第36話 掃除とクレープ
「ちょっと当初の予定は狂ったけど早速この家の掃除でもするか。」
魔王の娘を養子にしたりと色々あったが気を取り直して本来の目的に戻ることにしたリュースティア達。
スピネルはまだ本調子ではなさそうなので先ほどの部屋で休んでもらっている。
部屋を出ていくときにリズの服を掴んだまま放そうとしなかったので大変だったのだがちゃんと戻ってくるという事を辛抱強く言い聞かせてようやく納得してくれた。
よっぽど一人になるのが嫌だったらしい。
うん、すぐに掃除なんて終わらせよう。
*
「さてと、どこからやろうか?」
「ほんとよねー、ここまでぼろいとどこかあ手を付けていいかさっぱりだわ。」
いつの間にか布で口元を覆って準備万端のシズが横からそんなことを言ってくる。
散々文句言ってた割にはやる気満々じゃん、君。
「とりあえず屋敷の補強からするか?いつ倒壊してもおかしくないようなぼろさだもんな。」
そう言ってリュースティアはストレージから木材を取り出し床に積み上げる。
木材以外にも鉄やレンガ、粘土など家の建築に使いそうなものを積み上げていく。
こうなることを予想して一番広い1階のホールを選んだのだがそれでも部屋いっぱいに資材が積み上げられている。
「まさか、リュースティアさん?」
リズがリュースティアのやろうとしていることを察したらしくまさか、というような表情を向けてくる。
そんなリズに微笑み魔力を流す。
リュースティアの足元から広がった青い魔力は円を描く用に広がっていく。
そして青い光が部屋を満たし、屋敷全体まで広がる。
「【
そしてリュースティアのその一言と共に青い光はさらに強い輝きをを放つとはじけて消えた。
光が収まるとホールにはわずかな資材が残っているだけだった。
もっともホールは前のぼろいホールなどでなく新築のようになっていたが。
ただし内装はぼろいままでほこりやごみも溜まったままだ。
どうやら本当に骨組みだけを修復したらしい。
おかげでひどくアンバランスになっている。
「あれ、もう少し余ると思ったのに。そう考えるとやっぱりこの家でかいな。」
そんなことを言いながら残った資材をストレージにしまっていくリュースティア。
たった今とんでもないことをやったなどという自覚はないらしい。
「もうあんたが何をしても驚かないわ、、。」
「ん?どうかしたか?これで倒壊したりすることはないだろうし掃除から始めるか。今ある家具とかは後で足りなそうな材料と掛け合わせて修理するから置いといてくれな。」
シズがなぜ呆れているのかわからないがこれで安心して掃除にはいれる。
やっぱりこのスキルは便利だ。
家まで作れるとは。
けど、家を作ったって言うよりは家に新しい材料を足しただけなんだよな。
これも創造特権の派生スキルだったりすんのかな?
そんなことを考えながら掃除をする。
リュースティアが担当しているのはパティスリーの要とでも言うべき心臓部、キッチンである。
「よし、広さは少し狭いけどここの壁をぶち抜けば十分だろう。それにしても冷蔵、冷凍設備に急冷、窯、コンベクションオーブン、乾燥機、ほしいものはいっぱいあるんだよなー。」
キッチンの配置を考えながら掃除をしていくリュースティア。
掃除と言ってもごみはストレージに収納し、ほこりなどの小さなごみは風魔法で吹き飛ばしているだけだ。
魔法があるだけでこんなに掃除が楽だとは、、、。
ファンタジー様、さすがです!
