第28話 私たちには理解できません
「ねえ、シズ?私、やっぱりセンスないのかな、、、。」
「急に何?。そんなことないわよって言いたいところだけどさすがにアレ見せられちゃうとねー。さすがの私も自信なくすわ。」
そんな会話が修行場の隅の方から聞こえてきた。
本気で斬り合っているリュースティア達には聞こえていないがこの場合は聞こえなくて良かったのかもしれない。
そんな沈んだ様子で話しているのは今日の修行に同行してきたリズとシズの二人だ。
今回が初めての同行と言うわけではないが、この二人はギルドの依頼がない日にここにきてエルランドから手ほどきを受けている。
もっともリュースティアほどハードモードではないが。
戦闘スタイルの似ているシズはエルランドから剣術と魔刀の使い方を、リズはシルフと共に精霊を介した魔法の練習をしている。
二人ともなかなか苦労しているらしくあまり進展はしていないようだ。
だがどちらも数年かけて習得するものらしいのでそう悲観することもないだろう。
本人には自覚がないがたった数日でエルランドと対等に斬り合えるようになったリュースティアが異常なのだ。
「どうしてリュースティアさんはあんなに簡単に精霊を使役できているのかな?」
「そんなの私が知るわけないでしょ。それよりもどうしてついこの前冒険者になったような人がたった数日で魔刀が使えているのよ。」
朝からリュースティア達と修行しているがお互い早々に魔力が切れてしまったので小休止をしながらリュースティア達の斬り合いを見ていたのである。
リズはシルフとの修行の成果か精霊の存在を感じ取ることができるようになっていた。
その為、リュースティアの周りに多くの精霊が集まり魔力供給などのサポートをしているであろう事が何となくわかるのだ。
そしてシズはリュースティアの強さに疑問があるようだ。
ここまで成長速度が速いと最初から強かったんじゃないかと。
けど仮にもともと強かったとしても何のためにそんなことをするのか見当もつかない。
きっと言いたくない理由でもあるのだろう。
悪いやつじゃないし言いたくないのであれば無理に詮索するつもりはない。
「お前らそろそろ休憩終わりにしてもいいか?」
ふいにエルランドから声がかけられる。
リュースティアとの斬り合いが終わったらしい。
お互いところどころから血が出ているがいつもの事なので無言でタオルを渡しておく。
「ええ、もうだいぶ魔力も回復したしいつでも再開できます。」
「わ、私も大丈夫です。」
エルランドからは敬語は堅苦しいからやめろと言われたがAランク冒険者である彼にたいしてそんな簡単に砕けられるわけない。
普通にタメで話してるリュースティアがおかしい。
「さすが二人だな。ギルドの依頼もこなして修行もするなんて俺にはまねできそうもない。強くなるはずだな。」
「リュースティア、あんたそれって嫌味?」
リュースティアの異常な成長を見ていたせいか少しきつい言い方になってしまった。
「なんで?だって実際俺なんかよりちゃんと働いてるし、たぶん戦ったら二人の方が強いだろ。」
リュースティアがキョトンとした表情でそんなことをいう。
こいつほんとにわかってないわね、、、。
これってリュースティアのバカさ加減を忘れてた私が悪いのかしら?
「リュー、お前は女心をわかってないな。シズはお前にかまってもらえなくて寂しいんだよ。」
「ちょっ、違うから‼」
なんて返事をするか考えていると横から的外れな意見が割り込んでくる。
ついかぶせ気味に返してしまった。
リュースティアにかまってほしいとかほんとに思ってないから。
リズ、大丈夫よ、思ってないから。
だから裏切られたみたいな顔をするのはやめてちょうだい。
「なに言ってんだ。シズはリューの事好きなんだろ?じゃなきゃあんなに見つめたりしないよなー?」
う、確かに見てたけど、、、、。
あれは好意と言うよりは疑念だし。
ノーカンよね?
