第25話 スイーツは甘くて苦い。


「リュースティアさん、これは何ですか?」


リズはリュースティアが持ってきたスイーツを見て首をかしげている。

先ほどまでは恥ずかしさからか顔も見れなかったにも関わらず今は目の前の見たことのない食べ物に心を奪われている。


「これは“スフレ・パンケーキ”っていうんだ。BPが見つからなかったからそのぶんメレンゲをしっかりめにして卵黄の方も立てたからふんわり食感は大丈夫だと思う。」


「“ぱんけいき”ですか?という事はこれはパンの一種と言う事でしすか?」


ケーキはないくせにパンはあるらしい。

相変わらずわけのわからない世界だな。

パンがるならケーキがあってもおかしくないと思うのは俺だけだろうか?


「まあいいからさ、食べてみなって!こうしてはちみつをかけて食べるのが一番シンプルな食べ方だな。」


そういって持ってきた一枚にはちみつをたっぷりとかけてリズに渡す。

いろいろな味を楽しんでもらいたかったから1枚ごとのサイズは小さめだ。

これからもっと驚いてもらいましょうか!


「ん!なにこれ、美味しい!美味しいです、リュースティアさん!甘くてとてもふわふわしてます。それに何とも言えない風味がありますし、何よりはちみつととても会います!」


どうやらお気に召してもらえたようだ。

全力の笑顔で美味しいと伝えてくれている。

やっぱり自分の作ったものを美味しいと言って食べてくれるのはうれしい。

ちょっと照れくさいがつられてこっちも笑顔になってしまう。


「そんなに喜んでくれるとリズの為に作ったかいがあるってもんだ。」


「わ、私の為、ですか?」


リュースティアが自分の為にこれを作ってくれたことに驚くと同時にうれしくもあった。

てっきり父が新しいものをねだったのかと思っていた。


「うん。そうだよ。リズが部屋にこもってるって聞いたからこれ食べたら元気になるんじゃないかなって思って。うまいものを食べれば笑顔になれるだろ?今のリズみたいにさ。」


「リュースティアさん、、、。」


部屋にこもっていた理由なんてただ恥ずかしくて他の人に顔を合わせ辛かっただけで、リュースティアさんには何も関係ないのに、、、。

むしろリュースティアさんには一番迷惑をかけてしまったというのに。

それなのに私の心配をして、私の為にこんなにおいしいものを作ってくれるなんて。

リュースティアさん、優し過ぎます。


リズは目の前で次の食べ方を必死に説明しているリュースティアを見ながらそんなことを考えていた。


「くすくす。リュースティアさんほど一生懸命説明してくれる人は初めてですね。」


そんな様子がおかしくて、可愛くてつい自然と笑みがこぼれる。


「うん、リズはやっぱり笑った顔の方がいいな。笑ってた方が何倍も可愛い。」


「か、可愛い/////。そ、そんなことありません。私なんて。」


「そうか?俺の主観だけどじゅうぶん可愛いと思うそ。」


しれっとそんな事を言ってくるリュースティア。

普段はヘタレの癖にこういう事だけははっきりと言う。

しかも言っていることはお世辞などではなくまぎれもない本心なのでなお質が悪い。

それが今までどれだけフラグを建築してきたかなどは言う必要はないだろう。

実際、前の世界でもその優しさと裏表のない性格からリュースティアに好意を持つ人は多かった。

だがどこかの鈍感主人公よろしく、リュースティアもそういった異性からの好意に対して疎かったのである。

自分に対してのコンプレックスが強いせいか好意をよせられても面倒を見てくれているなぁくらいにしか思えなかったのである。


「もう、リュースティアさん。勘違いしちゃいますよ?」


だから当然リズにそういう事を言われても全く理解できないのである。

それがヘタレのヘタレたる所以なのかもしれない。


「何を?それよりさ、次はこれと食べてみて!これは生クリームっていって創造のスキルで作ったものなんだけど。考えてみればバターがあって生クリームがないわけないもんな。」


そういって今度はパンケーキにはちみつではなく白い泡のようなものを乗せて渡してくれた。


「これは、、、、!白くてふわっとしてなんとも言えない口当たりですね。でも何でしょう、ほのかにオレンジ、ですか?そんな香りがします。」


「お、さすがリズだな。スキルで作ったはいいけど少し乳臭いものになちゃってさ、オレンジのお酒を入れて”シャンティ・オランジュ”にしてみたんだよ。柑橘系だと臭みも消えるし、パンケーキによく合うんだよな。それにしても風味程度なのによくオレンジって分かったな。さすが。」


「えへへ、リュースティアさんのおかげかもしれないですね。」


リュースティアの言っていることは半分以上理解できなかったが褒められただけでうれしい。

いつかリュースティアさんと、、、、。


「俺のおかげ?よくわかんないけどシズよりましなことは間違いない。」


「シズ?」


どうしてここで妹の名前が出てくるのか、何となくオチが見えた気がした。


「ああ、最初にシズに試食してもらったんだけどあいつなに食べてもうまいしか言わないんだよ。まあそれでも喜んでくれてるのはわかるからいいんだけどさ。」


「このぱんけいきはシズが最初に食べたの?」


「ん?だって、リズになんかプレゼントでもして元気出してもらえってアドバイスくれたのはシズだからな。それに俺がうまいと思っててもこっちの人の口に合うかわかんなかったし。」


やっぱりシズの差し金でしたか。

途中からそんな気はしてましたけど、、、。


「リュースティアさん、今日はそういう事にしてきますね。でも、いつまでも知らないではすみませんよ?覚悟しといてください。」


満面の笑みでそう宣言するリズ。

きっとリズは疎いリュースティアをいつか振り向かせる、言外にそう宣言しているのだろう。


「ん、なにが?」


パンケーキを頬張る鈍感リュースティアがリズの想いに気づくのはいつになる事やら。

リズの恋路は長い道のりになりそうだ。




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