第29話 実践訓練、そして、、、。

「ちょ、ちょっと!リュースティアどうするのこれ⁉」


魔物に囲まれ、すでに退路はない。

恐怖に震えながらも剣を構え、リュースティアに助けを乞うように声をかけてくるのはシズである。

リズはすでに詠唱を始めているが恐怖からかうまく詠唱できていないみたいだ。


「どうするって倒すしかないだろ?エルを探すのにこいつらは邪魔だしな。」


そんな軽い調子で言うのはもちろんリュースティアである。

エルランドとの修行と比べたらこのくらい大したことない。

修行中はこの量に加えてエルランドの攻撃だったしな。


「ふざけないで!どれだけレベル差あると思ってるのよ!3人だけじゃ、、、。」


シズが顔に似合わない絶望を浮かべ、今にも泣きそうな表情をしたまま座り込んしまう。

シズに涙は似合わない。


「シズ、そんな顔すんなって。これはあくまで訓練だって。それに涙なんてお前には似合わないぞ?いつもみたいに笑ってろ。まあそれでもシズが泣くってんならお前の事は俺が守る。」


「リュースティア、、、、。」


これがリュースティアが出した答えだ。

自分の目的は平凡に生きる事。

だがそれはリュースティア1人ではなしえない。

そばに大切な人がいて初めて平凡を、幸せを感じる事ができる。

そしてリュースティアは2人の存在を大切なものと思っている。

それだけで2人を守る理由には十分だ。


「おいおい、いつまで泣いてんだよ。仕方ねえなー。じゃあそのまま見てろ。」


そう言ってシズの頭に軽く手を置く。

リズも不安そうな表情でこちらを見上げていたのでリズの頭もなでてやる。


「シルフ、お前は2人を頼む。俺はここら辺の魔物を一掃する。風神を使うから間合いに入るなよ。行くぞ、“吹き荒れろ風神”」


「はいなの!」


シルフに二人を頼み魔剣を解放する合言葉コマンドを唱える。

風神の扱い方はエルランドとの修行で習得している。

だが風神はちょっとばかり気が荒いので確実に巻き込まない保証ができない。


「よし、機嫌はよさそうだな。けどエルも探さないとだし時間かけてもいられないよな。【風嵐ウィンドストーム】」


リュースティアが魔法の引き金をひき、風神に魔法を纏わせて放つ。

するとあたり一帯に竜巻が巻き起こり魔物、木々、関係なくあたりを吹き飛ばした。

うん、ちょっとやりすぎたかな?


辺り一帯が文字通り吹き飛んだ。

まあいっか、あとは残りの魔物を倒せばとりあえずは片付きそうだ。

残っている魔物の数はそこまで多くなかったので風神に風の刃をまとわせ手当たり次第に斬っていく。

風神はその名に風の文字を持つだけあって風魔法と相性がいい。

故にリュースティアとの相性も最高だ。

そのおかげか3人を取り囲んでいた魔物たちはものの数分で消滅した。

あれ、なんで死骸が残らないんだ?

それよりも、、、、。


「2人とも大丈夫か?」


「「・・・・・・。」」


「2人とも大丈夫なの!」


変わらない様子のシルフとは違いリズとシズは言葉が出ないようだ。

あれ、おかしいな?

2人とも無事だし、敵は倒した。

ふつうの魔物と少し違った感じがしたが攻撃を受けた様子もないし、、、。


「おーい、大丈夫かー?」


「あんた、自分が何したかわかってる?」


「リュースティアさん、すごいです。」


ようやく口を開いてくれたか。

だけど何したかわかるかって、そんなもん。


「敵を倒しただけだけど?」


「だけって、バカ⁉あれだけの数を数分で倒したのよ?しかもなんなのよあの戦い方!もうほんとなんなのよ、、、。」


シズが呆れた様子でそんなことを言う。

うーん、何と言われてもいまいちわからないが俺は俺だよ?