一通りのごみやほこりを取ったあと床に水を流し、何年もしまい込んでいたような匂いは風魔法を使って換気をする。
もっとも床が木なのでカビが生えたり腐らないように汚れを一通りきれいにしたらすぐに魔法でかわかす。
これは風魔法の応用で霧を作るときの水分を床の木から集めたものだ。
それだけだと木の水分を吸収しきれなかったので【
魔法を応用し、任意の場所から元となる水分を吸収することもそうだが、2つの魔法を平然と同時行使するなどふつうじゃない。
仮にこの場に魔法使いがいたら卒倒していただろう。
どうやらリュースティアはエルランドとの修行で剣技だけでなく魔法のレベルも上がったみたいだ。
すでに下級冒険者の域などとうに超えているだろう。
それに本人が気づいているかは別として、、、。
「ねーリュースティア、すこし休憩しない?」
一時間くらい掃除をしているとシズがそんなことを言いながらキッチンまで降りてきた。
さすがに少し疲れたし今日1日で終わらせる気もない。
休憩をはさみながらのんびりやるとしよう。
それにそろそろスピネルの様子も気になる。
「そうだな。なんか軽くつまめるもんでも作ってくから2人は先にスピネルの様子を見ててくれ。」
シズにそんなことを言いながら早速きれいにしたガス台に向かう。
今のところできるのは火を使った調理くらいだ。
時間的にもお昼とおやつの間くらいだしクレープでも作るか。
もちろんデザートと食事用、両方用意するつもりだ。
リュースティアはいつでも調理ができるようにとある程度の材料をストレージに保管してある。
ストレージで色々試してわかったのだがここに物を入れておくと時間経過による変質がないらしい。
生ものを入れても腐らないし、温かいものの保温もばっちりだ。
ストレージから慣れた手つきで卵に砂糖、小麦粉、牛乳を取り出す。
もちろんミルシェもだ。
道具は持ち合わせがなかったのでストレージから資材のあまりを取り出し即席の
クレープは自分で好きなものを入れて巻いてもらおうと思い生地を焼くだけにする。
中に入れるのは定番の生クリームにカスタードクリーム。
そして各種フルーツにナッツ類だ。
あとは食事用に燻製肉や葉野菜などを別のお皿に盛りつける。
ソースとして用意したのはデミグラスとマヨもどき、そしてコチュジャンもどきだ。
デザート用にもはちみつやフルーツソースなどを用意しておいた。
すべてリュースティアが試作として作ったもので今まではストレージに入れて保存してあった。
なので同じ家に暮らすリズやシズでも食べたことのないものが多いはずだ。
きっとこれならスピネルも喜んでくれるはず。
そんなことを考え、ウキウキしながらみんなが待つ部屋に向かう。
「おっそーい!もうお腹ぺっこぺこよ。あんたが何か作るとか言うから無駄にお腹すいたじゃない。」
「まあそういうなって。ちゃんと腕によりをかけてうまいもの作ってきたからさ。」
そう言って待ちきれない様子のシズの前にキッチンから持ってきたお皿を置く。
目の前に置かれたそれを見てリズとシズは歓声を上げる。
スピネルは歓声こそ上げなかったものの目は興味深々だ。
「今日はクレープを作ったぞ。中身は色々と用意してみたから好きなものを乗せて食べてくれ。」
だが、どうやって食べたらいいのかわからなかったらしく食べ方の説明を求められたので実際にやって見せる。
まずは王道にカスタードクリームと生クリーム、イチゴで仕上げ、最後にナッツを散らしてみた。
そしてそれを器用に巻いて見せた。
「面白いですね。自分で作って食べるなんて。どうしましょう、生地が破けてしまいました。」
「引っ張っちゃだめだよ。優しく巻いてあげないと。シズは詰めすぎ。そんなに載せたら巻けないだろ。スピネルは、、?」
みんな楽しそうでよかった。
スピネルだけは視線を向けたまま動かない。
どうしたんだろう?
目はあんなに輝いてるのに。
「ほら、美味しいよ。」
そう言ってみんなへの実演として作ったクレープをスピネルに渡す。
最初より顔色もだいぶ良くなっているのでもう体調は問題ないだろう。
さすが
それでも得体のしれない食べ物だからなのかリュースティアを警戒しているかはわからないがなかなか受け取ってくれない。
どうするか迷ったがいつまでもこうするわけにもいかず少し強引かもしれないがスピネルを膝の上に抱きかかえる。
突然のことに驚いたのかスピネルは固まったままだ。
「さっきも言ったけど俺はスピネルを大切にしたいと思ってる。完全に心を許すのは難しいかもしれないけど、まず一緒に美味いものでも食べて仲良くなろう。な?」
スピネルを膝の上に載せ、頭をなでてやりながらそんなことを言う。
もちろん耳には触れないように注意して。
「・・・・・ん。」
スピネルが小さいながらも返事をしてくれたので先ほどのクレープを渡してやる。
今度は差し出されたクレープを少しためらいながらも受け取っくれた。
そしてそれをゆっくりとその小さな口に運ぶ。
「・・・美味しい。」
そう言う少女の顔にはわずかながら笑みが浮かんでいた。
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