第26話 最強師弟


「はぁ⁉じゃあ何なの、あんたあのAランク冒険者、炎竜王エルランドに弟子入りするっていうの⁉」


朝食の席でリズに今日の予定を聞かれ、エルに呼ばれてると答えたときの事だ。

どうやら勇者パーティというだけあってエルランドはそれなりに有名らしい。

ごめん、三下かと思ってた。


「弟子ってわけじゃないけどな。昨日絡まれたときに稽古をつけてやるとか言いだしたんだよ。俺としてはいい迷惑なんだけど冒険者の手ほどきもしてくれるらしいからな、世話になろうと思ってる。」


「リュ、リュースティアさん、、、。エルランド様が弟子取ったなんて話聞いたことありません。頼まれても戦う事以外には興味を持たない方なので当然引き受けたことはありません。」


戦闘狂のエルらしいな、でもそれならなんで俺を弟子にするとか言いだしたんだ?

まさかサンドバックの代わりとか思ってないよな、、、。


「リュースティア騙されてるんじゃないのー?どうせ本物見たことないでしょ。」


どうやらシズはリュースティアが騙されていると思っているらしい。

まあ、それだけ有名な人が師匠になるなんて都合よくあるわけないもんな。


「本物は見たことないな。けど間違いなく本人だから問題ないよ。」


「どうして、そう言い切れるんですか?もしかしたら盗賊の類かもしれませんよ。」


リズはリュースティアのことを信じていないというよりはただ単にリュースティアのことが心配らしい。

ていうか、こっちの世界には盗賊なんて物騒な奴らがいるのか。


「どうしてって、見たからに決まってんじゃん。言っていることと開示されてた情報が同じだったっしな、嘘はついてないと思う。」


あれ、なんか変なこと言ったかな?

二人の顔が昨日ギルドで見たものと同じになっている。

かわいいけど自重しよ、って言ったよね?


「リュースティアあんた、、。人物鑑定ステイタススルーが使えるの?」


「うん?それが何なのかわからないけどその人の能力とかレベルならわかるよ。けどそれって普通だろ?」


ふつうに備考欄で詳細を調べただけなんだけどそれってみんな持ってる技能じゃないのか?

異世界ファンタジーだし普通だとおもってたよ。


「リュースティアさん、普通の人はそんなことできませんよ。たまに鑑定スキル持ちの人はいますがそれも稀です。」


「なんかあんたってホント変人ね。もういちいち反応するの疲れたわ。リュースティアってホントに人間なの?」


なるほど、これはもしかしなくてもレアスキルなのか。

うん、これからは自重しよう。

だけどシズ、さすがにそれはひどいと思います、、、、。


何を言っても藪蛇になりそうだしさっさと朝食を切り上げてエルのところに行こう。

エルもたいがいだが二人よりはまだましなはず。

そうだよね、エル?



「エル!ごめん、待たせたか?」


待ち合わせの場所に着くとすでにエルの姿があった。

昨日と同じような恰好だが何やら大きな荷物を持っている。

すごーく嫌な予感がするから聞かないでおこう。


「おう、リュースティアか!俺も今着いたとこだぜ。で、そっちのかわいい嬢ちゃんたちは?」


結局2人に押し切られ連れてくる形になってしまった。


「ああ、俺がお世話になっている家の娘で俺の仲間みたいなもんだよ。見ての通り双子で、リズとシズ。2人も冒険者でお前のファンらしい。」


「リ、リュースティア、あんたなんて口を聞いてんのよ!エルランド様に失礼よ。」


「そ、そうですよ。Aランク冒険者、しかも勇者パーティの方なんですよ⁉」


まさか本当にエルランド本人に会えるとは思っていなかったらしく2人と相当驚いている。

ていうかこいつやっぱり偉いのか。

後で聞いたらAランク冒険者は上級貴族並みの扱いを受けるらしい。

だったら伯爵家の令嬢である2人は階級的にもそんなに変わらないしそんなにかしこまる必要ないと思うのは俺だけか?

どうも2人的には冒険者である以上、伯爵家の令嬢と言う身分を捨てているらしい。

もっとも完全には捨てられないので爵位はついて回るらしい。

それはいいんだが俺的には同じくらいの年齢の奴に丁寧語使うの好きじゃないんだよな。

しかも戦闘狂の脳筋だし。


「って言ってるけど、改めたほうがいい?」


「はは、やっぱりお前面白いな。大抵のやつはAランクってだけでへりくだってくるからな。けどそのままでいーぜ。俺、そういうの嫌いなんだよ。そっちの嬢ちゃんたちもかしこまんなくていいぜ。」


うん、やっぱり脳筋だ。

だけど今回ばかりは助かったよ。


「で、何すればいいんだ?俺的には冒険者のノウハウだけ教えてもらえればいいんだけど。」


「つれない奴だなー。男なら力を求めるべきだろ?そーだなぁ、とりあえず試合するか。お前ジョブは?」


それ昨日と同じじぇねーか、、、。


「魔法使い、剣士、双剣士、錬金術師、射手、召喚術師、聖者だな。まだ全部仮だけどとりあえず風魔法と雷魔法なら使える。」


「うそ、リュースティアさんいつの間にそんなに魔法が使えるようになったんですか⁉」


ん、昨日ですが?

