二章 起業

第33話 屋敷と万能薬

「えっと、この家を掃除してお店にするんですか?」


エルランドとの決戦の次の日、リズたちとリュースティアが買った家に来ていた。

貴族街の手前にあるので決して好立地と言うわけではないが値がとにかく安い。

物件はギルドで仲介をしてもらったのだが間取りと値段を聞いて即決した。

だからリュースティアも実際に家を見に来たことがなかった。


「あー、そうだな。そういう事になるな。」


「何がそういう事よ!これじゃ掃除じゃなくて改築じゃない!」


そう、リュースティアが買った物件は幽霊屋敷というのも生易しいほどにボロかったのだ。

そう言えばこの物件を買う時にラニアさんが何かを言いかけていた気がする。

それをちゃんと聞かないで即決した俺が悪いんだけどさー。

他でも色々とお金は必要だしできるだけ節約したかったんだよね。

けど最終確認と説明はやっぱり必要だと思う。

さすがにここまでぼろいとは思っていなかった。


「ううー、昼間なのになんでこんなに暗いのよ。まさか本当になにか出るんじゃないでしょうね。」


「幽霊なんているわけないだろ?もしかしてシズはそういうの苦手なのか?」


そんなことを聞くとばつが悪そうに肯定してきた。

まあどんな人間にも苦手なものの一つや二つあるもんだしそんな気にすることもないと思うんだけど、シズは違うのかな?

それにしてもこういうのを怖がるのはリズの方かと思っていた。


「リュースティアさん、扉は少し壊れていますがちゃんと開きますよー。とりあえず奥まで見てみます?」


シズと違いウキウキとした様子で玄関のチェックをしているのはリズだ。

まあいくらぼろ屋敷とは言え買ったことには変わりはないのでいつまでも門前で突っ立っているわけにはいかない。


「そうだなー。とりあえず入ろう。けど俺が先に行くから二人は後ろからついてきてくれ。」


そう言って家の敷居をまたぐ。

もともと靴を脱ぐ習慣がないのか家の玄関というよりはホテルのロビーに近い。

さすがにここまでホコリが積もっていると靴を脱ぐ気にならなかったのでちょうどいい。


リズたちが後ろにいる事を確認し廊下を進む。

もちろん2人を先に行かせなかったのには理由がある。

先ほど家の中をマップ検索してみたのだが、どうやらこの屋敷には人がいるらしい。

ただ、盗賊などのお尋ね者というわけではなくレベル1の耳族の女の子だ。

それでもどんな人物かわからない以上危険があるかもしれないので2人を下がらせた。

明らかに衰弱しているので襲い掛かってくるようなことはないと思うが念の為だ。


「今、なにか奥で物音しなかった?」


「私には何も聞こえなかったけど。リュースティアさんは何か聞こえましたか?」


確かに今、シズの言う通り奥で音がした。

だが本当にわずかな音で、普通の人なら聞こえないレベルだ。

もっともリュースティアはエルとの修行中に獲得した“傾聴スキル”でばっちり聞こえていたが。

これは“聞き耳スキル”の派生スキルらしく音を聞くことはもちろんだがより音の真意に迫れるというものだ。

人の話声などを傾聴スキルをつかって聞くと何となく本音がわかる。


もちろん悪用はしませんよ?


