、その圧縮によって生まれた力を別の機関で使う。そうすれば無駄なく魔力を使えるだろ?」


この理論はリュースティア自身で編み出したものだ。

職業こそパティシエだったがこれでも元理系だ。

それなりの理論の構築くらいできる。

けどファンタジー世界なら理論とか関係なしに魔法でなんとでもなりそうなんだけどなー。


「よくわかんないけどこれってすごいの?」


「すごいなんてものじゃない。まずそんな理論聞いたことありませんし。というよりそこまで風魔法を使いこなせる人なんて聞いたことありません。ふつうは冷風や熱風を使える程度です。」


前から思っていたけどこっちの世界の人って全体的にレベル低くないか?

エルやギルドマスターは別格としてもそれ以外のレベルが軒並み一桁ってさすがに低すぎると思う。


「火とか水魔法が使えればもっと楽なんだけどな。風魔法で応用できるにしてもこれだと動かすのに大量の魔力が必要になるから多分俺以外だと動かせないんだよ。」


「なるほどねー。よくわかんないけどあんたが異常ってことだけはわかったわ。」


「風魔法でここまでの事ができるのに他の魔法を望むなんてリュースティアさんは欲張りです。」



はいはい。

みんなの前以外では自重しますよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る