無知って怖いですね、まずいことをしても何がいけないかわかりません。


「魔法が使えるのに魔法使いじゃない。どういうことだそれ?」


「はい。リュースティアさんは昨日冒険者登録をしたんですけどその時には確かにすべて仮でした。なので昨日の時点で魔法が使えなかったのは間違いないと思います。」


うん、それは事実だ。

だから練習してたわけなんだけど。

シルフも手伝てくれたしなぁ。


「うそ、1日で上級魔法まで⁉」


「じゃあお前たった1日で魔法を習得したのかよ。っは、面白いなぁ。でもそれなら魔法使いになるのか?あいにく魔法は俺得意じゃないんだよ。」


「いや、特に決めてないよ。」



「よし、じゃあ剣士になれ!ってことで俺と試合な。とりあえず獲物をだせ。」


結局それか、、、。

つかもともと剣以外教える気なかっただろ。

そんなことを思ったが言われた通り昨日買った愛刀“風神”をストレージから取り出す。

脳筋には何を言っても無駄だからね。


「お前、それ魔剣か⁉さすがに魔剣はなしだ。楽しくなって試合じゃなくなりそうだしな。」


おいおい、まさかとは思うけど命がけの試合しようとか言いださないよな?


「あいにく今はこれしかないんだ。」


「じゃあこれ使えよ。これなら魔剣の練習にもなる。」


そう言ってエルは持っていた鞄から木刀のようなものを取り出す。

どうやらあのかばんは修行で使う用の道具類が入ってるらしい。

凶悪なものも交じっていた気がしたが見なかったことにしよう。

知らぬが仏、、、。


「これは?」


「これは使う人の魔力と同調してくれる。剣に魔力を流して強度を上げたり、切れ味を出したり、伸ばしたり太くできたりする。だが魔力制御と放出にムラがあったりすると剣にはじかれるから気を付けろ。じゃ、説明もしたし、殺ろうやろう。」


そう言うが早いか一気に間を詰め切りかかってくる。

おい、本気でやりあうつもりか?


っつ。

最初の一太刀を何とか躱す。

だがその時にはすでに次の刃が繰り出されていた。

くそ、考えてる時間はない。

エルの2太刀も躱そうとしたが躱しきれず剣で受ける。

2人の木剣が低い音をを響かせ交差する。

一瞬のつばぜり合いはエルランドに軍配が上がった。


「くそ、同じ剣なのになんでだ⁉」


「だから言ったろ。魔力操作が下手だと打ち合ったときに簡単に折れちまう。それに魔力はただ流すんじゃなくてイメージして流すんだよ。力勝負なら厚く重く、速さ勝負なら軽く鋭く、そんな感じだな。」


いや、初耳ですが?

でもなるほど、イメージか。

とりあえず断続的に魔力を流しつつ、魔力の質を変えていけばいいってことか。

うん、理屈はわかるけどさ、初心者には無理じゃね?


だがエルランドはそんなリュースティアなどお構いなしに次の木剣を渡してきた。

そしてまたもリュースティアが構える前に切り付けてきた。


「っつ、くそ。」


「リュースティア、相手をよく見ろ!目先の動きだけに惑わされるな。常に二手、三手先を読め。」


んなことできるか!

お前の剣が早すぎてよけるだけで精一杯だっつうの。


「っざけんな。これでどうだ!」


カウンターでエルの隙をつく。

もらった!


だが次の瞬間リュースティアの手から剣が落ちる。


「見え見えの隙に飛びつくな!大振りの一撃は相手にか躱されたときに対処ができなくなる。使いどころは考えろ。」


わかってはいたがやっぱりエルは強い。

さすがに勇者パーティなだけはある。

魔法や魔剣が使えればわからないが純粋な剣技だけなら間違いなくエルのほうが上だ。

しかも脳筋の野生型とばかり思っていたが考えて攻撃しているみたいだ。

ただの野生の勘かもしれないが。

でも弟子にすると言っていただけあってきちんと教えてくれているので文句ばかり言ってられない。


「うお、あぶね。次、いくぜ!」


リュースティアは決めた。

エルの正式な弟子になろうと。

そして誓う、最後まで逃げずにやり遂げようと。

強さや名声に興味はないがエルが真剣に俺を鍛えようとしてくれている。

それならば俺もきちんと向き合い、取り組むべきだと思ったのだ。

それに強くなればそうそう死ぬこともないしね。



そうしてこの日、正式に世界最強の師弟が誕生した。

だが、それは生半可なものなどではなく、リュースティアは何度も地獄を見ることになる。



そして後悔する。

あんな誓いするべきじゃなかった、と。






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