「ああ、どうやら上の部屋に誰かいるみたいだ。」


「まさか、幽霊じゃないでしょうね?」


怖がりながら上目遣いにいってくる様子はすごくかわいいんだが腕を掴むのはやめてほしい。

と言うより捕まるのはいいんだが完全に力の加減をまちがえてる。

さっきから爪が食い込んでいて痛い。


「幽霊はいないっていったろ。狼人族の女の子がいるらしいんだけどどうやら衰弱してるみたいだな。」


リュースティアがそう言うが早いかシズがリズの静止もお構いなく二階へとかけ出していった。

女の子が衰弱していると聞いて怖さも吹き飛んだらしい。

考える間もなく他人の為に動けるシズはやっぱりいいやつだ。

まあこうもすぐに飛び出されると守る方は大変なんだけどそんなこと言ってもこっちが勝手にやってることなので文句を言うのは話が違う。

それに俺はシズのそういうところ好きだしな。


「リュースティアさん、私たちも行きましょう!」


リズに声をかけられて我に返るリュースティア。

そうだ、危険な可能性は低いが何かあってからじゃ遅い。

リュースティアとリズは慌ててシズの後ろ姿を追う。

全力で駆け上がったのでシズが問題の女の子がいる部屋の扉を開けるのには間に合った。


「シズ、気をつけろよ。」


息を整えながらそんなことを言う。

シズは無言でうなずきながら慎重に扉を開ける。


「ぐるる!」


扉を開けた瞬間そんなうなり声と共に女の子が棒きれをもって飛び掛かってきた。

とっさにシズと立ち位置を変わり女の子の攻撃を受け止める。

当然反動で女の子にけがをさせたりしないように細心の注意を払いながらだ。

だがそんな注意も虚しく女の子はそのまま地面に崩れ落ちる。

間一髪、床に倒れる前に抱き留めることはできた。

もともと衰弱していたので今の一撃で力尽きたらしい。



軽い。

女の子を抱き留めた感想だ。

女の子の体はやせ細り、骨が見えてしまっている。

それにおそらく栄養失調だろう。

顔色が悪い。

とても遊びたがりの女の子の顔とは思えない。


「リュー、神官様のところに運びましょう。それとなにか食べ物を、、。」


シズもこの子の状態を理解したらしい。

確かに神官のところに連れていけばなんとかなるかもしれない。

だがこの子を神官のところに連れていくわけにはいかない。


「ダメだ。この子はここで俺たちで何とかする。」


「そんな!私たちになにができるって言うのよ!」


シズがどうしても神官の元に連れていくべきだと言ってきかない。

ほんとうならきちんと説明するべきなのだろうがうまく説明できる自信がない。

なので下手な説明をして変な誤解を生むよりは何も知らないほうがいいだろう。

どうしたものかと考えているとリズからの援護があった。


「シズ、ここはリュースティアさんに従いましょう。きっとなにか考えがあるんだと思います。それにリュースティアさんならきっと何とかしてくれます。そうですよね?」


最後のは明らかにリュースティアに向かって言っていたので無言で頷いておく。

必ず救えるとは言えないが何とかなるはずだ。


「何とかして見せる。まずこの子の為に清潔な空間を用意しよう。リズはこの子の体をきれいに拭いてやってからきれいな服に着替えさせてやって。シズはここに書いてある果物の皮をむいておいて。」


元の世界だと栄養失調には点滴だった。

俺も何度かお世話になったことがある。

だがそれを実践するにはあまりにも不安要素が大きすぎる。

なのでファンタジーらしく魔法で対処しよう。


備考欄で女の子の状態を確認する。

体力とライフのゲージがかなりヤバいところまで来ている。

まずはこの二つの回復が最優先だ。


そこでリュースティアはまずエルランドとの修行中に学んだポーションの作り方を思い出す。

もちろんポーションなどを作れるのは錬金術師だけだ。

だからエルランドはあくまで知識として作り方や保存方法、材料などを教えたに過ぎない。

だが“創造特権”と言うチートスキルをもっているリュースティアからすればその重要なのである。


エルランドに教えられた材料をストレージから取り出し手の平に魔力を込める。

当然容器となる鉱物も一緒に取り出している。

エルランドとの修行の後に毎晩スキルの練習をしていたので今では同時に複数の物を創造することができるようになった。

人の命に関わることなので込める魔力に出し惜しみはしない。

創造によって産まれるものの価値はリュースティアの知識によるところが大きいが込める魔力によっても変わることがわかっている。

なので込めれるだけの魔力を込めてポーションを創造する。


できた!

材料を包み込んだ手元が青く輝きその光が収まるとリュースティアの手元には何個かのポーションが握られていた。

念のため備考欄でポーションの品質を確認する。


>商品名:「万能薬エリクサー

>製作者:リュースティア

>品質:最上級、高品質。

>相場:金貨1~


あれ、俺は体力回復のポーションを作ったつもりだったんだけどな。

まあいい、品質も問題ないしこれを飲ませれば何とかなるはずだ。


「リュースティアさん、着替え終わりました。一応この部屋のベッドにはハウス系の魔法を使ってきれいにしてあります。」


ハウス系の魔法?

ちょっと気になったが今はそれどころではない。

女の子をベッドに寝かせ出来立ての万能薬エリクサーを飲ませる。

だが女の子にはすでに飲み込む力もないらしくすぐにむせてはきだしてしまう。

しかたない。

リュースティアはエリクサーを自らの口に含むとそのまま口移しで女の子にエリクサーを飲ませる。

移すときに女の子の舌が喉をふさいでいたのでリュースティアの舌で無理やり喉をこじ開ける。

まさか異世界でこんな小さな女の子に大人のキスをする羽目になるとは思わなかった。


リズとシズから無言の圧がかかっているが人命救助のためだ、仕方ない。

まあ二人ともそのことはわかっているらしく口にはしない。

そこまでわかっているなら無言の圧もやめてほしいと思うのは我儘だろうか?


リュースティアは万能薬エリクサーのおかげで順調に回復している女の子を見て今後の事考える。

リズとシズはいいとしてもこの子はどうするべきか、、、。


と備考欄に表示された女の子の寝顔をを見ながらリュースティアは面倒ごとに巻き込まれそうだとため息をつく。


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