だが双子の姉はそうは思えないらしく。
「シズ、そうなの?少しお話、しましょうか。」
「お姉ちゃん⁉ほんとに違うから。こんな茶番に惑わされないでよ!」
どうやらリズはリュースティアの事となると周りの事が見えなくなるらしい。
冷静に考えればわかるはずなのにすっかり頭に血が上ってる。
そしてそこに空気を読まない脳筋が横やりを入れてくる。
「おっ本命はリズのほだったのか?リューお前モテるんだな。他にはどんな子を侍らしてるんだ?どうだ今度遊びにでもいこうぜ。」
「エルランドさん?頭が筋肉でできている人は少し黙っていてください。そんなことよりもリュースティアさん、どう言うことですか?」
リズ、般若モード。
相変わらず笑顔ですが目が笑っていません。
場の空気が一瞬で冷え切った模様です。
さすがのエルランドもリズから放たれる圧には逆らえないらしくすっかり大人しくなった。
「あー、リズ?すこし落ち着けよ。俺はお前たち二人以外に親しくしてる子なんていないし、エルと遊びに行く気なんてないぞ?」
さすがに身に覚えのないことでまで肯定する気にはなれないので誤解を解く。
だがそれでもリズは納得できないようだ。
「なあリズ、俺はお前達のおかげでここにいるんだ。それに寝床までお世話になってるしな。だから俺からすればリズもシズもどっちにもすげえ感謝してるし大切にしたいと思う。それじゃだめか?」
やるねぇ。
エルのそんな冷やかしが聞こえてきたが意味の解らないリュースティアはそれをスルーする。
「私たち二人とも大切、ですか。リュースティアさんらしいですね。・・・・まあそんな優しいリュースティアさんが好きなんですけどね、、、、。」
「ん?最後何かいったか?」
「なんでもないです。」
リズに最後の言葉を聞かせる気はない、今はまだ。
でも、いつかきっと伝えよう。
そう決意し、ふと思う。
その時はシズも一緒なのかしら?
「はいはい、相変わらずお熱い事で。もうその変でいいでしょ?エルランドさん、次はなにするんですか?」
もうお腹いっぱいですとでも言いたげにシズがエルランドが呼びに来た本題に戻す。
「ああ、リュースティアの修行が一通り終わったんだよ。ってことでこれから最後の仕上げだ。それにお前らにも手伝ってほしいんだ。」
さきほどとは異なり真剣な雰囲気で話始めたのでこちらも自然と襟元を正す。
こういうところの切り替えはさすがにAランクなだけあると改めて関心する3人。
「何をするんでしょうか?」
リズが緊張した面持ちで尋ねる。
リュースティアだけは二人よりも少しだけ付き合いが長いせいか何となく次に起こる出来事を予想しているのか苦笑いだ。
「もちろん、バトルロワイヤルだ!」
「「えっ?」」
リュースティア以外は話についていけないみたいだ。
さすがにこの流れからバトルロワイヤルをするなんて想像できないからしかたないだろう。
もっともリュースティアは本気の斬り合いとかドラゴン倒してこいとかを言われると思っていたので少し肩透かしだった。
だがそれを悪い意味で裏切るのが脳筋のクオリティである。
「リュー、大したことないとか思ってるだろ?このバトルロワイヤルは特別ルールを設ける。戦うのは俺対お前ら三人。魔法も使用可。なんでもありの実践だ。先にこっちの手を明かしておくけど俺はこの森にいる魔物すべてを使役させてもらうからな。」
やはり脳筋クオリティ、めちゃくちゃすぎる。
いったいこの森にどれだけの魔物がいると思ってる。
しかもなんでもありとか下手すりゃ死ぬぞ。
その恐怖からか隣の二人はすでに固まってしまっている。
「それはいいけどいくつか質問してもいいか?まず、この森にいる全ての魔物をどうやって使役している?実践って言うが死ぬ可能性もあるのか?」
もし死ぬ可能性があるなら2人を参加させる気はない。
「魔物の使役に関してはお前の精霊と俺の仲間に頼んだから詳しくはしらねえよ。魔物との闘いでけがくらいはするかもしれないが死ぬことはない。一瞬で粉々になったりしない限りは安全装置が働くはずだ。」
「なるほど。じゃあやるか。」
「やっぱりリューは話が早くて助かるわ。」
ちょっと待ってください、二人ともなんでそんなに楽しそうなんですか。
私たちは大量の魔物、炎竜王の本気。
それだけで恐怖しか持てません。
そんな死地に赴くみたいなことを平然と提案するエルランドさんも普通に受け入れてるリュースティアさんもおかしいですからね?
私たちには理解できません。
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