第30話 仲間

エルランドの奇襲からすでに数時間が過ぎた。

あの攻撃以外、エルランドの痕跡は何も掴めていない。

普段はバカみたいに騒がしいエルランドの気配をいっさい感知できないという事実がリュースティアに不安と焦りを与える。

先ほどの奇襲でこの戦いが本気の殺し合いだと、少しでも気を抜けば大切である2人を簡単に失うと、そう実感させられた。

その事実が、よりリュースティアの恐怖を掻き立てる。

そしてその不安が、恐怖が、リュースティアから余裕を奪い、視野を狭くする。

この時のリュースティアは実戦闘の少なさゆえにこの過ちに気づけないでいた。

そしてさらなる悪循環に陥っていく。


そのせいかリュースティアからはいつもの柔らかい雰囲気が消え、殺伐とした表情で、鋭い視線を周囲に放っている。


「リュースティアさん、大丈夫ですか?」


「何そんな怖い顔してんのよ。」


肩を叩かれてリズに呼ばれていることに気づく。

どうやら警戒することに集中しすぎていたみたいだ。

リズの隣ではシズも同じように心配そうな表情をしている。


「大丈夫、俺は問題ない。次は絶対に守るから。」


心配してくれるリズたちに笑みを向け、そんなことを言う。

だが、大丈夫だと言ったにもかかわらずリズの表情は冴えない。

ん?


「リュースティアさん、守ると言ってくれるのはとてもうれしいです。でも私も、シズも。この場に、リュースティアさんの隣に立つことを自らの意思で決めたんです。リュースティアさんの重荷になる為ではなく、共に戦う為に。そのための覚悟は当然しています。だから一人で頑張りすぎないでください。このままだとリュースティアさんがリュースティアじゃなくなってしまう気がして、、、、。私は嫌です。」


「そうよ。確かに私たちはあんたより弱いわ。さっきみたいに魔物に囲まれたら手も足も出ない。今現在進行形で守られているだけの私たちが言えた義理じゃないけど、私たちにもあんたを守らせなさいよ。怖い顔なんてあんたには似合わない。それに私はバカで、鈍感で誰にでもやさしいあんたが好きなんだから。」


言われて初めて気づく。

そんなに余裕のない表情をしてたのか。

確かに敵を見つけることに集中しすげていた節がある。

すぐ目の前にいたリズたちの呼びかけにも気が付けないくらいに視野が狭く、余裕がなくなっていた。

だが一番の問題はリズたちが殺られる前にという事を考えていたことだろう。


危ない危ない。

2人がいなかったら本当にエルと殺し合いをしてしまっていたかもしれない。

死にたくはないけど人を殺すことになれたくない。

もしかしたらこういう事も考えてバトルロワイヤルに2人も入れたのか?

それ以外に実力の劣っている2人をこの場に放り込む理由が見つからない。

なんだかどこまでもエルランドの掌で踊らされている気がするが、、、。

少し、いや、かなり不本意だ。

あんな脳筋の戦闘狂の手の平で踊らされてるとか、死にたくなる。

くそ、まあいい、向こうがその気なら俺は俺のやり方でエルに勝つ。


ん?

それよりも今シズなんて言った?


「シズ、好きって、その、、、あれか?」


「ち、違う!今のは口が滑って!いやそれも違くて、そのあんたはもう弟みたいなものだし。家族としての好きだから変な意味はないわよ!あんたを男として見たことなんてないし。それにあんたのことなんて別に何とも思ってないし、、、。」


顔を赤らめ必死に否定するシズ。

自分でも思い切ったことを口にしてしまい動揺が隠せないらしい。

久々に見たな、シズのテンパる姿。

かわいいんだけどさ、そこまで否定されるとさすがに傷つくぞ?


「わかってるって。けどありがとな。2人のおかげでいい具合に力が抜けたわ。」


「私は好きですよ?リュースティアさんの事。」


急にそんなことを言われて歳にもなく赤面してしまう。

あっ、今は15歳だっけ?

リズにどういう意味なのか聞きたいかさすがにそんな勇気はない。


「と、とにかくこれからどうするか考えよう。俺一人だと多分戦闘経験豊富なエルには勝てない2人も力を貸してくれ。3人で知恵を絞って次でエルを倒そう。」


もともと1人でけりをつけるつもりだったが二人にも協力してもらおう。

実力だけが勝つ方法じゃないのかもしれない。

実際にリュースティアは2人に救われた。

できれば2人には危険な戦いには参加してほしくはないが2人の好反応を見ていると今更後方支援に徹してくれなどとは言えない。

そんな勇気があれば今頃エルランドくらいになら圧勝しているはずだ。



「でもエルランドさんってなんでこんなまわりくどいやり方するのかしら?」


不意にシズがそんなことをく口走る。


「確かにそうですね。なにか教えたいことでもあるのでしょうか。」


うーん。

確かに俺もそんな気がするんだよな。

現にここまででも色々教えられているし。


「それはエルを見つけてから本人に直接聞けばいい。でも問題はこれだけ探しても見つからないってことは俺たちの索敵能力じゃエルを見つけることはできないってことだよなー。シルフはどうだった?」


「ダメなの。怪しいのいっぱいで本物はまぎれちゃってるの。それにうまくつかめなかったの。」


シルフにも森に聞いてもらったり下位精霊から情報を集めてもらったりしたのだがどうやら不発に終わったみたいだ。

シルフの言っていることからしておそらくダミーを何体か放ったのだろう。

それだと本人を一発で見つけないと本人に当たるまでに新たなダミーを作られたり、逃げられたりする可能性が高い。

そんなの埒が明かない。


「ならやっぱりエルの方から出てきてもらうか。」


「あんたねー、簡単に言うけどどうするつもりよ。」


俺も今それを考えてるんだよ。

前回エルが出てきたときはどういう時だった?

俺が気を抜いた瞬間だった。

と言うことはあいつは何らかの監視の手段を持っていると考えるのが妥当だろう。

ならそれを利用しない手はない。


「よし、作戦がある。いいか、、、、、」



作戦を2人にも伝える。

思いつきに過ぎない作戦だがエルが俺に教えを解こうというならきっと誘いに乗ってくるはずだ。

そしてこの作戦には2人の協力は必要不可欠だ。


「なるほどねー。確かにそれならうまくいくかもしれないわね。」


「リュースティアさん、さすがです。」


「よし、じゃあ早速やるか!」


今晩中にけりをつける。

”俺が”じゃなくて”俺たちで”だ。



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