第34話 魔王の娘
「女の子の様子はどう?」
手に皮をむいた果物の盛り合わせの入った籠を持ったシズが声をかけてきた。
「まだ眠ったままだけど
口移しの件も2人の中で折り合いをつけたらしくもう何ともおもっていないようだ。
よかった。
家に帰ったらなにでご機嫌を取ろうかと考えていたのでそれは杞憂に終わってくれそうだ。
「それにしてもリュースティアさんは
「ほんとよねー。熟練の錬成師でも作るのに苦労するようなものをいとも簡単に作っちゃうなんてほんとにあんたって何者?」
エリクサーってそんなに作るのが難しいのか。
これは体力回復のポーションを作ろうとしたらたまたまできっちゃったとか言わない方がよさそうだな。
シズの聞きたいことは俺も聞きたい。
いったい俺は何なんだろう?
確かに転生しているからこちらの世界の普通には当てはまらないとは思うんだけどそれにしては他の人と違いすぎる。
持っている力もそうだけどこんな色々なことが簡単にできていいのだろうか?
今更ながら、ほんとうに今更ながらリュースティアは自分の異常さに疑問を持ったみたいだ。
その異常さを生み出しているのは神様たちがくれた加護によるものなのだが今のリュースティアにそれを確認する術はない。
故にリュースティアも考えることをやめた。
「この子が助かったんだしそれはいいだろ。それよりこの子をどうするかだよな。」
「そうよ、神官様に所に連れていけないなんて訳ありってことなんでしょ?」
さっきは神官者とに連れていくと主張して聞かなかったシズだが冷静さを取り戻し事情を察したみたいだ。
この子の事を説明するにはリュースティアの固有スキルとでも言うべきマップや備考欄の事も説明しなければならない。
エルから散々自分の手の内を晒すなと言われたのでどうするか悩む。
2人の事は信用しているが何かの拍子に2人を巻き込まないとは限らない。
それにさっきの創造特権のスキルもそうだけどどうやら俺のスキルはこのファンタジー世界でも異常みたいだし。
「リュースティアさん?話しにくい事なら無理に聞き出したりはしません。ですが私たちはリュースティアさんの友人ですから。私たちの事、あまり気をわないでくださいね。」
しばらく黙っているとリズがそんなことを言ってきた。
どうやら魔眼でリュースティアの心の迷いを感じ取ったみたいだ。
それでも自分は友人だからと、あくまでリュースティアの判断に任せ無理に答えを聞き出そうとはしない。
きっとリュースティアのことを信じているからこそリュースティアの決断が自分たちの為であることを、そしてそれが最善であることをわかっている。
それでもその顔はまた守られるだけの存在であり、リュースティアの秘密を打ち明けられる存在に値しないことを恐れていた。
「いや、全部話すよ。あくまで俺にわかる範囲でのことだけどな。」
リズがここまで自分を信じてくれているからにはリュースティア自身もリズを、シズを信じることにした。
友人で仲間である以上隠し事はよくないだろう。
それにリズにそんな顔をさせるくらいなら俺の秘密なんて軽いものだ。
そしてそれからリュースティアは全てを2人に話した。
もちろん今回の事に関係していることだけなので転生の事や神様とのやり取り、バグについては話していない。
隠し事はしないと言っておきながらあれだがそんなことを話しても意味はないと思ったので省略した。
それでも固有スキルの事は全て話したし、女の子の事も話した。
さすがにすべてを話し終えた時には2人とも言葉を失っていた訳だが、、、。
「それでこの子をどうするかなんだけど、神官のところに連れていったら確実に殺されるよな。」
「そうですね。神官様のところにも鑑定の魔法が使える者がいますから。魔王の娘なんてバレたら大騒ぎになりますね。」
やっぱりそうなのか。
それにしても鑑定の魔法ねー。
普通に町中にいるだけでも見つかりそうだ。
「そもそもこの子は魔王の娘なのに種族が魔族じゃないのはなんでなんだ?」
最初にこの子のステイタスを確認したときも疑問に思ったのだが事態が事態なだけに聞けずにいた。
魔王=魔族の王という考えはここでは違うのだろうか?
