第18話 知らぬが仏

 

「あ、そうそう。はいこれ。」


シズがそう言って巾着を鞄の中から取り出し、渡してきた。

中身を確認すると大小さまざまな硬貨が入っている。

どうやらリュースティアが持っていた白金貨を両替してくれたものらしい。

使い勝手を考えて金貨に変えるだけでなく銀貨や銅貨にも変えてくれたらしい。

やるじゃん、と思ったが用意してくれたのは二人ではなく執事さんらしい。

さすが本物は違うと変な意味で感心する。


「サンキュ。なあちなみに金貨何枚で白金貨になる?」


「はぁ。そんなことも知らないなんてやっぱりただの馬鹿なのかしら?」


「えっとですね、金貨10枚で白金貨1枚、銀貨50枚で金貨1枚、銅貨100枚で銀貨1枚です。それより下になると銭貨と言うのがあるんですけどこれは貧民街などでしか使われてませんね。逆に白金貨は商人などの取引や貴族街以外では使われていません。」


いつも通り、シズが呆れて馬鹿呼ばわりし、リズが説明してくれる。

こっちの世界に来てから馬鹿にされすぎシズの馬鹿呼ばわりも大して気にならなくなってきた。

無知な自覚もあるので反論もできない。

だってしょうがないじゃん。

こっちの世界ビギナーだよ?


さすがに聞きすぎかな~とか思うけどそこは聞かせてほしい。

聞かないで命に関わるとか嫌だもん。


「なるほど。ん、それだとこれ多くないか?おれ白金貨1枚しか持ってなかったはずだけど。」


そう、リュースティアが受け取った袋には金貨10枚に銀貨250枚、銅貨が150枚が入っていたのである。


「なに、あんたバカのくせに計算はできるのね。」


「多い分はぷりんのレシピ代とのことです。多少色は付いていると思いますが大体相場になってるとおもいますよ。」


なるほど、思ってもみない収入だ。

街の露店を見た限り食品関係は銅貨数枚で買えるみたいだしかなりの大金を手に入れたことになる。

これで資金はいいとしてあとはやっぱり自衛だな。

少なくとも自分の身は自分で守れないとせっかくの二度目の人生が秒で終わってしまう。

武器や防具はわからないからあと回しにするとして。

剣も無理そうだし、ってなると“魔法”か。

幸い魔力量は多いみたいだしシルフにでも教えてもらえば何とかなるだろ。

よし、そうと決まれば。


「ここら辺で魔法の練習できるところある?」


「原則、領内は魔法が禁止されているんです。なので城壁の外に行くしかないですね。ここから近いところだと私たちが会った草原か裏門から出たところにある森あたりだと思います。」


「近いのは?」


「近いのは裏門ね。けど、「さんきゅ!夕飯には戻るよ。」」


シズの言葉を最後まで聞かずすぐに走り去ってしまったリュースティア。

武器も持たず、防具もつけず、そして大量の硬貨をもって。


森には肉食の野獣やレベルの高い魔獣が出るから行かない方がいいわよ。

そんなシズのつぶやきが彼の走り去ったあとに虚しく響いていた。


あ、あいつ死んだな。

そんなことを思う二人であった。

薄情かもしれないがこのレベル的に考えて二人では森に入ってもリュースティアを助けるどころか魔獣の餌を増やすことになりかねない。



「よし、とりあえずここで良いか。シルフ出てきてくれ。」


リュースティアは薄暗い森の少し開けた場所にいる。

あれから一度伯爵家に戻るという分別はあったらしく、旅をしていた時のリュックもどきに食料と水、サバイバル道具などを詰めてきた。

ちなみにお金は最低限以外は置いてきてある。


「な~に? あれ、リュー遊んでくれるの⁉」


「遊びはまた今度な。魔法を覚えたいんだけど教える事できるか?」


遊びたい様子のシルフには悪いがここは我慢してもらおう。


「魔法は魔力をぐ―ってやって、バンって打つの!」


んー、さすが幼稚園児。

全くわからん。


「とりあえずやってみるからさ、一番簡単な呪文ある?」


「気が合わない魔法は使えないの。精霊たちがが無視するの。」


なんだ、つまり性質とかで適正があるってことか?

で、適性がないと精霊が無視するから魔法が発動しないと。

逆に適正があれば精霊が協力してくれるから魔法が使えるってことか?


「それ適正とかってどうやったらわかるんだ?」


シルフと契約してるからには風魔法とやらの適正はありそうなんだが、いきなり試して暴発とか怖すぎる。


「んー。んーと、リューは大丈夫なの!リューはきらきらしててみんなが祝福してるの。だから精霊たちはみんなリューが好きなの。」


「きらきらって?とりあえず精霊に好かれてるってことは無視される事はないのか?」


「きらきらはきらきらなの!とりあえずリューはやってみるといいの。【ソフト・ウィンド】暑い時にこの魔法使うと涼しくなるの。」


その言葉がトリガーらしくあたりに頬をくすぐるような風があたりを抜けていった。

ちなみにシルフは

シルフは風の精霊なので風魔法に関しては詠唱を必要としない。

今まで詠唱をしていたのは詠唱したほうが威力の調節をしやすいからである。

これは精霊であるシルフだからできることであって普通の人は詠唱によって魔力を練り、操作することによって魔法を発動させる。

その為、詠唱を省略すると効果が下がったり必要量以上の魔力を消費したりしてしまう。

もちろん熟練度が上がれば短文詠唱でも問題なく使えるのだが、初心者であるリュースティアが詠唱をしないで魔法が使えるわけがないのである。


「扇風機の代わりになりそうな魔法だな。えっとなんだっけ、【ソフト・ウィンド】」


その瞬間先ほどよりも強い風が二人のいる広場を駆け抜けていった。


「おっ、今のできたんじゃね? 何となく魔力の流れも分かったし、意外といける気がする。」


「さすがリューなの!シルが選んだりゅーなの。」


一発で成功したことに喜ぶ2人。

ここにこの異常性を理解できる人間はいなかった。



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