第21話 Aランク冒険者
「なんだよ、別に逃げなくったっていいだろ?」
逃げようとしたリュースティアの前に一人の男が立ちふさがる。
目の前に現れたのは髪を短く切りそろえた金髪のガタイのいい青年だ。
先ほどマップで検索したときはヘルハウンドが15体いる以外には近くに人はいなかった。
それなのに彼はどこからともなく姿を現した。
リュースティアは警戒のレベルを引き上げる。
「おいおいおい。そんなに警戒しなくても何にもしねーって。俺は”エルランド”だ。お前も冒険者なんだろ? 何ランクだ?」
警戒したまま口を開かないリュースティアに痺れを切らしたのか男の方から名乗ってきた。
備考欄の詳細を見る限り彼は嘘をついてはいない。
そこには勇者パーティ所属のAランク冒険者となっていた。
レベルも56とギルドマスターには及ばないもののかなり高い。
だがそのレべルよりも彼の纏う空気が確実に彼が強者であることを伝えてくる。
しかし悪意や敵意と言ったものは感じない。
なのでリュースティアは警戒を解き彼の質問に答える。
「俺はリュースティア。ついさっき冒険者になったばかりのひよっこだよ。」
「そうか。」
そうつぶやいた後、彼の姿が視界から消えた。
そして気が付いた時にはリュースティアは地面に組み伏せられていた。
「な、なにすんだよ。」
「知らない奴を前に警戒を解くな。自分よりもレベルが高い奴の前で警戒を解くなんて自殺行為だぞ。」
どうやら冒険者の先輩として指導してくれたみたいだ。
それにしては荒っぽすぎないか?
どうせなら言葉で言ってほしかったと思いつつも口には出さない。
どうやらこのエルランドという人は見た目のさわやかイケメン風とは異なりずいぶんと荒っぽすい性格をしているみたいだ。
「で、エルランドさんは俺に何か?」
差し出された手を取り立ち上がりながら訪ねる。
急に組み伏せられたので少々あたりがきつくなってしまった。
「遠くからヘルハウンドの群れがお前を襲ってるのが見えてな。服装からして町人かと思って助けに来たんだよ。そんで来てみたはいーもののヘルハウンドがまる焦げになってるじゃねーか。んなもんでお前に興味をもった。」
どうやら言い方がきつくなったことは気にしていないみたいだ。
興味を持ったという言葉に少し不安を覚えるが聞かなかったことにしよう。
「そうですか。じゃあ俺はもう街に戻るんで。」
「おい。このヘルハウンドはどうすんだ?」
早々に立ち去ろうとしたのに呼び止められてしまう。
どうするもなにも魔獣の死体の使い道なんて知らないし別にほしくもない。
「どうするって?」
「冒険者の癖にそんなこともしらねーのか? 魔獣には魔石ってのがあってそれをギルドに持ってくと換金してくれんだよ。なんでも魔石は魔道具とかを作るのに必要らしいからな。魔石以外にも皮や爪、牙なんかは武具屋とか魔法屋なんかで買い取ってくれる。この量ならそれなりの金になると思うぜ。」
なるほどそんな使い道があるのか。
街に戻ったらギルドに行ってそこら辺の講習をしてもらえないか頼んでみよう。
そんなことを考えていたらエルランドに声をかけられた。
「よし、リュースティアとかいったな?いっちょ試合してこーぜ。言っとくけど魔法はなしな。被害がでかくなりそうだし。さ、早く構えろ。」
「はい?」
いきなり試合とかどこの戦闘民族だよ⁉
そんなことを内心でツッコんでみたが当然誰にも届かんない。
そしてそんなことをしている間にもエルランドは剣を構えてこちらに向かってきている。
問答無用ですか?
一時間後。
広場には肩で息をする満身創痍のリュースティアがいた。
あれからエルランドと剣を交えたが一回も彼に勝てなかった。
やはりレベル1の素人と百戦錬磨の戦いで鍛え上げられた玄人では戦いにもならないらしい。
「んー、力はあるんだけどどこかぎこちないんだよな。冒険者になりたてっていうのは本当っぽいな。」
涼しげな様子のエルランドがそんなことを言ってくる。
「はあはあ、だから最初からそう言ってんじゃないですか。剣の使い方も戦い方も知らないって。さっきのヘルハウンドはたまたま魔法がうまく機能しただけだって。」
そう、リュースティアはエルランドと剣を交えている間に何度もそう言ったのだが一切聞く耳を持たなかったのだ。
「となるとこのままお前を放置するには少々もったいないな。よし、リュースティア、お前俺の弟子になれ!」
「お断りします。」
速攻で断りを入れるリュースティア。
まさか断られるとは思っていなかったのか口を開けたまま固まっている。
「な、なぜ断る。俺の弟子になれば強くなれるんだぞ⁉」
「いや、別に強くなりたいとか思ってないし。そもそも戦闘狂みたいな人が師匠とか絶対無理。普通に死ぬから。」
それもそのはず、リュースティアの夢は平和に普通に生きることなのでそこに強さは必要ない。
冒険者になったの仕事が必要だったのと最低限の自衛手段を身に着ける為だ。
だから言ってしまえば魔法を覚えた時点で目的は達成している。
「な、ならお試しでどうだ⁉冒険者の最低スキルとして魔石の取り方に魔獣の解体まで教えるぞ!」
んー、なかなか引き下がらないなぁ。
魔石の取り方なんかはギルドでも教えてもらえるだろうし、解体に関してはグロそうなのでやりたくない。
どうやって断ろう。
そんなことを考えているとエルランドが魅力的な条件を出してきた。
「なら他の領地への通行許可はどうだ!これさえあればめんどくさい申請手続きなしで領地に入れてもらえるぞ。」
それは魅力的だ。
せっかく異世界に来たんだから観光もしたい。
それにもしかしたら他の地にならスイーツがあるかもしれない。
対価は脳筋との修行。
なかなか迷う選択だ。
しばらく迷ったが魅力的な誘惑にはかなわなかった。
「その条件でお願いします。エルランドさん。」
「よし決まりだな!じゃあ街に戻って宴だな。あと、俺の事はエルでいい。教えると言っても剣を交えた以上は戦友だからな。」
契約成立。
こうしてリュースティアは異世界に来て師匠と言う名の戦友を得た。
条件が魅力的だったというのはもちろんあるが途中から泣きそうな顔で嘆願してきたエルランドが気持ち悪かったというのもある。
男の泣き顔なんて誰得だ、、、、。
ちなみにヘルハウンドは後日解体を教えてくれるという事なのでストレージに保存してある。
その様子を見ていたエルグランドが目を丸くしていたが細かいことを気にしない性格の彼はそのことに言及してこなかった。
故にここでも彼の異常性を気にするものはいなかった。
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