「魔族はあんまり数がいないのよ。だから他から血の気が多い者を引き入れたり脅して従させたりして魔王軍にするのよ。魔王軍は簡単に言えば国や故郷を捨てた無法者たちの集まりって感じかしら?」
なんだその地球のヤ〇ザ的な集まりは。
ただのごろつき集団じゃん。
急に魔王軍がしょぼく見えてきたよ。
「ですが魔族は数が少ないと言っても個々が手練れで、何よりも頭が回りますからね。自分たち魔族が表立つことはめったにありませんし、魔物の使役にもたけていると聞きます。」
リズがそんな補足を入れてくれる。
つまり魔族が暗躍して世界をひっかきまわしているという事か。
この子の親は力を認められたのかはわからないが何か理由があって魔王となったのだろう。
前にエル達が魔王を倒したと言っていたがもしかしたら別の魔王なのかもしれない。
勇者が何代てにもわたって魔王を倒しているのに魔王がいなくならないのは魔族が暗躍して次々に新たな魔王生み出しているからなのかもしれない。
「でもこの子が本当に魔王の娘ならどうしてこんなところにいるのかしら?何か陰謀があるとしたらかばいきれないわよ。」
魔族や魔王について聞いているとシズがそんなことを言いだしたが多分そのことなら問題ないだろう。
「魔王が関係しているかはわからないけど。自分の意思でここまで来たわけじゃないことは確かだな。」
あの後この子の備考欄を詳しく見ていたら状態が誘拐なっていた。
それは状態じゃなくて現状じゃないのか?などと久しぶりに備考欄にツッコミを入れたくなったが便利だったので自重した。
「魔王の娘を誘拐?どんな命知らずのバカならそんなことできるのかしら。」
シズの疑問はもっともだ。
魔王の娘を誘拐できるくらいなら魔王も倒せそうなものなのに。
「いくら魔王の娘でもこんなに幼い子を死なせたくはないよなー。」
そんなことを考えながらこの子の詳細を細かく確認していく。
レベル1、特に持ってるスキルや魔法などはない。
幼いので当然職業欄は空欄、称号、賞罰もない。
つまり、現時点ではこの子はなにも悪いことはしていない。
そこらへんにいる子たちと同じだ、ただ親が魔王なだけで子供に罪はない。
この子を救うとか単なる自己満足だがせっかく助けた命を奪われるのは嫌だ。
「そうですね。ですがいくら罪を犯していないからと言って神殿騎士や軍が見逃すとは思えません。
始まりの魔法?
また新しい単語が出てきたな。
リズ曰くこの世の理に大きく関わる魔法の事をまとめてそう呼ぶそうだ。
もっともこの魔法が使われていたのは遥か昔で同大な知識と多大な魔力を使うらしくもうその魔法を使える人はいないらしい。
確かに人のステイタスに干渉できるとか並みの魔法じゃないよな。
「なんとかできないの?さすがにこんな小さな子をみすてるなんてできないわよ。」
「さすがに今すぐにはどうこうできないな。方法が見つかるまでは俺が風魔法でこの子に結界を張って身元がバレないようにするしかないな。」
リュースティアが提案したのは魔法の結界だ。
これは結界と言うよりは幻影に近い。
霧に偽りの姿を映して人にまとわせるものだ。
これを使えば姿はもちろんレベルなどのステイタスを偽ることができる。
もっともリュースティアが込めた魔力より大きな魔力を使えば見破ることも可能だし、一撃でも受ければ幻影が解けてしまうので完璧ではない。
「そうですね、何もしないよりはましですしそうしましょう。」
リズもこのやり方に賛成してくれたので早速魔法を行使する。
しかしその魔法は以外なところからストップがかかった。
「それじゃダメなの!それをしたらリューは負けちゃうの。」
シルフだった。
「どうしてダメなんだ?」
「リューの力分散しちゃうの。」
いまいち容量を得ないシルフの話をまとめるとこの子にずっと魔法をかけ続けるのは魔力が持たないらしい。
仮に持ったとしても常に一つの魔法を発動させた状態になるので他の魔法の効果が弱まるらしい。
「それはわかったけど
そう、他に方法がない以上仕方ない。
自己犠牲の精神など全く持ち合わせてなどいないがひと月くらいなら持つだろう。
その間に何か別の方法を見つければいい。
「うりゅ?リューは使えないの?」
「シルフちゃん⁉リューはってどういう事?もしかしてシルフちゃんは始まりの魔法を使えるの⁉」
リズ、少し落ち着け。
それにしてもシルフちゃんっていつの間にお前らそんなに仲良くなった?
「そうなのか?シルフは
「使えるの!昔はみんな使ってた魔法だから覚えてるの。」
忘れてた。
こんなちんちくりんみたいなやつでも何年も生きている精霊だった。
もっと早く気づけばよかった。
これからはもう少し敬ってやろう。
「じゃあ頼む。その魔法でこの子のステイタス欄にある魔王の娘を消してくれ。」
「はいなの!【汝、無に返り今一度己を歩め 二の生に祝福を
呪文を唱えて魔法を行使するシルフはやはり偉大なる精霊なのだろう。
神秘的な雰囲気に思わず見とれてしまう。
だがそれも長くは続かない。
なぜなら相手がシルフだから。
「できたの!でも久々過ぎてちょっと失敗しちゃったの。」
申し訳なさそうにそんなことを言ってくるシルフ。
ほらな?
絶対なにかやらかすとおもったよ。
シルフへのお説教は後回しだ、恐る恐る女の子のステイタスを備考欄で検索する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【名前:??】
【種族:??】
【年齢:??】
【レベル:??】
【職業/天職:??】
【魔法/スキル:??】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「誰が全部消せって言った⁉どうすんだよこれ!これじゃ余計に怪しまれるわ。」
「待ってなの設定は簡単にできるの。」
リュースティアに拳骨を落とされ涙目になりながらもそんなことを言ってくる。
ホントだな?
これでできなかったらしばらくプリンはなしだぞ?
そう言うとシルフは青ざめた顔で必死に首を縦に振っていた。
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