第31話 決着

どんなに修行期間をもうけても、どんな作戦を立てても勝敗は一瞬で決する。

生死をかけた戦いでは今まで積み重ねてきたものなど関係ない。

一瞬の迷い、一瞬の判断ミス、それらが生死を分ける。

生存本能にどこまで従えるか、どれほど強く生きたいと願うか。

みじめだろうが、情けなかろうが冒険者はどこまでも生に執着しなければならない。

そうしなければ我々はただの自殺志願者に成り下がる。



エルランドは地面に背中を預け、白んできた星空を見ながら数代前の勇者が残した言葉を思いだしていた。

で地面に横に横になりもしなければ空を見上げることなどなかっただろう。

そしてこの言葉を思い出すことも、、、。


エルランドは負けたのだ。

本気の戦いで、3対1ではあったものの負ける相手ではなかった。





時刻はあと数刻で夜が明ける。

昨晩リュースティア達に奇襲を仕掛け、本気の戦いは甘くない事を伝えた。

このバトルロワイヤルはリュースティア達が外に出たときに死なない為に考案したものだ。

伯爵令嬢たちにしろ、リュースティアにしろ他人の悪意に鈍感すぎる。

簡単に言えばあいつらは冒険者をやるには心がきれいすぎるんだ。

だがいくら俺でもきれいな奴らに汚れてほしいわけじゃない。

世の中の大半は汚れていることを知っておいてもらいたかった。

だからわざわざ俺が一番きらいなやり方で攻めている。


「なんだ?あいつらなにしてる?」


リュースティア達が動く気配がしたのでそちらに目をやる。

エルランドは存在を隠す隠蔽ハイドの魔法が付与された魔道具、【闇兜やみかぶと】をつけているためリュースティア達が目視できる範囲にいても気づかれることはない。

この魔道具は勇者パーティの道具屋から借りてきたものなので性能はお墨付きだ。


リュースティア達はどうやらもめているみたいだ。

理由まではわからないが3人で意見が割れているらしい。

そして各々が武器を手に取り別々の方向に歩きだした。


あろうことか3人は仲違いから別行動を選択したようだ。

単独でエルランドと戦って勝てる可能性があるのはリュースティアだけで本気ともなればそのリュースティアでさえも勝てる確率が低いということなど冷静に考えればわかるはずだ。


