第27話 力を持つことの意味

リュースティアです。

この前エルランドに対し真摯に向き合う事を誓った、リュースティアです。

男に二言はないと言いますが二言を許されるなら女性になってもいいと思うところまで追い込まれています。

誰か、助けてください。



*

リュースティアたちがエルランドと修行する地には今日も空を飛ぶ人影があった。

盛大に吹き飛ばされまさに高速で地面に落下中なのはもちろん修行中のリュースティアである。


「あ、今回こそ死んだ。」


目の前に迫る地面に己の死を悟る。

ああ、こんなことなら変な誓いなんてするんじゃなかった。

そんな後悔をするがもう遅い、なぜなら脳筋は手加減を知らないから。


「大丈夫なの!【エアクッション】」


リュースティアが地面に激突する瞬間どこからかそんな声が聞こえる。

そしてその声と共に送られた風がリュースティアを包み落下スピードを原則させ、ゆっくりと地面に落とす。


「あー、死ぬかと思った。サンキュ。」


「えへへ。当然なの!」


そう言ってシルフの頭をなでる。

もちろんリュースティアを救ったのは彼と契約をしている精霊、シルフである。


「ったく、規格外な奴め。精霊が人を助けるなんて初めて見たぜ。つかリュー!お前もっと踏ん張れよ、飛ばされすぎだ。」


「はぁ⁉全力で、しかも魔法まで纏わせた剣で斬りこんできてなにいってんだよ。あんなのくらったら普通は死ぬからな?」


軽い調子で言っているが彼らの修行はもはや修行などと言えるレベルではない。

リュースティアの言う通り並みの冒険者であれば彼らの間合いに入った瞬間に細切れにされるだろう。

それもそのはず、2人は並みの人間が簡単に目視することを許さない速度で斬り合っているのだ。

しかも魔法まで纏わせて斬り合っているにも関わらず彼らが持っているのは


「あ?お前なら死なないから問題ないだろ。それよりお前剣にだけ魔力流せばいいと思ってるだろ?」


むむ?

確かにだいぶこの速度にも慣れたし死ぬことはないけどさー。

仮にも師匠が弟子を殺すつもりで修行つけるってどうかと思うぞ。

殺すつもりでかかってこいならわかるけど殺すつもりでやり合おうってそれもうただの殺し合いじゃん。

まあ脳筋に今更こんなこと言っても聞かないからいいけど、それより魔力を剣だけに流せばいいと思っているってどういう事だ?

最初のころに剣に魔力流せって言われたからそうしてたんだけど。


「だって攻撃するのも受けるのも剣だろ?だったら剣に魔力を流して強化するもんじゃないの?」


「ふつうはな。だが格上の相手と戦う場合それ以外が重要になんだよ。例えばお前が吹っ飛ばされるのは力に体が耐えられてないからなんだよ。しいて言えば足だな。足にも魔力を流すことで下半身を強化して体全体で剣を扱う。そうすると多少強い攻撃をくらっても踏ん張れるってわけだ。」


なるほど。

確かに理屈では吹き飛ばされないだろうし臨機応変に体中に魔力を流して部分強化すれば多少の攻撃なら防げるな。

けどあここまでの高速戦闘でそんなことしている余裕は正直ない。


「理屈はわかったけどさ、さすがにそんな事できる余裕ないぞ?剣に常時魔力を流すだけで限界だ。それにどこに魔力流せばいいか瞬時に判断できそうもない。」


「そんなの気合だ。それにどこに魔力流せばいいかなんて考えなくても分かるだろ。強いて言えば勘だな。」


はい出ました!

まさしく戦闘狂の脳筋らしい答え!

気合と野生の勘ですか、そんなもん凡人には無理です。


「てかさ、そもそも剣みたいに体にも常に魔力流して体を覆っておけばいいんじゃね?それならややこしい操作いらないじゃん。」


「無理だな。そんな散水ホースみたいなことしてたらすぐに魔力が枯渇して動けなくなっちまう。戦場で行動不能は死を意味するからな。そんな危険な賭けは誰もしないんだよ。」


ん?

やらないんじゃなくてやりたくてもできないってことか?