でもまあいつもの調子を取り戻してくれたみたいなのでよしとしよう。


「うん、そのほうがシズらしい。立てるか?」


そう言って座り込んだままのシズに手を差し出す。

呆れた表情のままリュースティアの手を取るシズ。

その表情にわずかに赤みがさしているのはきっと気のせいだろう。

そしてリズがその様子をジト目で見ているのもきっと気のせいだ。


「リュースティアさん、それでどうするつもりですか?」


リズがそんなことを聞いてくる。

目がジト目のままなのでおそらく聞きたいことはシズの事だろう。

だがそんなことにリュースティアが気づくはずもなく。


「とりあえずエルを探そう。索敵の魔法で探してみるからリズも協力してくれ。」


「もう、そういう事じゃないです。」


「ん?なにか言ったか?」


リズの言葉はすでに索敵の魔法を始めているリュースティアには聞こえていなかった。

まあ聞こえていたとしてもリュースティアに理解できるとは思えないが。


リュースティアが今使っている魔法は風魔法の一つ、【風索敵ウィンドサーチ】だ。

この魔法は風にレーダーの役割を持たせたもので風が届く範囲ならば様々なものを索敵できる。

マップの機能を使ってもよかったのだがそれだと何となくルール違反になる気がしたのでこちらの方法を選んだ。


「ダメだ、エルが風に引っかからない。リズの方はどうだ?」


「こっちもダメです。何か隠遁系の魔道具か魔法を使っているのかもしれません。」


どうやらリズの索敵にも引っかからなかったみたいだ。

どういう事だろう?

隠れるにしてもこのやり方はエルらしくない。

エルならこそこそせずに真っ向から斬りこんできそうだけど。

そんなことを二人に話すとどうやら二人とも同意見らしい。


「確かにおかしいわね。何か企んでいるのかしら。」


何となくすごく嫌な予感がするが気にしていても仕方がない。

そろそろ日が落ちそうだし、夜に戦いを挑んでくることはないだろう。


「今日はもう休もう。さすがにエルも殺す気はない以上夜に仕掛けてくることはないだろうし。」


「そうですね、ですが場所が場所だけに気は抜けませんね。」


リズの意見にはリュースティアも同意見だ。

だからと言うわけでもないがすでに周囲には結界を張ってある。

これなら範囲内に敵が入ってくればすぐにわかる。

1週間前には戦いのたの字も知らなかったリュースティアがここまでできるようになったのはもちろんエルランドのおかげだ。

彼には口酸っぱく気を抜くなと言われ続けたのでこのくらいは朝飯前、片手間でできるようになった。

エルの場合だと気を抜いた瞬間に骨の一本は確実に持っていかれるからな。


「リュースティア、そろそろ休めば?魔法使って疲れたでしょ。」


シズの提案にうなずき剣を置く。

そして一瞬の隙が生まれる。


その瞬間、リュースティアの頬を剣がかすめた。


「っ、何で⁉結界にはなんの反応はなかったのに。」


「おいリュー、何警戒を解いてんだ。死ぬぞ?」


そう言ってリュースティアの足元から現れたのはもちろんエルランドである。


「ずいぶんな挨拶じゃないか。お前はこういうやり方好きじゃないと思っていたけど?」


エルランドはリュースティアの言葉に答えることもなく無言で斬りこんでくる。

しかも目くらましの魔法まで使ってくる。

目くらまし程度なんて事ないが厄介なことに変わりはない。


「くそ。風よ!」


リュースティアの一言でリュースティアを中心に風が吹き荒れる。

風がエルランドの目くらまし魔法である霧を吹き飛ばす。

そして霧が晴れるとそこには、、、。


「リュ、リュースティア」


シズとリズを捕らえその喉に剣先を突きつけるエルランドの姿があった。


「エル?」


「俺は本気でやるといったはずだ。これは本気の殺し合い。相手はみんなが善人なわけじゃないからな。お前が考えられないような卑怯な手を使ってくる。そんな相手と対するにはお前は甘すぎるんだよ。人間の汚い部分を知れ。もしこれが修行じゃなかったのならこの2人はすでに殺されている。それでいいのか?」


エルランドに言われて気づいた。

俺はどこかで人が人を殺すことなどないと腹をくくっていたのかもしれない。

確かに甘かった。

こんな考えで2人を守るなんて子供の戯言もいいとこだ。


「いい面になったな。だがそれでいいい。人を傷つけることに慣れろとは言わない。だが人を傷つける覚悟だけは持て。」


「ああ、俺が甘かったよ。これが修行でよかった。」


ニヤリ。

エルランドが不敵にもほほ笑む。


「第2ラウンドの開始だ。」


そう言ってエルランドが消える。

周囲にエルランドの気配もない。


覚悟はできた。

第2ラウンドでけりをつける。







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