「お前は俺から何を学んだんだ。強敵を前にして冷静さを失うつもりか?これは少し痛い目を見た方がいいな。」


そうつぶやくとリズたちには目もくれずリュースティアに狙いを定め後をつける。


見つけた。

あれほど警戒を怠るなと言ったにも関わらずリュースティアは木の根元に腰を掛け戦闘態勢を解いている。

そんなリュースティアの緩みを確認すると、エルランドは音もたてずリュースティアに忍び寄り目の前で闇兜を外す。


「リュー、お前には失望したぞ。もう一回ぶっ飛ばされとけ。」


そんなことを言いながらリュースティアに向かって炎をまとわせた刃を振り下ろす。

これはエルランドの十八番。

火炎魔法を収束させ、己の剣を高熱のレーザー化させるものである。

この剣で斬られれば確実に体が焼き切れる。


だがエルグランドの剣がリュースティア斬る事はなかった。

確実によけられないように斬りこみ剣は体を通ったはずだ、だが全く


「どういうことだ?」


「やっぱりエルなら俺を狙うと思ったよ。」


どこからかリュースティアの声が聞こえ、自身の剣が全く見当はずれなものを斬っていたことに気づかされる。

目の前のリュースティアがわずかな残像を残し霧となって消えていく。

本物のリュースティアの場所は声が森に反響して正確な出どころがわからない。


「霧で幻影を創るなんてやるな。いつ入れ替わったんだ?」


エルランドは少しでも会話をさせリュースティアの居場所をつかもうとする。

だがリュースティアの返答は実に素っ気ないものだった。


「企業秘密だ。」


そしてその瞬間エルランドは背後に殺気を感じとっさに防御の姿勢をとる。

リュースティアが斬りこんできたと思ったが違った。

エルランドの背後から斬りこんできたのはシズだった。

持てる魔力をすべて剣に注ぎ込んだようで手に持つ剣からは危険な輝きがあふれている。


少しでも衝撃を与えたら爆発する。

そう思いシズの一撃を剣で受けずに躱す。

だがシズはエルランドがそうすることを予想していたらしく交差した直後に後ろから剣を投げつけてくる。

その攻撃をエルランドはかろうじて空に逃げることで回避する。


だが逃げた先にはそれを待っていたかのように水魔法が放たれていた。

周囲に目をやると少し離れた場所から杖をこちらに向けるリズの姿があった。

第1波に続き2波、3波と魔法を放ってくる。

さすがのエルランドでもすべてを回避はできない。

だがだてにエルランドもAランク冒険者をやっているわけではない。


第1波を躱しながら詠唱を始める。

そして第2波があわや直撃という時、詠唱が完了した。


「ひよっこどもが舐めんな!【炎爆フレームエクスプローション】」


エルランドから放たれた炎魔法は襲い来る水を一瞬で水蒸気へと気化させた。

そのせいであたりは熱い蒸気で包まれる。

炎魔法の使い手であるエルランドからすればこんなの熱いうちに入らないが常人であればまず耐えられないだろう。

エルランドはこの隙に体制を整えて反撃をするつもりだ。

3人の連携は確かに脅威だがわかっていれば対処できないレベルではない。


「そんな暇与えない。【風槌ウィンドハンマー】」


リュースティアの声がどこかから聞こえ下ら風に叩かれさらに上へと飛ばされる。

未だに蒸気で視界が悪いが下にリュースティアがいることは間違いない。

けん制の意味を込めて下に【火球ファイアボール】を放つ。

あたるとは思っていないが時間稼ぎになるだろう。


「へっ、やるじゃねえか。」


ここまでやるとは想像していなかったので予想以上の奮闘ぶりに思わず口元が緩む。

だがそんな独り言ともいえるつぶやきに言葉を返すものが居た。


「そりゃどうも。」


空中にいるエルランドの上からこちらに向かって剣を構えたまま落下してくるのはリュースティアだった。

落下の速度に加え、風の力も借りているらしくリュースティアの迫りくる速度は尋常ではなかった。

だがこれなら耐えられる。

そう確信しリュースティアの剣を受け止める。


空中で2つの剣が交わる金属音があたりに響く。


「くっ、やるなぁ。だが俺の剣は全てを焼き尽くす。いつまでも持たないぜ。」


「そんなのわかってる。だから俺は一か所に絞ったんだ。風の刃は全てを切り裂く、だろ?」


そして次の瞬間、エルランドの剣がリュースティアの剣と交わっていた部分から真っ二つに折れた。

当然、エルランドの剣を負かしたリュースティアの剣は途中で勢いを殺せるはずもなくそのままエルランドの体を直撃する。

そしてそのまま地上数十メートルから地面に向かって勢いよく打ち付けられた。




目を開けるとそこには剣先を喉元に突きつけるリュースティアがいる。

どうやら気を失っていたらしい。

だがリュースティアの様子を見る限りほんの数分程度だろう。


「俺の負けだ。もう指の一本も動かねえ。くっそー、まさか負けるとは思わなかったぜ。」


「いや、俺たちもギリギリだったよ。エルが俺たちに忠告しなければ昨日の時点で全滅してたしな。」


そんなことを言いながらリュースティアが剣を鞘に納め手を差し出してくる。

先ほどまで全く動かなかった体だが少しずつ回復はしているらしく腕くらいは動かせるようになっていた。


「悪いな。」


そういいリュースティアの手を借り上半身を起こす。

とてもじゃないが立てそうもないのでポーションを取りだし一気に煽る。

これですぐに動けるようになるだろう。


「リューの作戦はよかったぞ。そっちの嬢ちゃんたちもいい攻撃だった。だがもう少し力を収束できればもっと使いやすくなるはずだ。」


「はい!ありがとうございます。」


いつの間にかリュースティアのそばに来ていた2人に好評をする。

もっとも言いたいことはこれからが本番だが。


「リュースティア、そしてリズにシズ。お前らは共に困難に打ち勝った。お互いが助け合いパーティになる資格を有したってわけだ。ってことでお前らはこれからパーティだ!そしてお前らは俺たち勇者パーティを超えて最強の名を語って見せろ。」


勇者パーティは現在、各々が各地を回り優秀な人材を探している。

簡単に言えば勇者の後継者になりえる存在を。

エルランドがリュースティアに修行をつけたのもそのためだ。

勇者も万能ではない。

故になにかあった時の為に次世代に希望を残しておくことにしたのだ。


「そうだったんですね。いつかリュースティアさんと一緒にたどり着いて見せます!」


「私も。もともと強くなることは目標だしね。」


リズとシズはエルランドの話を聞き最強への道を歩む決心をしたみたいだ。

自然と二人の視線がリュースティアに集まる。


「可愛い嬢ちゃんたちはこう言ってるぜ?リュー、お前も覚悟を決めろ。お前が世界を救うんだ。」


エルランドがリュースティアに覚悟を求める。

真剣な表情を向けてくるエルランドに対しリュースティアはいつもと変わらない様子で一言。


「いや、やらないから。」




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