俺、多分普通にできる気がするんだけど。


「なあ、次それやってみてもいいか?」


「別にいいが動けなくなったところで殺されても恨んでアンデットになったりすんなよ?」


あれ、動けなくなったところに斬りこんでくるの?

それはちがくね、、、。

てかアンデッドってやっぱりいるんだ。

さすがファンタジー。


「っつ!くそ。」


「どうした、リュースティア!反応が遅れてるぞ。」


そりゃ急に来られたら遅れるに決まってるでしょ!

なんでいつも急に斬りかかってくんだよ!

”はじめ”、の声はどこいった。




*

「これで終わりだ。」


戦闘開始から30分余り、ついにエルランドがその背に土をつけた。

剣技ではまだまだエルランドのほうが上だがそのエルランドをもってしてもリュースティアの魔力を破れなかったのである。

速さで翻弄しても全身を覆っているので隙をつく意味がない。

それに一向に魔力が尽きる気配がなかったのである。

そして結果的にエルランドの方が先に力尽きた。


「はぁー、参ったな。お前そうとうなバケモンだ。どんなスタミナしてやがる。ガチでやったら面白そうだ。」


「冗談はやめてくれ。エルとガチでやるなんて命がいくつあっても足りない。」


負けたのにどこかうれしそうなエルランド。

自分を負かす存在が久々に現れてうれしいらしい。

自分より上がいるなら自分にもまだ上があると。


「お前みたいなバケモンがいるなら俺もまだ強くなれる。にしてもお前の魔力量はすごいな。剣士より魔法使いの方が向いてるんじゃないか?」


剣士になれって言ったのはどこのどいつだ?


「魔法はいまいち加減がわかんないんだよな。下手に使ってまずいことになるよりは剣のほうがいい。それに風神もいるしな。」


「それもそうか。」


戦闘を終え、今は魔獣の解体をやっている。

先ほど襲ってきたニードルラビットをエルの指示のもと魔石と使用価値のある素材部分に分けていく。

エルは宣言通り剣だけでなく冒険者としての必要スキルもこうして戦闘の合間に教えてくれている。

ちなみにこっちの方が断然教えるのがうまい。



エルランド曰く魔物によって魔石のある位置が違うらしい。

それに魔物によっては武器や薬などの素材になるので魔石だけとればいいというわけでもないようだ。

ここら辺の知識は覚えるしかないと言われ、辟易していたのだがダメ元で備考欄を見てみると魔石の位置や買い取り部位の表示がしてあった。

備考欄様、感謝します。


「なぁ、1つ聞いてもいいか?」


エルランドにずっと聞いてみたいことがあったのだ。


「なんでエルはそんなに強くなりたいんだ?」


「なんだ急に。」


強くなればめんどう事に巻き込まれる。

普通に生きる事ができれば十分だと思う。

がんばって強くなっても強敵に挑んで死んだら意味ない。


「何でって言われてもなぁ。男なら上を目指すもんだろ?その為に死んで本望なんて言わないぜ。俺は大切な人達を、町を、国をを守りたい。大切と一緒に生きたいんだ。なら自分の望みは自分の力で叶えないと。その為には力が必要なんだよ。まっ、命懸けの戦いが楽しくないといったら嘘になるけどな。」


「望みを叶えるための力、、、、。」


「難しく考えんなよ。俺は目の前に敵が現れて大切なものを奪われたとき、何もできなかったって後悔したくないからな。お前だって何もできなかったって膝をつきたくはないだろ?他者を蹂躙するための力じゃない、後悔しない為の力を俺は求めてる。」


後悔しないための力か。

俺は前の世界で運が悪いからと言って色んなことを諦めて受け入れてきた。

それで後悔したことは何回もある。


そっか、後悔も諦めも必要ないことだったのかもしれない。

もしあの時、抗ってさえいれば何かが変わったのかもしれない。

運がなかろうと幸せをつかめたのかもしれない。

だが、前の世界の事を考えたって仕方がない。

ならばどうするか?

そんなの決まってる。

この世界ではどんな運命が待ち受けていようとも自分の力で抗ってやる。

抗って、平凡な生活を手に入れてやる。


「エルにしてはいい事言うな。俺も自分の望みをかなえられるくらいには頑張ってみるかな。」


「おう!そうだな。」


こうして二人はそれぞれの願いを胸に、強くなることを改めて己に誓う。








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