第24話 ご機嫌取りはスイーツで。


リュースティアは風神を手に入れたあと、屋敷に戻らず市場に来ていた。

とあるお菓子を作る食材を買うためだ。


もともと新しいお菓子は作ろうと思っていたのだが今日作るのには理由がある。


「リュー、ダメなの。リズ部屋から出てこないの。何を言っても返事してくれないの。」


リズの様子を見に行ってもらっていたシルフからの念話である。

どうやらギルドを飛び出したあとそのまま屋敷に帰り呼びかけても無反応で部屋からも出てこないらしい。


「なぁ、シズ。リズが部屋から出てこないらしいんだけど心あたりあるか?」


リュースティア的には全く心当たりがなかったので武器屋からの帰り道、シズにシルフからの念話の内容を伝え心当たりがないか尋ねる。

だがシズの口からは言いにくいのか教えてはもらえなかった。

その代わりプレゼントでもあげればとのアドバイスをもらったので市場に来てみたというわけだ。

だが彼女などいたことのないリュースティアは当然女性にプレゼントなど送ったことがないので結局スイーツに落ち着いたのである。


「なに作ろっかなー。そもそも地球の材料ってこっちにあるのか?」


そういえば、と思い試してみたかったマップ検索の技能を試す。

人や場所が検索できるなら食材も検索できると考えたのだ。

そして、創造特権のスキルも自分の知識によるものだったので仮にこちらの世界での名前が違ってもりゅーリュースティアが思い描いているものを表示してくれるはずだと、思っている。


「さてと、何個か検索に引っかかったな。これは俺のイメージに近いものを表示してくれた感じか?とりあえず近場から見ていくか。」


リュースティアのマップにはいくつかのお店がヒットしていた。

現地名で表示されてもどんなものかわからなかったので仕方なく近場から回ることにする。


「おっちゃん、その壺に入ってるやつ見せてもらてもいい?」


「ん?なんだ小僧、ほらよ。少しくらいなら味見していいぜ。」


なんだかニヤニヤしながら壺を渡してくる店主から壺を受け取り、中身を確認する。

想像通りのものなら味見なんかしないだろうと思うかもしれないけどさ、店員としてそれを面白がるのはどうかと思う。

そんなことを考えながら中身を確認する。

うん、匂いは間違いなくあれだ、味は、、、。

間違いない!

“バター”だ。


「おっちゃん、バターだよ、バター!これって塩はいってるやつ?」


まさか味見するとは思っていなかったのか興味津々でこちらの様子をうかがっている店主に気になったことを尋ねる。

有塩バターでもお菓子に使えないことはないが無塩の方が使いやすいのであるなら無塩バターが欲しいところだ。


「あん?バター?こいつは“ミルシェ”ってんだ。精製途中のなら入ってないがそれじゃあ味しないがいいのか?」


「それでいいい。ちなみにこれはなんの乳から作ったやつ?」


食べた感じだと獣臭さや乳臭さがあまりなかったので変な動物ではないだろうけど何となく気になる。


「ミルシェは知らないくせにこれが乳からできてんのは知ってるのか。これは“カース”っていう動物の乳から作ったやつだな。」


カース?

牛みたいなやつかな。

あとで調べるとして、とりあえず無塩のもあるみたいだしこれ買っていこう。


「おっちゃん、これもらうよ。塩の入ってない方な。いくら?」


「へい、まいど!1つ銅貨5枚だ。しかしずいぶん変わった小僧だな。まさかほんとに食べるとは思わなかったぜ。」

 

銅貨5枚、備考欄に表示されている相場は3~6だし、こんなものか?

だが変な奴とは侵害だな。


「おっちゃん、知らないのか?食に携わるものは食材の味を知らないとダメなんだよ。食材そのままの味がわからないんじゃどう調理していいかもわからないからな。」


「なるほど、そいつはすまなかったな。 お詫びと言っちゃなんだがついでにこれも持ってけ。さっき絞ったばっかりのカースの乳だ。」


口は悪いけど悪い人じゃなさそうだしこれからも利用させてもらおう。

しかしこっちは強面が多いけど優しい人も多いな。


「サンキュ、じゃあミルシェ1つもらうね。足りなくなったらまた来るわ。」


「おう、まってるぜ。料理人の小僧、早く使いきれよ。」


「俺、冒険者なんだけど、、、、。」


「・・・・・・・・・・。」


何か言いたそうな店主をその場に残し屋敷へと急ぐリュースティアなのであった。

きっとその場にいた人は皆思っただろう。

何でやねん、と。




目的のものを見つけたリュースティアは満足顔で屋敷に帰ると早速調理に取り掛かる。

リズたちの喜ぶ顔を思い浮かべ幸せな気持ちになる。

きっとおいしいものができる、そう確信した。





コンコン。

部屋をノックする音が聞こえた。

誰でしょうか?

でも、誰でも関係ないです。

今は誰にも会いたくないですし、はずかしくてとてもじゃありませんがか会えそうもありません。

人前でリュースティアさんに抱き着くなんて、はしたないと思われても仕方ありません。

きっとリュースティアさんにも嫌われてしまいました。


リズが返事をしないまま一人でそんなことを考えていると廊下の人物がためらいながらも声をかけてきた


「えーと、リズ?俺だけど。その、、、。」


うそ⁉

リュースティアさん⁉

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

恥ずかしくてとてもでではありませんが顔を見れそうにありません。

でも、でも、もしかしたら嘘でも心配してきてくれたのでしょうか?

それはうれしすぎます。

、、、、、覚悟を決めるしかないようですね。


「は、はい。なんでしょう?」


「大したことじゃないんだけど、できれば扉、開けてもらってもいいか?」


リュースティアに言われて慌てて扉を開ける。

伯爵家令嬢の部屋と言う事もあって部屋の中には応接用のテーブルとソファーが置いてる。

それ以外はピンクや黄色を基調とした女の子らしい部屋だ。


「す、すいません。それでなんでしょうか?」


「いや、シルフから部屋にこもってるって聞いて、、、。」


ううー、今はリュースティアさんの優しさがつらい。


「だ、大丈夫です。ちょっと色々思う事がありまして、、、、。」


「そっか。まあいいや。なんか悩みがあってもこれを食べればきっと元気になるからさ、一緒に食べないか?」




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